文部科学省がすすめる「国際バカロレア(IB)」とは?教育内容やメリットを徹底解説!
2022/09/28
国際バカロレア(IB)とは、国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムです。もともとは海外で普及していた教育プログラムですが、近年日本でも文部科学省が普及を進めていて、国際バカロレア認定校が増えつつあります。
海外の大学進学の条件にもなっていて、いま注目を集めている国際バカロレア資格。そこで、国際バカロレアの概要や教育内容、メリットなどを詳しく解説します。
国際バカロレア(IB)とは?
国際バカロレア(IB)とは、国際バカロレア機構が提供する教育プログラムのことです。国際バカロレア機構や国際バカロレアの理念を詳しく解説します。
国際バカロレア機構とは
国際バカロレア機構とは、スイス・ジュネーブに本部を置く非営利組織であり、IBと呼ばれるのが一般的ですが、これは「International Baccalaureate」の略です。
国際バカロレア機構は1968年の設立以降、世界各地で学ぶ児童生徒のために総合的な教育プログラムを提供しています。2022年5月現在の国際バカロレア認定校は、世界159以上の国・地域に約5,500校です。そして、国際バカロレア機構が共通カリキュラムの作成や、世界共通の国際バカロレア試験、国際バカロレア資格の授与などを実施しています。
国際バカロレア資格とは
国際バカロレア資格とは、国際的に通用する成績証明書のことです。国際バカロレアでは生徒の年齢に応じた教育プログラムを提供しています。そのなかで高校課程に相当するプログラムは「ディプロマ」と呼ばれます。このディプロマの修了試験で所定の成績を収めると、国際バカロレア資格を取得可能です。
国際バカロレア資格は、世界各地の大学の入学資格になります。ハーバード大学やオックスフォード大学など、海外の難関大学の入学に必要な資格といわれています。
国際バカロレアの理念
国際バカロレアは、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探求心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」を目的としています。
国際バカロレアでは、世界各地に住む子どもたちが、共通する国際教育プログラムを学習しており、そのなかで、人それぞれがもつ違いを理解し、自分と異なる考え方の人に対しても、それぞれの正しさがあり得ることを認められるような学びを目指しています。
国際バカロレアが目指す10の人材
国際バカロレアの理念は、具体的に10の人材として表されています。
・探求する人
・知識のある人
・考える人
・コミュニケーションができる人
・信念をもつ人
・心を開く人
・思いやりのある人
・挑戦する人
・バランスのとれた人
・振り返りができる人
上記のような10の特徴をもつ人物が、グローバルコミュニティのなかでより良い、平和な世界を築くことに貢献できる人間だと、国際バカロレアは位置づけています。
国際バカロレアの教育内容
国際バカロレアの教育プログラムは、生徒の年齢に応じて4つに分けられます。この4つのプログラムは、PYP(初等教育)・MYP(中等教育前期)・DP(中等教育後期)・CP(キャリア教育)です。それぞれのプログラムの教育内容をご紹介します。
PYP(Primary Years Programme):幼稚園~小学校
PYPは3~12歳を対象としたプログラムです。日本の教育制度でいうと、幼稚園から小学校卒業程度の年齢になります。
精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラムで、どのような言語にも対応可能です。日本の国際バカロレア認定校では、日本語で学ぶのが一般的であり、言語・社会・算数・芸術・理科・体育の6教科を提供しています。6教科を横断するようなテーマとして、子どもたちは次のようなことを学びます。
・私たちは誰なのか
・私たちはどのような時代と場所にいるのか
・世界はどのような仕組みになっているのか
・私たちは自分たちをどう組織しているのか
・この地球を共有するということ
