「ギフテッド」とは?特徴や診断の受け方、困り感に寄り添いながら才能を伸ばすコツを解説
2022/07/01
「ギフテッド(Gifted)」とは、優れた知能を贈られた稀有な存在です。ずば抜けた知能の高さでまわりを圧倒するギフテッドの存在に、憧れを持つ人も多いのではないでしょうか?しかし、ギフテッドは高い知能ゆえの悩みを抱えることも、しばしばあるのです。
今回はギフテッドの特徴や、ライフステージごとに見られるギフテッドの様子、ギフテッドの子どもの困り感に寄り添いながら才能を伸ばすコツを詳しく紹介します。
ギフテッドとは何か
ギフテッドとは、先天的に多くの人からかけ離れた優れた「知能」を持つ人のことをいいます。ギフテッドの定義は国や地域によっても異なりますが、IQが130以上であることが指標の一つとして挙げられることが多いです。
ギフテッド教育が盛んなアメリカでは、ギフテッドの子どもを「知性、創造性、芸術性、リーダーシップ、または特定の学問分野で高い達成能力を持ち、その能力を発揮させるために通常の学校教育以上の活動や支援を必要とする子ども」と定義しています。
ギフテッドの子どものことを「ギフテッドチャイルド」、ギフテッドの大人のことを「ギフテッドアダルト」と呼ぶこともあります。また、知能にはある程度の遺伝性があることが明らかになっているため、ギフテッドが親子間で遺伝する可能性もあるでしょう。
ギフテッドと知能
知能にはさまざまな捉え方があり、学習能力や情報処理能力のみを指す場合もあれば、音楽的知能や運動的知能などを含めて考える場合もあります。
ここでは、ハーバード大学教育大学院教授のハワード・ガードナー(Howard Gardner)が提唱する「多重知能理論」に基づいた知能を紹介します。ハワード・ガードナーは1983年の『心の構成』において、次のような7つの知能を提唱しました。
・言語的知能
・論理数学的知能
・音楽的知能
・身体運動的知能
・空間的知能
・対人的知能
・内省的知能
また、2001年の『MI:個性を生かす多重知能の理論』では次の3つの知能を追加しました。
・博物的知能
・霊的知能
・実存的知能
これをふまえると、ギフテッドにはさまざまなタイプが存在すると考えられます。一口にギフテッドといっても、どの分野の知能が優れているかは人それぞれなのです。
知能指数(IQ:intelligence quotient)」を測定する検査としては「ウェクスラー式知能検査(Wechsler's intelligence scale)」が有名ですが、この検査で測定できるのは総合的IQと言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の4項目です。
ギフテッドのうち、主に芸術や運動の分野で高い能力を発揮する人のことを「タレンテッド(Talented)」と呼ぶこともありますが、彼らは知能検査では測れない能力を持っているといえます。
ギフテッドには「英才型」「2E型」といわれる2つの型がある
ギフテッドには「英才型」と「2E型」のふたつの型があります。英才型のギフテッドはさまざまな分野において全般的に高い能力を持っています。優秀な人とみなされるため、周囲の人から気づかれやすいギフテッドといえるでしょう。
2E型のギフテッドはある特定の分野で突出した能力を発揮するものの、他の分野には苦手さがあります。2Eとは「二重に例外(twice-exceptiona)」という意味であり、ギフテッドと発達障害をあわせ持っている状態をあらわします。
2E型は周囲の人に気づかれにくいギフテッドであり、ときには自分自身でさえ高い能力を持ち合わせていることに気づかないこともあるでしょう。
発達障害(アスペルガー、ADHD)やHSC(ハイリ-センシティブチャイルド)との違い
アスペルガー症候群とは、コミュニケーションや人とのかかわりが非常に苦手で、人に対する関心が薄く、興味や活動に偏りがあらわれる発達障害です。
