「空間認識能力」とは?鍛える方法や、能力の高い人が活躍する職業、発達過程も解説
2021/12/16
「空間認識能力」とは、空間の中における物の位置や形状、大きさ、動き(方向や速度)などを正確に把握する能力です。空間認識能力はスムーズに、そして安全に日常生活を送るうえで欠かせない能力であり、11歳頃にはある程度完成すると考えられています。
この記事では、空間認識能力を鍛える方法や、高度な空間認識能力が求められる職業、幼児期から児童期における空間認識能力の発達過程などについて解説します。
空間認識能力とは
3次元空間の中で、自分や対象物の位置や形状、大きさ、動き(方向や速度)などを正確に把握する能力のことを、空間認識能力と言います。このような空間認識能力は、実際に私たちが生活を送るとき、どのような影響を及ぼすのでしょうか?
空間認識能力が高いことのメリット
日常生活のなかで空間認識能力が求められるのは、次のような場面です。
平面である地図を読んで3次元空間にある目的地への道筋を想像したり、ボール遊びをしていて飛んでくるボールの軌道やスピードを想像したりする場面などに、空間認識能力が必要となるでしょう。
このような能力が十分に発達していることで、私たちは日々の生活をスムーズに送ることができます。さらに、空間認識能力が高ければ自らが置かれている状況を素早く正確に判断できるため、交通事故などの危険から適切に身を守ることができるのです。
空間認識能力が低いことのデメリット
一方で、空間認識能力が十分に発達していないとどうなるでしょうか?
地図を読むのに時間がかかったり、道に迷いやすくなったりするでしょう。また、引き出しに入る量を想像することが難しいため、必要以上に物をため込んで生活空間に物があふれてしまうこともあるかもしれません。
また、空間認識能力が未熟な幼い子は、近づいてくる車などのスピードを読み間違えたり、距離感を間違えて捉えたりすることがよくあります。このように、空間認識能力が十分に発達していないと、危険から身を守ることが難しくなってしまいます。
空間認識能力の発達過程
さて、空間認識能力はどのような発達過程をたどるのでしょうか?幼児期から児童期にかけての空間認識能力の発達について紹介します。
4歳以下
小さな子どもは空間認識能力がまだまだ未熟です。大人は子どもから目を離さず、交通事故などの危険から守ってあげる必要があります。
また、「両眼視」という両目を使って物を見て遠近感を把握する力は、生後3~4か月から発達しはじめて完成するのが3歳の終わり頃と言われています。空間認識のために使われるのは視力だけではありませんが、両眼視ができるようになるまでは遠近感を正確に把握できないため、空間認識能力を大きく育てるのは難しいでしょう。
両眼視ができるようになる4歳ごろからは、空間認識能力が徐々に高まり始めるでしょう。
5~9歳頃
不完全ながら空間認識能力が身についてきます。それにより、これまでは平面的に捉えていたものを、立体的に捉えることが徐々に可能になるでしょう。
この頃には、対象物を複数の視点から捉えたうえで合体させた「ピカソ」のような絵を描くことがあります。これは空間認識能力が発達しつつあることのあらわれです。9歳近くなると、歪みのある立体を描けるようになります。
スピードを正しく捉える力も高まるので、動くものに飛び乗るような動作もうまくなります。縄跳びなどもできるようになるでしょう。
10~11歳頃
空間認識能力が完成に近づき、対象物を立体的に捉えられるようになります。個人差はあるものの、大体この頃には歪みのない正確な立体が描けるようになります。学校で立方体の展開図などを習うのもこの頃です。
空間認識能力が発達した分、球技などのスポーツがうまくなったり、地図を読むのにかかる時間が短くなったりするでしょう。不慮の事故などから身を守る力も高まります。
空間認識能力は遺伝?鍛えることはできる?