幼少期は将来の全ての学習の基礎になります。国際バカロレアでは、PYPを大変重要な時期と考えて、学びを最大化するように指導しています。
MYP(Primary Years Programme):中学校・高校前半
MYPは11~16歳を対象としたプログラムです。日本の教育制度でいうと、小学校高学年から高校1~2年生にあたる年齢です。
小学校までの学習と社会とのつながりを重視したプログラムで、PYPと同様に子どもたちはどのような言語でも学ぶことが出来ます。
プログラムの期間は5年間で、以下の8教科を学習します。
・言語と文学
・言語の習得
・個人と社会
・理科
・算数
・芸術
・保健体育
・デザイン
1つの教科とほかの教科との関連性や、実社会とのつながりを認識できるように、教科の枠を超えて学べるカリキュラムになっています。
DP(Diploma Programme):高校後半
DPは16~19歳を対象としたプログラムです。日本の教育制度でいうと高校生が対象で、所定のカリキュラムを2年間履修します。カリキュラム履修後、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際バカロレア資格を取得することが可能になります。国際バカロレア資格は、国際的に通用する大学入学資格となっています。このため、日本では国際バカロレアというと海外の大学入学へのパスポートとして、DP(ディプロマ・プログラム)をイメージする方が多いようです。
DPは、PYPやMYPと異なり、基本的には英語・フランス語・スペイン語で履修可能なプログラムです。最近では、一部日本語DPの対象科目も出てきました。
DPのカリキュラムでは、6つの教科と3つの必修要件を学びます。
6つの教科は以下のグループから学ぶ科目を選択します。
・グループ1:言語と文学(母国語)
・グループ2:言語習得(外国語)
・グループ3:個人と社会(地理・歴史・経済など)
・グループ4:理科(生物・化学・物理など)
・グループ5:数学
・グループ6:芸術(音楽・美術・ダンスなど)
3つの必修科目は、「課題論文」「知の理解」「創造性・活動・奉仕」です。
国際バカロレア資格は、DPのカリキュラムをすべて履行後、国際バカロレア試験や内部評価を通じて、45点満点中24点以上で取得ができます。
CP(Career-related Programme):高校
CPは16~19歳を対象としたプログラムです。2012年に新設されたプログラムで、キャリア関連教育を行うことを目的としています。原則的には、英語・フランス語・スペイン語で実施され、DPの科目のうち2つ以上を履修します。
CPは2022年6月現在、日本で履修できる学校はありません。
国際バカロレアのメリット
国際バカロレアが注目されている理由は、教育内容に大きなメリットがあると考えられているからです。国際バカロレアで学ぶ主なメリットは以下の3つです。
世界の大学への入学資格が得られる
1つ目のメリットは、世界中の大学の入学資格が得られることです。海外の大学に進学したいと考えている場合には、大きなメリットになるでしょう。
たとえば、日本の高校を卒業後、アメリカの大学に進学するときには、TOEFLなどの英語試験を受けて一定以上の成績を収めたり、学力を証明するものを提出したり、何種類ものエッセイを書いたりと、準備はかなり大変です。このため、州立の2年制大学に入学し、3年次に編入試験を受けて、もともと希望していた4年制大学に進学するのが、一般的なルートとなります。しかし、この方法だと4年間ずっと志望大学に通えるわけではありません。
日本の高校から直接海外の大学を目指したい方にとって、国際バカロレア資格はかなり役立つものでしょう。
国際的なリーダーシップを身に付けられる
国際バカロレアでは、他者と自分との違いを認めたうえで、いろいろな人と関わりながら、1つのプロジェクトに取り組みます。教科やコミュニティを超えて学習するなかで、自然にリーダーシップが身に付きます。
探求心を育てられる
国際バカロレアでは、探求型教育に力を入れています。1つのテーマを考えるときに、教師は一方的に教えるのではなく、子どもたちが考える材料や環境を提供します。これによって、子どもたちは自分たちで考えを深め、問題を解決する力をつけていきます。
