「GIGAスクール構想」とは?メリットや問題点をわかりやすく解説
2022/09/28
GIGAスクール構想とは、ICTを利用した教育を実現することです。具体的には、子どもたちに1人1台のパソコンやタブレットなどの端末を与えることで、個別最適化された教育を受けられるようにすることを目指しています。
しかし、親から見ると、端末を配る以外の変化がわかりにくいうえ、従来と違う授業のあり方に戸惑うかもしれません。そこで、GIGAスクール構想の概要やメリット、問題点をわかりやすく解説します。
GIGAスクール構想とは?
GIGAスクール構想とは、ICTを利用した教育を実現するために文部科学省が推進している教育のあり方です。GIGAスクール構想の背景や、今まさに教育現場で起きている変化についてご紹介します。
GIGAスクール構想の「GIGA」って何?
GIGAスクール構想の「GIGA」の意味がわからないという方は多いでしょう。ICT用語でGIGAというと、通信速度を表す「ギガビット」を思い起こす方が多いかもしれません。しかし、GIGAスクール構想のGIGAは、「Global and Innovation Gateway for All」の略語です。日本語に直訳すると、「すべての人のための国際的で革新的な扉」という意味になります。
GIGAスクール構想で行われること
GIGAスクール構想で行われることは次の2つです。
小中学生全員に1人1台の端末を支給
小中学生全員に、パソコンやタブレットを1台ずつ支給します。子どもたちは自分専用の端末を持つため、学習の理解度に合わせた個別学習が可能です。また、学習の履歴を記録したり、主体的に情報を検索・収集・整理したりできるようになります。
校内の高速ネットワーク環境を整備
子どもたちに支給された端末を活用するためには、学校内に高速ネットワーク環境を整備する必要があります。それと同時に、教員用のコンピューターや映像投影機などを導入しなければなりません。教員と子どもや、子ども同士が対話しながら、主体的に学ぶことが可能になります。
文部科学省がGIGAスクール構想を推進した背景
GIGAスクール構想は、2019年12月に文部科学省から発表された言葉です。文部科学省がGIGAスクール構想を推進した背景には、日本の学校におけるICT環境は、他の国と比較して脆弱だという危機感があります。
文部科学省が提示している資料(※1)によると、2018年の調査において、日本の学校で授業中にデジタル機器を使用する時間はOECD加盟国の中で最下位でした。しかし、日本の子どもたちは学校外でデジタル機器を多く利用していて、学習以外でデジタル機器を使用する時間としては、OECD加盟国の中で平均以上となっています。
つまり、日本の子どもたちは、学校の授業でICTを学習に活用する方法を教わることなく、ゲームや友人とのチャットにICTを利用しているのが特徴です。
また、2019年3月の調査(※2)で、学校におけるICT環境の整備状況に地域差が大きいことがわかりました。佐賀県では1.9人に1台使える台数の教育用コンピューターが支給されている一方、愛知県では7.5人に1台にとどまっています。
こういったところから、全国で画一的なICT教育が必要だと文部科学省は判断したといえるでしょう。
GIGAスクール構想はいつから始まる?
GIGAスクール構想は2019年12月に文部科学省が発表し、2020年度の学習指導要領の改訂により盛り込まれました。本来は2019年度から5年間かけて各学校のICT環境を整備する予定でしたが、新型コロナウイルス感染防止のために行われた休校措置などがあり、2020年内に前倒しで開始されています。このため、2021年3月時点では、全国ほとんどの小中学校で1人1台の端末導入が完了しました。
GIGAスクール構想のメリット
GIGAスクール構想のメリットは、主に次の4つです。
個人に最適化した学習が可能
メリットの1つ目は、個人に最適化した学習を受けられることです。従来日本の学校では、教員1人が前方に立ち、子どもたち30~40人に教えるスタイルが一般的でした。
こういった一斉教育では、教員が子どもたち全員の学習の進捗状況を確認するのは難しく、授業についていけない子がいたり、習熟度が高い子は退屈に感じたりします。
GIGAスクール構想で個人に最適化された学習環境が整えられれば、個人の能力を最大限に伸ばせるようになるでしょう。
子どもたちが主体的に学習できる(アクティブラーニングの実現)
メリットの2つ目は、子どもたちが主体的に学習する、アクティブラーニングを実現できるようになることです。従来の授業では、発表をする際に挙手して発言することが多く、クラス全員の前での発表が苦手な子どもは、自分の意見をクラスメイトに伝えることができません。
GIGAスクール構想が実現し、自由に端末を使えるようになれば、端末を通して意見を伝えることが可能になります。そうなれば、大勢の前での発言が苦手な子どもも、主体的に学習ができるようになるでしょう。
情報処理・活用能力を高められる
メリットの3つ目は、ICTを利用した情報処理・活用能力を高められることです。情報処理や活用能力のためには、ICTメディアリテラシーが必要になります。