対象物に気づき、それを自らの知識などにもとづいて推理し、判断・理解する情報処理過程のことを「認知」と言います。空間認識能力を含む認知能力の個人差は、遺伝的な要因や環境的な要因などが複雑に影響し合ってあらわれると考えられています。
つまり、空間認識能力の高い低いには遺伝も関係しますが、それだけでなく環境的な要因によっても左右されるということですね。
このことをふまえて、現代の生活様式のなかで、子どもたちが空間認識的な学習をする機会が少なくなっていることについて心配する声もあるようです。ひと昔前の子どもは、あやとりやお手玉遊び、木のぼりなどの立体的な遊びを中心に行っていましたが、現代の子どもたちの遊びは室内でのテレビゲームなど平面的なものが中心となっており、空間を強く意識する機会が減っているのです。
このような生活様式のなかで、周りにいる大人が子どもたちの空間認識能力を十分に伸ばすためには、空間認識能力を鍛えるための働きかけを積極的に行っていくことが大切になるでしょう。
空間認識能力を鍛える方法
ここからは子どもの空間認識能力を鍛えるための方法を紹介します。どの方法でも楽しみながら空間認識能力を伸ばすことができるので、ぜひ日常生活に取り入れてみてくださいね。
おもちゃ
子どもが空間認識能力を鍛えるためには、つみき、ブロックなどの立体に直接触れるおもちゃを使うのが効果的です。ひとつひとつの形状をよく見て判断し、組み合わせて様々な立体を作り出す作業を行うことで、楽しみながら空間認識能力を鍛えることができます。
小さい子どもや、積み木・ブロックなどで遊ぶことに慣れていない子には、まずお母さんがお手本を見せてあげると良いでしょう。「同じものを作ってみて」と言って簡単な組み合わせからチャレンジしてみてください。難し過ぎるとやる気をなくしてしまう場合もあるので注意しましょう。
上手になると、お手本がなくても自分のイメージで様々な立体を作って遊べるようになります。子どもが作品を見せに来たら、しっかり褒めてあげましょう。もっと良い作品を作ろうというやる気につながります。
折り紙
平面である折り紙を折って、立体的な作品を生み出すことができる折り紙は、空間認識能力を鍛えるためにぴったりの遊びです。
小さい子どもや、初めて折り紙にチャレンジする子どもは、まずは平面的な作品から挑戦してみると良いでしょう。動物の顔を作って、マジックで目や鼻、口などを描いてあげても楽しいですね。上手になってきたら、お母さんと一緒に折り鶴などの立体的な作品を作ってみましょう。繰り返すうちに、ひとりで作れるようになります。
大きい子どもは、折り方の説明を見て自分で作るのも良いですね。いろいろな作品にチャレンジしてみましょう。
お絵かき
お絵かき遊びでも空間認識能力を鍛えることができます。お絵かきをするためには対象となる物や人をよく観察し、それを自分のイメージに落とし込む必要があります。このときに、空間認識能力がはぐくまれるのです。
小さい子どもは対象物の特定の部分や輪郭に注目した絵を描くことが多いですが、大体5歳頃になると奥行きもイメージして立体的な絵が描けるようになってくるでしょう。筆圧が弱いうちはクレヨンなどを使い、慣れてきたら色鉛筆などを使うなど、その子の発達過程に合わせて楽しく取り組めるような工夫をすると良いでしょう。
運動
空間認識能力を鍛えるためには、室内遊びだけでなく外遊びもしっかりするようにしましょう。鬼ごっこをしたり、すべり台やブランコ、ジャングルジムなどの遊具で遊んだり、広い空間を利用して積極的に体を動かすことが効果的です。
大人と一緒にする追いかけっこのような単純な遊びなら、小さな子どもでも取り組みやすいでしょう。お父さんやお母さんがいる位置と、自分の位置、または障害物などの位置を確認しながら運動することで、空間認識能力が鍛えられます。
また、少し大きくなったら、ジャングルジムもおすすめ。ジャングルジムをのぼったりくぐったりして遊ぶことで、空間のなかでの自分の位置や姿勢をしっかり意識できるようになります。
生活の中での言葉かけ
空間認識能力を鍛えるためには、普段から空間を意識することが大切です。そこで、子どもとの会話の中で「上」「下」「右」「左」「前」「後ろ」など、位置や方向をあらわす言葉を積極的に使うようにしてみましょう。
そのためには、ちょっとしたお手伝いを頼んでみるのもいいかもしれませんね。「かばんの上に帽子を置いてね」「靴下は引き出しの右側に片づけてね」などの声かけで、簡単なお手伝いをしながら日常の中で空間を意識できるといいですね。