日本における国際バカロレアの現状
日本では近年、文部科学省が国際バカロレアを普及させようと力を入れています。日本における国際バカロレアの現状を解説します。
文部科学省が国際バカロレア認定校の増加を提言
文部科学省は、「成長戦略2021」のなかで、国際バカロレア認定校を増やすことを提言しています。国際バカロレアを通して、グローバルに活躍する人材を育成したいという狙いがあります。具体的な目標は、2022年度までに国際バカロレア認定校などを200校以上にすることであり、実際に2022年6月時点で、国際バカロレア認定校や候補校は177校になっています。
このうち、日本の学校教育法第1条に規定されている学校は59校です。この59校は、一般的に「一条校」と呼ばれます。一条校では日本語で国際バカロレアの学習が可能な場合が多くあります。また、国際バカロレア資格と同時に、日本の中学・高校卒業資格も得られることがメリットです。
日本語で国際バカロレアを受けられるように
日本で国際バカロレアが普及しなかった要因に、DPは英語・フランス語・スペイン語での学習が原則だったことが挙げられます。そこで、文部科学省は2015年から国際バカロレア機構と協力し、DPの一部科目を日本語でも実施できるようにしました。
6科目中2科目は英語などでの履修が必要ですが、「日本語DP課程」ができたことで国際バカロレアを学びの選択肢として検討する生徒が増えつつあります。
国際バカロレアに対応できる教員の育成
国際バカロレアでは、教員も従来の日本の教育とは異なる指導方法を行うことが必要です。国際バカロレアを日本で普及させるために、複数の大学が「IB教員養成コース」を設置しています。また、外国人指導者などに特別免許状を授与して、国際バカロレアの教員の確保を目指しています。
日本における国際バカロレアの問題点
教育内容が優れている国際バカロレアですが、日本で学ぼうと考えたときにいくつか問題点があります。主な問題点は以下の3つです。
日本における国際バカロレア認定校が少ない
文部科学省が国際バカロレアの認定校を増やそうとしていますが、まだまだ認定校が少ないのが現状です。すべての都道府県に認定校があるわけではなく、たとえば東北地方だと宮城県にしか認定校がありません。住んでいる地域によっては、国際バカロレア教育を受けることが難しい場合もあるでしょう。
また、PYPを提供する認定校は増えているものの、MYPやDPを学べる認定校は比較的少ない傾向にあります。初等教育から高等教育までずっと国際バカロレアを学ぶのは、現状ではとても難しいでしょう。
一般の学校と比較して学費が高い
国際バカロレアの認定校の多くは、私立の学校やインターナショナルスクールです。公立の学校に比べると学費は高い傾向にあります。
ただし、現在公立の認定校が増えつつあるので、将来的には学費を気にせず国際バカロレアを学べるようになるかもしれません。
国際バカロレアに対応していない日本の大学・学部も多い
国際バカロレア資格は、海外の大学進学を目指す場合に大きなメリットになりますが、日本では国際バカロレア入試に対応している大学・学部が限られます。しかも、国際バカロレア資格を取得するためには、かなり時間をかけて勉強をする必要があります。
このため、日本の大学に進学しようと考えている生徒にとって、国際バカロレアを学ぶメリットは少ないかもしれません。
まとめ
国際バカロレアの教育内容やメリット、事前に知っておきたい問題点を解説しました。国際バカロレアの目的は、多様な文化を理解・尊重し、平和な世界を築くことに貢献する若者の育成です。国際的なリーダーシップや探求心を伸ばせる教育として、注目を集めています。また、国際バカロレア資格は海外の有名大学にも通用する入学資格になるので、海外の大学に進学したい生徒にとっては大きなメリットとなるでしょう。
文部科学省はグローバルに活躍する人材を育成するために、国際バカロレアを日本に普及させようとしています。しかし、現状ではまだまだ認定校が少なく、学費を含めた通いやすさに問題があります。認定校や国際バカロレア入試に対応した大学が増えれば、国際バカロレアはもっと日本に普及するかもしれません。