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エリクソンが提唱した「ライフサイクル論」とは?年齢別の発達課題をわかりやすく解説

2022/01/24

ライフサイクル論とは、心理学者のエリクソンが提唱した発達段階論。人間の成長過程を「乳児期」「青年期」「成人期」といった8つの段階に分け、それぞれの段階における課題を示したものです。

発達段階ごとの特性や課題を理解することは、子どもとの向き合い方を考える上でも参考になります。今回の記事では、エリクソンの発達段階論をわかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

心理学者エリクソンってどんな人?

まずは「ライフサイクル論」を提唱した心理学者、エリク・ホーンブルガー・エリクソン(Erik Homburger Erikson)の人物像をご紹介します。

ドイツ生まれのユダヤ系デンマーク人

エリクソンは、1902年にドイツ・フランクフルトで生まれました。母親はユダヤ系デンマーク人で、父親は不明。母親は最期まで、エリクソンの実父が誰であるかを明かさなかったそうです。

エリクソンは金髪で青い目の持ち主だったことから、ユダヤ教会では「異教人」、学校では「ユダヤ人」と呼ばれ、差別を受けて育ちました。

こうした幼少期の経験は、その後のエリクソンの思想に大きな影響を及ぼすことになります。

ウィーンで弟子入りして精神分析家に

エリクソンは高校卒業後、画家を目指して芸術学校に進学しましたが、挫折してしまいます。

すっかり無気力状態になっていたところ、親友からの紹介を受け、ウィーンで教師の仕事をすることに。そこで精神分析家アンナ・フロイトの弟子となり、精神分析論を学びました。エリクソンは児童の分析ですぐれた才能を発揮し、31歳で精神分析家の資格を取得するに至ります。

さらに同年、ドイツはナチス政権となり、エリクソンは脅威から逃れるためにアメリカへ亡命しました。

アイデンティティの概念を提唱

アメリカに移住後、エリクソンはボストンで児童分析家として開業し、複数の病院での研究員も務めました。そして、イェール大学、カリフォルニア大学、マサチューセッツ州オースティン・リッグス・センターへと移り、病院や大学、研究所などで実績を積み重ねていきました。

エリクソンは「アイデンティティ」の概念を提唱したことでも有名ですが、この考えに至ったのはマサチューセッツで境界例(境界性人格障害)の患者と接したことがきっかけとされています。アイデンティティとは「自分は何者なのか」を定義する概念で、エリクソン自身の幼少期の経験も大きな影響を与えたと言えるでしょう。

エリクソンのライフサイクル論とは?

そもそも発達段階論とは、人間の成長過程を身体的・精神的な発達に応じて区分したものです。エリクソンのほかに、ジグムント・フロイト(アンナ・フロイトの父)、ピアジェ、ハヴィガーストなど、さまざまな学者が提唱しています。

エリクソンが提唱した発達段階論は「ライフサイクル論」と言い、人間の生涯を8つの発達段階に分けて、各段階における発達課題を示しています。エリクソンの理論は、フロイトの「心理性的発達理論」に心理社会的な視点を加えたもので、「心理社会的発達理論」とも呼ばれています。

8つの発達段階と課題【一覧表】

エリクソンが提唱した発達段階についてまとめました。年齢はあくまで目安となりますが、人間の生涯がライフステージごとに8つの段階に分けられています。

エリクソン 発達段階 発達課題

「発達課題」「心理社会的危機」「人格的活力」の関係性

エリクソンはそれぞれの発達段階において達成すべき「発達課題」と、それに相対する葛藤「心理社会的危機」を示しました。これらは【基本的信頼 vs 不信】のように対立する2つの性質で表現されています。

そして、課題をクリアすることで得られるのが「人格的活力」です。人格的活力とは、言い換えれば「よりよく生きていくための力」であり、次の段階への発達に繋がる重要なものと言えます。

このように危機を乗り越えることで次の段階へ進み、生涯を通じて発達していくというのがライフサイクル論の考え方です。

ハヴィガーストの発達段階論との違い

エリクソンの発達段階論とよく比較して用いられるのが、アメリカの教育学者ハヴィガーストの発達段階論です。

ハヴィガーストは生涯を「幼児期」「児童期」「青年期」「壮年初期」「中年期」「老年期」という6つの発達段階に分け、各段階における発達課題を6~10個ずつ具体的に示しました。

