「STEAM教育」とは?国内外での事例、家庭での実践アイデアも紹介
2021/12/17
皆さん、「STEAM教育」という言葉をご存じですか?
STEAM教育とは、これからのAI時代に必要な力を身につけるための新たな教育手法のこと。アメリカから世界に広まり、日本でも導入がはじまっています。
今回の記事では「STEAM教育ってなに?」という疑問にお答えするだけでなく、日本におけるSTEAM教育の現状と課題をわかりやすく解説します。国内外での導入事例や、家庭でできる実践方法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
STEAM教育とは?
STEAM教育は、次の5つの分野を統合的に学習する教育手法。STEAMは「スティーム」と読み、5つの言葉の頭文字を組み合わせた造語です。
S… Science(科学)
T… Technology(技術)
E… Engineering(工学)
A… Arts(芸術・リベラルアーツ)
M… Mathematics(数学)
各教科の知識を習得するだけでなく、教科の枠を越えて横断的に学ぶことで、「実社会におけるさまざまな課題を解決し、新たな価値を創造できる」人材を育てることが、STEAM教育の狙いです。
STEAM教育がはじまった背景
STEAM教育には「STEM教育」という前身があります。
STEMは「ステム」と読み、Science、Technology、Engineering、Mathematicsの4つの分野を表すもの。アメリカで生まれた教育政策で、国際競争力を高めるために、科学技術人材を育成することを目的として提唱されました。2013年にはオバマ大統領(当時)が国家戦略として掲げ、「ゲームを買うのではなく、自分で作れるようになろう」と国民に呼びかけたことで、世界でも注目を集めました。
さらに、STEM教育にArtsの要素を加えた「STEAM教育」が誕生。Artsが加わることで、物事を多面的に捉えて新たな解決策を生み出せると考えられ、世界でもSTEAM教育を導入する国が増えつつあります。
なぜ重要?STEAM教育が注目されている理由
STEAM教育の重要性が高まっている理由は、時代の変化にあります。
これからはAIやIoTなどの技術がますます発展し、多くの仕事が自動化され、働き方も変わっていくことでしょう。そのため、人間ならではの価値を生み出すことが重要となります。
また、情報社会の進展により、私たちはいつでもどこでも簡単に情報を入手できるようになりました。そのため、知識を持っているだけでは意味がありません。
これからの時代で大切なのは、さまざまな情報を適切に活用し、問題を解決したり、新たな価値を創造したりする力です。
STEAM教育は、子どもたちが社会の変化に対応し、豊かに生きていくために必要な資質・能力を育むのに役立つといえるでしょう。
日本におけるSTEAM教育の現状と課題
日本では具体的にどのようにSTEAM教育が進められているのでしょうか。
文部科学省の方針
文部科学省は、新たな時代に必要な力を育成するため、新学習指導要領にSTEAM教育の考え方を取り入れました。
まず、文系・理系を問わず、各教科をしっかりと学ぶことが大前提です。その上で、STEAM教育では教科の枠を超えて学び、各教科で学習した知識を活用しながら、実社会における問題発見・解決に生かしていくことを目指します。
STEAM教育の「A」にあたるArtsには、芸術やデザイン、リベラルアーツ(Liberal Arts)といった複数の捉え方がありますが、文部科学省はリベラルアーツの考えに基づき、芸術や文化だけでなく、生活、経済、法律、倫理などを含めた広い範囲でAを定義しました。さまざまな分野が複雑に絡み合う現代社会の問題に対して、創造的に解決に導く力が必要と考えられたためです。
また、STEAM教育は高校で重点的に取り組むべきものとしつつ、その土台として、幼児期の体験学習や、小中学校での探究学習を充実させるという方針も。地域社会と協働しながら、子どもたちの好奇心・探究心を呼び覚まし、子どもたちが自らテーマを設定して主体的に取り組むことで、生き抜く力を身につけていきます。
これまでの取り組み
続いて、日本における主な取り組み内容をご紹介します。
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定・支援
将来社会を牽引する科学技術人材を育成することを目指し、文部科学省が指定する高校において先進的な理数教育を実施。2002年度から始まった取り組みで、STEAM教育の先駆けと言えます。
小学校におけるプログラミング教育の必修化