空間認識能力が求められる職業
現代社会に存在する様々な仕事のなかには、空間認識能力が特に求められるものも存在します。ここからは高い空間認識能力が求められる6つの職業について紹介します。
パイロット
パイロットとは、航空法で定められた資格を持ち、航空機を操縦する技能を持っている人のことを言います。たくさんの人を乗せて大空を飛び、世界中に行くことができるパイロットは、子どもにとって憧れの職業のひとつと言えるでしょう。
パイロットは、飛行中に自分の乗っている飛行機の向きや高さなどを常に正確に把握している必要があります。また、自分の乗っている飛行機と他の飛行機との位置関係などもイメージできていなければなりません。そのため、パイロットは空間認識能力が特に求められる職業と言えます。
実際にパイロットになるための試験には、空間認識能力を測定するための課題が含まれています。
建築士・設計士
建築士とは、建築士法で定められた資格を持ち、建物の設計や工事監理などを行う職業です。住宅や学校、図書館等の公共施設など、あらゆる建造物の建築にかかわり、人々の生活を支えるのが建築士の仕事です。
建物を設計するために必要な図面を作る設計業務では、立体を平面に落とし込む力が要求されます。また、図面と建物を照合して間違いなく作られているかを確認する工事監理業務では、平面から立体、立体から平面へとイメージを変換しながら、スムーズに仕事を進めることが求められます。建築士も高い空間認識能力が求められる職業と言えるでしょう。
一方、設計士には建築士のような資格はなく、定められた小規模の木造建築に限って設計することができます。また、設計士は建築士の仕事をサポートするという大事な役目も担っています。
建築士や設計士が、共通して使うのが、CAD(Computer Aided Design)というソフト。CADを使いこなすためには、平面から立体、立体から平面へとイメージを変換する力が必要なので、設計士も建築士と同じように空間認識能力が求められる職業と言えます。
アニメーター
アニメーターは、アニメーションの制作現場において、キャラクターや背景を描くのが仕事です。アニメーターには画力だけではなく、キャラクターを立体的に描き起こすための空間認識能力が求められます。
描く対象が3次元空間でどのように存在しているのか、その位置や姿勢をリアルにイメージすることで、質の高い作品にすることができるのです。
最近ではディズニーやピクサーのように、コンピューター上で3Dモデルを使って立体的なアニメーションを作ることも増えています。このような3Dモデル作成においても、空間認識能力が求められます。
ゲームクリエイター
ゲーム制作に携わる、企画・音楽・キャラクターデザイン・プログラミングなどのさまざまな専門家のことを、総称してゲームクリエイターと呼びます。ゲームクリエイターは、コンピューターゲームのソフトやアプリなどを制作するのが仕事です。
ゲームクリエイターの仕事のなかで特に空間認識能力が必要なのは、キャラクターや背景を立体的に形づくる3Dモデラーでしょう。現実には存在しないキャラクターなどをあたかも存在するかのようにリアルにイメージし、ゲーム上に再現する必要があるからです。
スポーツ選手
空間認識能力は、スポーツをするときに必要不可欠な能力です。自分自身や対戦相手、ボールなどが3次元空間の中でどう存在しているのか、その位置関係や方向、動きなどを正しくイメージできなければ、良い結果を出すことは難しいでしょう。
空間認識能力が求められる具体的な場面としては、バットでボールを打つとき、サッカーでパスをするとき、体操や飛び込み競技で技を決めるときなどがあります。競技によって様々ではありますが、一般的にスポーツでよい結果を出すためには空間認識能力を使って得た情報をもとに、体を制御する必要があります。
まとめ
空間認識能力は、空間の中における物の位置や形状、大きさ、動き(方向や速度)などを正確に把握する能力です。空間認識能力を十分に鍛えておくことで、日常生活をスムーズに、そして安全に送ることができるだけでなく、将来の職業選択の幅も広がるでしょう。
生活様式の変化に伴って平面的な遊びが増えている現代では、空間認識能力を発達させるための適切な刺激を受けにくくなっています。空間認識能力を鍛えるための働きかけを、日々の子育てのなかで意識的に取り入れられると良いですね。