精神的な成長に注目したエリクソンに対して、ハヴィガーストは次の3つの側面から課題を挙げているのが特徴です。

①身体的成熟から生じる課題(歩行の学習など)
②社会的・文化的な圧力により生じる課題(読み書きの習得、社会規範の習得など)
③個人的な価値観や要望により生じる課題(職業の選択、人生観の形成など)

一方で、生涯を通じて発達するという「生涯発達」の考え方と、発達課題を達成すれば次の段階にスムーズに進むことができるという「連続性」の考え方は、エリクソンとハヴィガーストの理論の共通点と言えます。

年齢別!発達段階ごとの特徴と課題

続いて、エリクソンの発達段階について具体的に確認していきましょう。

【乳児期】基本的信頼 vs 不信

赤ちゃんはお風呂を出た。
kuppa_rock/gettyimages

0歳~1歳半頃は、発達段階の「乳児期」にあたります。

乳児期にクリアすべき発達課題は【基本的信頼 vs 不信】です。

赤ちゃんは一人で生きていくことはできません。そのため、世話をしてくれる周囲の存在が不可欠です。たとえば、お腹が空いたときに、授乳してくれる人がいるということ。このように周囲の人が適切な世話をしてくれることによって、「他人を信じても大丈夫」という【基本的信頼感】が育まれていきます。

そして、基本的信頼感を得ることで<希望>が生まれます。希望は安心に繋がり、その後の人生で良好な人間関係を築き上げていく土台となります。

しかし、育児放棄や虐待などにより、欲求が満たされない状態が続くと、赤ちゃんは「泣いても誰も助けてくれない」と思うようになり、世界に対して【不信感】を抱きます。時には欲求がすぐに満たされない経験も必要ですが、「不信」よりも「基本的信頼」の方が上回ることが大切です。

【幼児期前期】自律性 vs 恥・疑惑

日本の女の子 (3 歳) の誕生日ケーキを食べる
ziggy_mars/gettyimages

1歳半~3歳頃は、発達段階の「幼児期前期」にあたります。
幼児期前期にクリアすべき発達課題は【自律性 vs 恥・疑惑】です。

この時期になると全身の筋肉が発達してきて、言葉を発したり、歩けるようになったり、排泄をコントロールできるようになったりと、自分でできることが増えていきます。

実際はまだ上手にできないことの方が多い頃ですが、「自分でできる」「うまくできたら褒めてもらえる」という経験を積み重ねることが大切。たとえば、スプーンやフォークでの食事や、トイレトレーニングなどです。成功体験を得られると自信に繋がり、【自律性】が身に付いていきます。そして<意志>が芽生え、その後の人生での積極性や自発性に繋がっていきます。

一方で、自分で挑戦する機会を得られなかったり、何をやっても怒られてばかりだと「また失敗して怒られるかも」「信じてもらえていないのかも」という気持ち【恥や疑念】が大きくなってしまいます。失敗も必要な経験です。親は焦らず見守ってあげることを心がけましょう。

【幼児期後期】自発性 vs 罪悪感

遊ぶ少女の公園
Hakase_/gettyimages

3歳~6歳頃は、発達段階の「幼児期後期」にあたります。
幼児期後期にクリアすべき発達課題は【自発性 vs 罪悪感】です。

幼児期前期に意志が芽生えると、自分で考えて行動する【自発性】が身に付いていきます。「なんで?」「どうして?」という質問を繰り返す “ なぜなぜ期 ” を迎えたり、ごっこ遊びをしたりするのもこの頃です。

ただ、この頃はまだ善悪の判断がつかないもの。自発的に行動してみたものの、自分の思い通りにいかずに、友達と喧嘩したり、親から注意されたりして【罪悪感】を覚えることもあるでしょう。こうした罪悪感は、社会規範を身に付けるためには必要なものです。

しかし、子どもの自発的な行動に対して、親がめんどくさい態度をとったり、あまりに厳しく注意したりすると、「自発性」より「罪悪感」が強くなってしまい、自発的な行動を妨げてしまいます。子どもの自発的な行動を尊重し、「自発性」がしっかり育つと、子どもは<目的>を持つようになり、その後の人生において夢や希望の土台となります。