小学校では、2020年度からプログラミング教育が必修に。プログラミングの技能を習得することよりも、プログラミング的思考を育むことが狙いです。「物事を実現するためには、何をどのように組み合わせればいいのか」というような論理的に考える力を育みます。
高校における探究科目の新設
高校では、2022年度より新科目「総合的な探究の時間」と「理数探究」が設置されます。これらの科目をSTEAM教育の中心としつつ、教科の枠を超えて学ばせ、課題発見・解決力だけでなく、現代社会の課題に対応する力も育みます。
教育現場のICT環境整備
1人1台端末を目指す「GIGAスクール構想」や、デジタル教科書の普及を推進。さらに、オンライン上に学習コンテンツを掲載する「STEAMライブラリー」を公開するなど、学習環境の整備を進めています。
今後に向けた課題
このように少しずつ取り組みが進んでいますが、課題もあります。
まずは、教育現場におけるICTの活用です。情報化が進み、子どもたちが多様化する中で、子どもたち一人ひとりに合った質の高い指導を行なうためには、AIやビッグデータの活用をはじめとするICTの活用が大きな役割を果たすと考えられています。しかし、ICT環境の整備に向けた取り組みは始まっているものの、世界と比べると日本は大きく遅れているのが現状です。
また、ICTの活用を進めるにあたり、教師も変わっていかなければなりません。STEAM教育はこれまでの教育手法とは大きく異なり、教師に求められる知識・能力も変わります。そのため、教員の養成・研修の充実を図り、教員の情報活用能力やデータリテラシーを向上させることが重要です。
日本におけるSTEAM教育の導入事例
日本の教育現場におけるSTEAM教育の導入事例も見ていきましょう。
袋井市立浅羽北小学校(静岡県)
小学6年生を対象にタグラグビーを使ったSTEAM教育を実施。タグラグビーとは、タックルなどの激しい接触がないラグビーで、腰に付けたタグを取られたらボールをパスするのがルールです。
実技で直面する問題に対して、基盤ゲームを使って原因分析・対策立案を行ない、問題解決に繋げます。問題解決の過程では、算数やプログラミング的思考を用いて、頭の中でイメージしたことを数値化・言語化。スポーツのワクワクから学びを広げる戦略思考型体育です。
つくば市立みどりの学園義務教育学校(茨城県)
みどりの学園は2018年開校の小中一貫公立校で、開校1年目からでプログラミング教育を実施。1人1台端末とデジタル教科書を導入し、ロボットも用いて楽しみながら学習しています。
たとえば、1年生は、校庭で春らしい色を探してタブレットで撮影し、クラスメイトに紹介。6年生は「プログラミングで世界を救おう」というテーマで、災害時に物資輸送を行うドローンや、人命救助のプログラムを作り、SDGsについて学んでいます。
豊島岡女子学園 中学校・高等学校(東京都)
豊島岡女子学園では、モノづくりに挑戦する校内イベント「T-STEAM:Pro」を開催。2021年度は37組109人の生徒が「波立つプールで重りの球を落とさずに安定させるモノを作る」という課題に挑戦しました。
40日間の準備期間が与えられ、チームごとに試作と実験を繰り返しながら、発泡スチロールの台をアレンジ。当日は、波立つプールに作品を浮かせ、ビー玉や金属玉を載せて、90秒間で何個残せるかを競いました。
兵庫県立加古川東高等学校(兵庫県)
兵庫県では「兵庫型STEAM教育」と題して、県立高校3校をモデル校に指定し、教育委員会が支援しながら課題解決型の探究活動を行なっています。
モデル校の加古川東高校では、全教科でのSTEAM教育導入に挑戦。家庭科の授業では「祖父母の食生活改善術」「汚れの落ち方の洗剤比較」といった身近な課題に対して実験を行い、地理歴史科ではビッグデータを活用して加古川市の特徴や課題を見つける授業を行いました。
高知県立山田高等学校(高知県)
2020年度に新学科「グローバル探究科」「ビジネス探究科」を設置した山田高校。探究することを目的とし、取り巻く社会に対して「なぜ?」という視点を持って、考える力を鍛えます。
具体的には、高知工科大学と連携して海塩に含まれるマイクロプラスチックについて調べたり、同校商業科が開発したまんじゅう「山田まん」にあう土佐茶を検証したりしました。地域との連携を重視し、地域に貢献できる人材の育成を目指しています。
海外におけるSTEAM教育の導入事例
次に、海外におけるSTEAM教育の取り組みを見ていきましょう。
アメリカ
STEM教育の発祥国・アメリカでは、産官学連携で国家戦略として推進し、2013年には教育基準「次世代科学スタンダード(NGSS)」を策定。知識を暗記するのではなく、仮説を立てて実験したり、データを分析したりすることで、科学や工学がどのように機能するのかを学びます。