また、ADHD(注意欠如・多動症)とは年齢に対して不注意や落ち着きのなさが強くあらわれ、日常生活に支障をきたしてしまう発達障害です。このような発達障害には、脳機能の発達の偏りなどから「過集中」や「こだわり」といった特性があらわれます。
一方でギフテッドは高い能力を持っているために「並外れた集中力」や「完璧主義」などの特徴を示します。このように発達障害とギフテッドには似通った特徴があらわれるため、誤診される場合もあり注意が必要です。
ただし、ギフテッドと発達障害には異なる特徴もあります。発達障害の人は、一般的にリーダーシップを取ったり相手の気持ちを推測したりすることが苦手ですが、ギフテッドの場合はこれらが得意です。2E型ギフテッドの場合は発達障害とギフテッドの両方を持ち合わせているため、特徴のあらわれ方は十人十色といえます。
また、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン(Elaine N. Aron)が提唱する、HSP(ハイリーセンシティブパーソン)またはHSC(ハイリーセンシティブチャイルド)という気質をご存知でしょうか?HSPの人、またはHSCの子どもは人一倍繊細であるのが特徴で、繊細で傷つきやすいがために「完璧主義」になってしまうことがあります。
このようにギフテッド、発達障害、HSP(HSC)には共通の特徴が現れることもありますが、そこにいたるまでの背景はそれぞれ異なっているといえるでしょう。
それぞれのライフステージにおけるギフテッドの様子
人の一生にはさまざまなライフステージが存在します。ここからは、それぞれのライフステージにおいて、ギフテッドの人(子ども)が見せる様子や当事者の思いについて紹介します。
優れた知能を授けられた稀有な存在として、よい面ばかり注目されがちな「ギフテッド」。しかし、視点を変えると彼らが抱えるさまざまな悩みも見えてきます。
また、冒頭でも紹介した通りギフテッドにはさまざまなタイプが存在するので、実際の様子や悩みのあらわれ方は千差万別ともいえます。
幼児期
ギフテッドの子どもは、非常にパワフルである場合があります。また、知的好奇心が非常に強いため、それが「落ち着きのなさ」に感じられることもあるでしょう。逆に、興味のある事に長時間のめり込んでしまう「過集中」で、まわりの大人を心配させることもあるでしょう。
また、感情の振り幅が非常に大きい場合もあります。それが「癇癪」につながると、大人を驚かせたり、本人も困ってしまったりします。想像力が優れたタイプは、空想の世界や空想の友達を作り上げて没入することがあるでしょう。このような特徴から幼稚園や保育園などで集団生活が始まると、親子共に困り感を抱えることがあります。
児童期(小学校)から青年期
ギフテッドの子どもは、集団に入るとさまざまな異質感を覚えます。知能が高いために話の合う友だちが見つかりづらく、完璧主義や正義感の強さからときにトラブルになってしまうこともあるでしょう。
学校の先生や両親は、ギフテッドの子どものあふれる好奇心、知性、パワフルさについていくことが難しいと感じることがあるかもしれません。また、本人の立場からすると授業の内容が簡単すぎてつまらない、という問題も出てきます。
いくら知能が高くテストでよい点が取れたとしても、集団生活での違和感が強過ぎると学校に通うこと自体が苦痛になるでしょう。なかには不登校になってしまう子どももいます。
年齢が上がるにつれて変わり者扱いをされ続けることへの苦しみは強まり、「親でさえ自分を理解してくれない」という状況から孤独が深まることもあるでしょう。
成人期
大人になったギフテッドは、集団生活の困難を抱えながらも生活のために働き始めます。優れた知能を活かせる職場を見つけた人は、そこを自らの居場所として輝いていけるでしょう。しかし、大人になるまでに精神的に大きくつまずき鬱病などを発症してしまうと、自分に合った職場探しが難しく感じられる場合もあります。