【学童期】勤勉性 vs 劣等感

自宅で台所で勉強している女の子
Hakase_/gettyimages

6歳~13歳頃は、発達段階の「学童期」にあたります。
学童期にクリアすべき発達課題は【勤勉性 vs 劣等感】です。

学校に通い始めると、同年代の友達と関わる時間が増え、テストや成績で評価されるようになります。こうした学校生活を通じて、子どもは自分の得意・不得意を感じるようになるでしょう。

その中で、自分なりに工夫しながら、レベルアップ・目的達成に向けて努力することで、【勤勉性】が身に付いていきます。しかし、時には努力が報われずに悔しい思いをしたり、苦手なことにつまずいたりして【劣等感】を抱くことも。その時に「頑張ったね」という労いの言葉をもらうことができれば、「次こそ頑張ろう」と思うことができます。

一方で、努力が認められずに失敗をとがめられてしまうことが多いと、「自分にはできない」「頑張っても意味がない」と感じ、劣等感が大きくなります。劣等感を抱えつつも、努力して成功体験を積み重ねることができれば、「自分はやればできる」という<有能感>を得ることができます。

【青年期】アイデンティティの確立 vs 役割の混乱

アジアの女子高生の肖像。
metamorworks/gettyimages

13歳~22歳頃は、発達段階の「青年期」にあたります。
青年期にクリアすべき発達課題は【アイデンティティの確立 vs 役割の混乱】です。

青年期は「思春期」とも言い、「自分ってなんだろう」「自分の役割・存在意義は?」という葛藤が生じる多感な時期。この「自分は何者なのか」を定義する概念がアイデンティティです。

青年期には中学・高校・大学へと進学し、幅広い人と関わるようになります。そして、憧れの人のマネをしてみたり、理想と現実のギャップに悩んだりしながら、自分の価値観や人生観と向き合う時期です。こうした過程を経て「自分らしさ」に気付くことが【アイデンティティの確立】です。

アイデンティティを確立できないと、自分が何者なのかが分からず、悩み続けることになります。これを【役割の混乱】と呼びます。この危機を乗り越えるのは決して容易ではなく、大きなエネルギーが必要です。そのため、非行や引きこもり、うつ病などの精神疾患になる例も少なくありません。悩みながらも危機を乗り越え、アイデンティティを確立することができれば、「自分はここにいていいんだ」と思えるようになり、自分の居場所に対する<忠誠>が得られます。

【成人期】親密性 vs 孤独

フレンドリーなさわやかな若いカップル
west/gettyimages

22歳~40歳頃は、発達段階の「成人期」にあたります。
成人期にクリアすべき発達課題は【親密性 vs 孤独】です。

成人期は社会に出て責任を負うようになり、友人や恋人との仲を深めていく時期です。生涯を共にするパートナーに出会う人もいるでしょう。このような関係性を構築して【親密性】を手に入れることができれば、相手との間に<愛>が育まれ、ひとりではない、ともに歩む人生に繋がっていきます。

しかし、時にはうまく人間関係を築くことができず、「自分は間違っていたのではないか」「相手に受け入れてもらえないのではないか」と不安を感じ、【孤独】を味わうこともあるでしょう。こうした孤独を乗り越えて、親密な関係性を築き上げることができるかどうかが、ここでのカギです。

アイデンティティが確立できていないと、傷付くことを恐れて人と距離を取るなどして、強い孤独を感じることになります。他人と向き合い、親密性を手に入れるためには、まずは自分自身を受け入れることが大切です。

【壮年期】生殖性 vs 停滞

アジアの先輩ビジネスマンに資料のチェックを求めるビジネスウーマン
kazuma seki/gettyimages

40歳~65歳頃は、発達段階の「壮年期」にあたります。
壮年期にクリアすべき発達課題は【生殖性 vs 停滞】です。

壮年期は「中年期」とも呼ばれ、体力的にも精神的にも落ち着いてくる頃です。

エリクソンは、この時期の発達課題を「generativity」という造語で表現しました。ここでは【生殖性】と訳していますが、これは「次の世代に継承することへの関心」を意味します。