また、サンディエゴの公立校「High Tech High」は、独自の課題解決学習が行われている学校として注目を浴びています。大きな特徴は、教科書や時間割、定期試験がないこと。授業は話し合いにより進められ、創造性や課題解決力を育んでいます。
シンガポール
世界的にも高い学力を誇るシンガポールは、1997年から探究型学習を推進。小学校低学年から、子どもたちが主体となって学ぶアクティブ・ラーニングを導入し、体験学習を通じて創造性や探究力を育んでいます。
また、国内最大の科学館「Science Centre」では、1000を超える体験型展示を展開しているほか、政府協力のもと中学校にSTEMプログラムを提供する取り組みも実施し、理系人材の育成に貢献しています。
インド
インドでは「100万人のイノベーターを育成する」というビジョンのもと、各地の学校に「Atal Tinkering Laboratory(ATL)」と呼ばれるワークスペースを設置。子どもたちが好奇心や創造力を育む場として、3Dプリンターやセンサー、ロボット製作キットなど、アイデアを形にするための設備が用意されています。
また、政府は2021年9月、子どもたちの科学的思考を向上させることを目的とし、全国に科学博物館を設立する方針を決定。IT大国としてさらなる成長を遂げるための取り組みが進んでいます。
中国
中国では、質の高いイノベーション人材の輩出を目指し、2016年にSTEAM教育を促進する方針が発表されました。
中国のSTEAM教育の特徴は、民間企業が中心となって進められていること。
具体的な取り組みとしては、上海に「STEM+教育センター」を設立し、実証授業や教員研修を実施。また、アジアのシリコンバレーとも呼ばれる深センでは、HuaweiやTencentなどのテクノロジー企業と連携し、モノづくりに特化した独自のSTEAM教育を推進しています。
韓国
韓国では、理数と芸術の融合を国家教育政策として位置づけ、「科学英才学校」に指定された高校において、2007年度からSTEAM教育を実践しています。
さらに、2009年には学習指導要領にSTEAM教育の考え方が明示され、義務教育全体にもSTEAM教育を導入。職業体験などの体験学習を行なう「創造的な体験活動」や、討論や実習を中心とした参加型の授業を行なう「自由学期制度」を通じ、子どものやる気を引き出す教育を推進しています。
幼児向け!家庭で実践できるSTEAM教育
最後に、家庭ではじめられる幼児向けのSTEAM教育をご紹介。
幼児教育にはプログラミング教育は導入されていませんが、文科省は幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形、文字等への関心・感覚」などを掲げています。
これらが小学校での学習に繋がるため、こうした力を身につけることを意識して取り組んでみてください。答えや方法を教えるのではなく、子どもたちの好奇心・探究心を大切にしましょう。
アイデア① ピタゴラスイッチ作り
工作が好きな子どもとは、身近なものでピタゴラスイッチのような装置を作ってみましょう。
たとえば、トイレットペーパーの芯を使って、ビー玉を転がすためのコースを作ります。すると、高低差を作る工夫が必要だと気が付くはずです。また、積み木でドミノ倒しを作る際には、並べる幅によっては途中で止まってしまうことも。
たとえ簡単なものでも、試行錯誤しながら成功にたどり着く過程は、STEAM教育にも通ずるものがあります。
アイデア② 物語を作って発表会
絵本が好きな子どもとは、オリジナルの物語を考えてみましょう。幼稚園などで経験したことを題材にするのもOK、架空の世界やキャラクターを考えるのもOK。物語が完成したら、紙芝居やごっこ遊びにして、発表会をしてみてください。
どうしたら物語が面白くなるかを考え、それを絵や言葉で表現し、さらに人前で発表する過程は、子どもの創造力を育みます。きっと、大人には思いつかないような素敵な作品ができあがるでしょう。
アイデア③ 身近なもので楽器作り
歌や音楽が好きな子どもとは、身近なもので楽器を作ってみましょう。たとえば、コップに入れる水の量を変えて、音階を作ってみるのも良し。新聞をくしゃくしゃにしたり、やぶいてみたりして、音の違いを感じてみるのも良し。
もうひと工夫したいときは、鳥の鳴き声や雨の音を録音し、身近なもので自然の音を再現する方法を考えてみるのも面白いですよ。
まとめ
時代の変化とともに、子どもたちが身につけるべき力も変化しています。アメリカで始まったSTEAM教育は、すでに日本でも導入され、今後は取り組みが加速していくことでしょう。
「問題解決力や創造力を育む」と聞くと堅苦しく感じるかもしれませんが、大切なのは子どもたちが楽しみながら主体的に学ぶこと。日常で感じた「なぜ?」と向き合うことで、学びが深まります。ぜひ、お子さんと一緒に挑戦してみてください。