また、ギフテッドの特徴である完璧主義や感情の振り幅の大きさなどが、恋愛を困難にすることがあります。相手の知的レベルに合わせた会話を続けるために疲れやすさを感じる人もいるでしょう。ギフテッドはギフテッド同士でパートナーを見つける方がうまくいくという意見もあります。
ギフテッドといわれる有名人(芸能人)
芸能人の北野武や所ジョージは、「IQが130以上あるらしいから、ギフテッドではないか」と噂されています。確かにギフテッドの基準として、IQは大きな指標となります。しかし、IQは目安の一つであり、実際の判定はもっと複雑です。
アメリカのテレビドラマ『HEROES』のヒロ・ナカムラ役で有名になったマシ・オカ(Masi Oka)は、ギフテッド教育が盛んなアメリカにおいてギフテッドの子どもたちが通う学校、マーマン・スクール(Mirman School)に通っていた経歴を持ちます。
ギフテッド教育(診断、学校)における日本と海外の違い
アメリカには、ギフテッド教育を推進するために設立された「NAGC(National Association for Gifted Children)」という団体があります。NAGCは、ギフテッドの子どもたちが才能を伸ばし適切に成長するためには特別な支援が必要だと主張しています。
実際にアメリカでは、他の国に先駆けて19世紀の初めごろからギフテッド教育が始まりました。その他、台湾では1973年からギフテッド教育を推進しており、ニュージーランドでは1996年頃にギフテッド教育が導入されています。
ギフテッドの判定方法は国によってさまざまです。ギフテッド教育について長い歴史を持つアメリカにおいては、州や学区のルールに基づいて学校で判定が行われます。判定にはWISC-IVやOLSATといった知能検査のほか、学力テストや担任・親への聞き取り結果などが反映される場合が多いでしょう。
こうしてギフテッドと判定された子どもは、ギフテッドのための特別なクラスや特別な学校に通ったり、飛び級を認められたりします。
一方で日本では、ギフテッド教育がまだまだ浸透しておらず、学習指導要領にもギフテッド教育が組み込まれていません。そのため、日本にいるギフテッドの子どもたちは授業のつまらなさや集団生活の難しさといった問題を抱えながら生活しています。
ギフテッド教育においては、才能を伸ばすことだけを目的とするのではなく、ギフテッドならではの困りごとに寄り添うという視点も不可欠です。しかし、みんなと同じであることが重要視される日本の学校では、ギフテッド教育が浸透しづらい現状があります。
我が子がギフテッドかどうか見抜く方法
この記事を読んでいる方のなかには「うちの子はギフテッドかもしれない」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか?それでは、我が子がギフテッドかどうか見抜くにはどうしたらよいのかを紹介します。
自分で見抜ける?見分け方は?
「それぞれのライフステージにおけるギフテッドの様子」の項目で紹介したような様子が見られるかどうか観察してみましょう。
ただ、前述のとおり、ギフテッドの判定はとても複雑です。多くの場合親は医学的に素人なので、我が子がギフテッドかどうかを見抜くのは難しいといわざるを得ません。
病院などを受診し、検査を受けてみよう
我が子がギフテッドかどうかを知るためには、病院などに足を運んで専門家に相談しましょう。必要に応じて検査を受けさせてもらえます。
ギフテッドの診断方法は病院等によってさまざまですが、wisc-iv(子ども用のウェクスラー式知能検査)やQEEG検査(定量的脳波検査)などが行われることが多いでしょう。
ギフテッドの子どもを育てるコツ
ギフテッドの子どもは優れた知能を持ちながらもその特性ゆえにさまざまな悩みを抱えがちです。ギフテッドの子どもが安心してのびのびと自らの才能を伸ばすためには、周囲の大人はどのような工夫をしていけばよいのでしょうか?