また、小学校では2020年度から、中学校では2021年度からプログラミングが必修科目になりました。小学校低学年のうちからデジタル端末に触れる機会が多くなれば、ネットワークへの理解が深まり、プログラミングの習得も容易になるでしょう。
教員の働き方改革も実現する可能性あり
メリットの4つ目は、ICT環境が整備されることで、教員の働き方改革が実現する可能性があることです。教員の長時間労働は社会問題にもなっています。
GIGAスクール構想によってICT環境が整備されれば、教員の業務効率化につながるかもしれません。たとえば、今まですべて紙ベースで行われていた連絡事項の伝達・アンケート・テストなどにICTを活用すれば、配布や集計などの手間を省くことが可能となります。
GIGAスクール構想の問題点
メリットの多いGIGAスクール構想ですが、問題点もあります。現状での問題点として、次の4つが挙げられるでしょう。
当初のロードマップが前倒しになり学校側が対応に苦慮
新型コロナウイルス感染症の影響で、GIGAスクール構想に向けたロードマップが当初の予定より前倒しになりました。5年間かけて整備していくはずだったICT環境を1~2年で整備したため、学校側は対応に苦慮しています。
たとえば、ネットワークの接続が不安定だったりICT指導員の養成などに課題が残っていたりする学校も少なくありません。また、デジタル教科書の導入が不十分で、子どもや教員の体調不良や休校などのときに遠隔授業に対応していないという問題もあります。
支給された端末のスペック
地域によって子どもたちに支給されている端末のスペックが異なっているのが現状です。また、国からの補助の範囲内で購入できるように、5万円程度の安価なモデルが採用されています。一般的なパソコンよりも安価なモデルなので、物足りなさを感じる場合があるかもしれません。
また、端末は一度支給されればそれで終わりではなく、一定期間後に更新が必要です。端末を最新の状態にし、永続的に管理することが求められています。
端末の管理が大変
学校や親は、子どもに支給された端末を管理するのが大変です。子どもたちが学校の内外で端末を使うと、破損や紛失などの恐れがあるでしょう。端末の扱い方や持ち帰る際のルール、破損したときの賠償などを決めている教育委員会もあり、学校も子どもたちに指導しています。
高校の端末導入に地域差が大きい
小中学生全員にパソコンやタブレットなどの端末が行き渡っている状態ですが、高校はまだ端末が導入できていない地域も多く残っています。
文部科学省は2024年までに、全国すべての高校に1人1台の端末支給を完了させる予定です。しかし、小中学校とは異なり、高校では端末の購入代金を保護者が負担するケースも多くなっています。
子どもたちのICT教育をよりよくするために
GIGAスクール構想を実現させ、子どもたちによりよいICT教育を提供するために、大人がやらなければならないことがあります。
【学校】ICT教育の定期的なチェックが必要
学校はICT環境の整備だけで終わるのではなく、定期的にICT環境を活かせているのかをチェックする必要があります。たとえば、「子どもたちの学び方が能動的になっているのか?」「ICT環境の整備が教員の働き方改革につながったのか?」などをチェックしなければなりません。
また、子どもたちに支給した端末や高速ネットワーク環境についても、しっかり使える状態にあるのかを常に確認する必要があります。
【教員】ITリテラシーや指導するスキルの向上が必要
もともと教員が全員ICTに詳しいわけではありません。しかし、ICTを活用しながら子どもたちに教える立場なので、ITリテラシーや指導スキルを向上させる必要があります。文部科学省のGIGA StuDX推進チームによる指導方法についての発信をチェックしたり、オンライン研修を利用したりして、教員もGIGAスクール構想実現のために努力することが大切です。
【保護者】GIGAスクール構想の目的を理解する
子どもがパソコンやタブレットなどの端末を自由に使えることに、不安を感じる保護者も多いでしょう。大人がチェックできない端末で、子ども同士がやり取りをすると、いじめなどの問題が気になる方がいるかもしれません。
しかし、これから子どもたちが生きる時代は、ICTの技術を使って生活するのが当たり前なのだと理解し、新しい学習スタイルをサポートすることが大切です。
まとめ
GIGAスクール構想の概要や推進された背景、メリットや問題点について解説しました。GIGAスクール構想とは、ICTを利用した教育を進めていくことです。2019年に文部科学省が提言し、本来は5年かけて準備していくものでした。しかし、新型コロナウイルス感染症による休校措置などがあり、予定より早く推し進められたのが実情です。
すでにほとんどの小中学生には1人1台端末が支給されていますが、ネットワークが不安定だったり、遠隔授業が進まなかったりするなど、さまざまな問題点があります。
今後GIGAスクール構想をよりよく実現させるために、学校・教員・保護者がそれぞれ子どものICT教育をサポートする必要があるでしょう。