結婚して子どもを育てることだけでなく、職場における部下の育成や、後世に残る新たな技術を生み出すことなども含まれます。人生の先輩として、自分の知識や経験を次世代に伝えることは、自分自身が生き生きと過ごすためにも大切なことです。

しかし、次世代への関心が低く、自分のことだけを考えて生きていると、それ以上の発展がなくなり【停滞】してしまいます。次の世代に貢献しようと考えられるようになれば、人生をよりよくするための<世話>という力が備わります。

【老年期】自我の統合 vs 絶望

老夫婦が笑っています。
paylessimages/gettyimages

65歳以上は、発達段階の「老年期」にあたります。
老年期にクリアすべき発達課題は【自我の統合 vs 絶望】です。

エリクソンが提唱するライフサイクル論の最終段階で、人生を総括する重要な時期です。仕事を退職して老後生活がはじまり、身体機能も衰えはじめ、死を意識することも増えるでしょう。

老年期の発達課題である【自我の統合】とは、自分の人生を振り返ったときに「いい人生だった」と確信をもって受け入れられる力のこと。良かったことも悪かったことも含め、その人生は何ものにも代え難いものだったと思えるかどうかが重要です。

しかし、死を受け入れることは簡単ではありません。自らの衰えに恐怖を抱き、【絶望】を味わうこともあるでしょう。

絶望を克服し、自我の統合に至ることができれば、<英知>を得て心穏やかに余生を送ることができます。ここにたどり着けるかどうかは、それまでの発達段階で課題を達成し、人格的活力を得られたかどうかがカギとなります。

発達課題とどのように向き合えばいいの?

最後に、発達段階との向き合い方について解説します。

発達課題を知っておくべき理由

エリクソンの発達課題は、子育てをする親にとって有益な知識と言えます。なぜなら、エリクソンのライフサイクル論は、保育や教育の現場でも重視されている理論だからです。文部科学省もエリクソンの理論を参考にして「子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」を提言しています。

発達段階ごとの特性や課題を知っていることで、「子どもがなぜそのような行動をとるのか」を知るきっかけとなり、子どもが課題を達成するためにどのようなサポートをすべきかが見えてきます。

発達課題を達成できなかったら?

発達課題は、必ずしもその段階で達成できなければならないというわけではありません。むしろ、すべて順調に乗り越えていくことはとても難しいこと。あとからでも挽回するチャンスはあります。一方で、危機を乗り越えたから安心というわけでもなく、逆戻りする可能性もあることを覚えておきましょう。

たとえば、学童期に大きな劣等感を抱き、不登校になってしまったとしても、青年期に夢中になれるものに出会い、アイデンティティを確立すると同時に、勤勉性を身に付けることもあるでしょう。幼少期に基本的信頼を得ても、その後の人生で大切な人から裏切られ、不信の方が上回る可能性もあります。

一度失敗したら、その後の人生がすべてうまくいかないというわけではなく、生涯にわたって発達し続け、より良い人生を生きていく力を蓄えていくものと捉えてください。

発達課題を達成するための子どもとの向き合い方

子どもが発達課題を達成するためには、親のサポートも必要です。しかし、発達課題を達成するために大切なのは、すべての危機をを取り除いてあげることではありません。

たとえば、乳児期の発達課題「基本的信頼」を育むために、赤ちゃんのすべての欲求を満たしてあげるとどうなるでしょう? 一切の不信感を抱くことなく育った赤ちゃんは、悪い人まで信じすぎてしまうことになります。

大切なのは「不信」よりも「基本的信頼」が勝ることです。このバランスを重視して、失敗も見守りつつ、できるだけ多くの成功体験を積むための手助けをしてあげてください。

まとめ

今回の記事では、エリクソンのライフサイクル論について詳しくご説明しました。

危機を乗り越えて、課題を達成していくことは、よりよく生きるために必要なステップです。そして発達課題を知ることは、子どもの行動や自分の人生について、客観的に考えるきっかけにもなります。将来「いい人生だった」と思えるように、発達課題を一つひとつクリアしていくことを目指しましょう。

参考サイト

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