ここからは、ギフテッドの子どもを育てる際のコツについて紹介します。
才能を伸ばす方法
まずは、ギフテッドの子どもをよく観察し、興味関心を持っていることがらを見極めましょう。そしてその分野の才能を伸ばせるように、学べる環境を整えてあげましょう。
ギフテッドの子どもを育てるなら「まだ何歳だから」「まだ小学生だから」などという先入観を捨てるべきです。興味を持っていることがらに関しては、思い切って大人向けの活動なども体験させてあげるとよいでしょう。
学校で知的好奇心を満たすことが難しい現状をふまえると、学校以外の場所で彼らの激しい知的欲求を満たしてあげることが、心の安定につながります。小さな枠の中に閉じ込めるようなことはせず、彼らの伸びていきたい気持ちをできるだけ尊重することが大切です。
「ギフテッド応援隊」や「日本ギフティッド協会」では、他のギフテッドの親子と交流したりギフテッドについて学んだりできるので、そのような機関を利用するのもよいでしょう。
我が子の困り感に寄り添う
さまざまな困り感を抱えるギフテッドの子どもにしっかり寄り添い、適切な環境を整え、鬱病などの精神疾患から子どもを守りましょう。
ギフテッドの子どもは、小学生の頃からすでに自らの異質感に気がつきます。学校の先生より知識があることで煙たがられたり、話があう友だちを見つけられずに孤独感を感じたり、クラスで浮いた存在になってしまったりします。
ギフテッド教育の普及していない日本において、ギフテッドの子どもを育てるのは道なき道を進むような困難がともないます。ギフテッドについての十分な知識を得ることが難しく、育てにくさを強く感じる親も多いでしょう。
生活上のさまざまな問題について、親は自分たちだけでなんとかしようと頑張るのではなく、信頼のおける機関や病院を頼ることがとても大切です。
ギフテッドについて理解を深めるには
ギフテッドについての詳しい情報を得ることができる書籍を3冊紹介します。
『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法 』
『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』は、ギフテッドの子ども一人ひとりの特性を理解し、伸ばす方法について解説しています。保護者が我が子を支えるコツを、専門の大学関係者、ギフテッド当事者、その保護者たちが執筆した実践的な内容です。
『わが子がギフティッドかもしれないと思ったら』
『わが子がギフティッドかもしれないと思ったら』は、ギフテッドの特性や親や教育者が取り入れられる対処法について詳しく解説しています。2Eについてもひとつの章を割いて論じている、ボリューム感のある1冊です。
『ギフティッド その誤診と重複診断』
『ギフティッド その誤診と重複診断』は、世間の無理解のなかで情緒的に混乱しやすいギフテッドの子どもが、さまざまな精神疾患と「誤診」されがちな状況を指摘しています。豊かな事例を交えて親、教育者、専門家の理解を深めさせる、充実した内容です。
ギフテッドを描いた映画
最後に、ギフテッドの子どもの成長や周囲の大人との絆に心打たれる映画を3作紹介します。
『gifted/ギフテッド』
『gifted/ギフテッド』は、フロリダの海辺の町で姉の一人娘を育てる男フランクと、姪のメアリーをめぐる物語です。ギフテッドのメアリーに「普通の暮らし」を送らせようとするフランクと「才能の開花」を望むメアリーの祖母イブリンの間で、翻弄されるメアリー。メアリーにとっての幸福とは何なのか、悩むフランクの姿に胸を打たれます。
『僕のピアノコンチェルト』
『僕のピアノコンチェルト』は、ピアノと数学の才能を持つ少年ヴィトスの物語。両親の期待に沿って生きるべきか、自分の気持ちに正直に生きるべきか、少年の揺れ動く心がこの作品の見どころです。たくさん悩んだすえに自らの進む道を選び取る少年の姿が清々しい作品です。
『リトルマン・テイト』
天才児のフレッドはシングル・マザーのディディに溺愛されて生活するも、クラスにうまくなじめないために自分の居場所を見つけられずにいました。そんな二人のもとへ、高い知能を持つ教育心理学者ジェーンがあらわれ、事態は動き出します。母親の愛と葛藤を繊細に描いた感動の作品です。
まとめ
一口にギフテッドといっても、さまざまなタイプが存在します。ただし、優れた知能を持ち合わせているからこそ、それゆえの悩みを抱えがちなのは、どのタイプにも共通しています。
ギフテッドの子どもを育てるときには、本人の興味関心の方向を見定めながら、安心して才能を伸ばせる環境を整えてあげることが大切です。保護者や教育者は信頼のおける機関や病院などと連携しながら、協力して子どもを支えていきましょう。