少女の笑顔

「リトミック」とは?ねらい・やり方・効果・おすすめ曲まで紹介

2021/12/18

「リトミック」とは、子どもの発達過程に合わせた音楽との楽しいふれあいを通して、「基礎的な音楽能力」やこれから受ける教育を十分に吸収するための土台となる「潜在的な基礎能力」を育む教育方法です。

最近では、幼稚園や保育所などでも取り入れられることが増えてきたリトミック。しかし、0歳からでも始められるリトミックについて、自宅で取り組んでみたいと思う方も多いと思います。

この記事では、リトミックについてのさまざまな疑問に答えながら、自宅でのリトミック実践法や気を付けたいポイントについて解説します。

リトミックとは

リトミックとは、エミール・ジャック=ダルクローズというスイスの音楽家が開発した教育法です。リトミックでは、音楽に合わせて体を動かしながら聴覚やリズム感覚、音楽を愛する心などを育みます。また、自分でイメージした動きやリズムを、音や音楽で表現するのもリトミックの活動のひとつです。

子供たちのグループでギターを弾く若い女性が歌い、楽器を演奏しています。公園で音楽を聴く女性教師と生徒たち。
KanKhem/gettyimages

そして、リトミックについては2つの捉え方があることも押さえておきましょう。

1つ目はジャック=ダルクローズが提唱した教育法の全体を大きく捉えてリトミックと呼ぶ場合です。2つ目は、その教育法における3本の柱のうちのひとつをリトミックと呼ぶ場合です。

ジャック=ダルクローズは、「動き(リトミック)」「ソルフェージュ(ドレミの音名などで歌うこと)」「即興演奏」を、自らの提唱する教育法における3つの柱と定めました。

ジャック=ダルクローズは、まずリトミックのようなリズム運動を通して筋肉組織と中枢神経などの訓練を行い、それによって「リズム感覚」を養うべきだと考えました。それに並行して、耳を訓練し「聴覚」を養います。リズム感覚と聴覚をある程度養ったら、ソルフェージュに取り組み始めます。さらに、リトミックとソルフェージュで養われた感覚を用いて、即興演奏に取り組むのです。

先生のピアノに合わせて子どもたちがリズム運動をするというような、リトミックに対する一般的なイメージは、リトミックをジャック=ダルクローズが提唱した3本の柱のうちのひとつとして捉えたものと言えます。

リトミックの歴史

リトミックの創始者ジャック=ダルクローズは、スイスの音楽院で音楽を教えていたときにひとつの重要な問題に気がつきました。それは、当時の音楽教育のシステムで学んだ若者が、より高度な音楽訓練を受けるために子どものうちに身に付けておくべきことを、身に付けることができていないということです。

ジャック=ダルクローズは楽譜を読んだり書いたり、楽器を演奏したりする前に、音をしっかり聴いたり想像したりする力が養われているべきだと考えました。そして、体と脳が大きな発達を遂げる子どもの時期にこそ、音楽への感受性やリズムへの感覚を研ぎ澄ます体験を十分に積むべきであり、このような体験が今後音楽学習を深めていくために活きてくると考えたのです。

そこで、ジャック=ダルクローズは音楽教育の体系化を試みます。リトミックは、このようにしてこの世に誕生しました。リトミックは、科学とは対極の存在にあると捉えられがちな音楽の世界に身体論や脳科学の考え方を取り入れた、画期的な教育方法としても知られています。

リズム遊びとの違い

リトミックはリズムに乗って体を動かしながら進めるので、リズム遊びと同じように捉えられることもあります。しかし、リズム遊びの目的とリトミックの目的は異なっている場合が多いでしょう。

一般的に、リズム遊びは子どもと楽しい時間を共有することで情緒を育てるために行われることが多いです。また、集団でのリズム遊びを通して協調性を養うという目的もあるかもしれません。

しかし、「リズム感覚と聴覚を同時に養って今後の音楽教育に生かす」という音楽的な長期目標をすえて、リズム遊びが行われることは少ないのではないでしょうか?また「体全体の筋肉と神経の働きによって音楽的感覚が高まる」という背景を意識して、リズム遊びを行うことも少ないと考えられます。

心を育むための遊びの一環として行われることの多いリズム遊びと、音楽教育としての側面を強く持つリトミックには、その目的や背景に違いがあると言えるでしょう。また、決められた動きを揃って行うことが多いリズム遊びに対して、リトミックでは基本的に自分が感じたことや考えたことを自由に表現することが多く、その点でも異なります。

リトミックの指導に資格は必要?

リトミックにはさまざまな民間の資格があります。特定非営利活動法人リトミック研究センターで認定している資格や国立音楽院で認定している資格がよく知られています。

もし子どもをリトミックの教室に通わせるのならば、所定のカリキュラムを修めた有資格者が指導を行う教室を選ぶのが安心でしょう。

ただし、自宅で我が子にリトミックを行う際には特別な資格は必要ありません。お父さんやお母さんがリトミックの知識を身に付けたうえで行うとよいでしょう。子どものことを1番よく知っているのがお父さんやお母さんなので、我が子の発達過程に合わせて自由なペースで進められるというメリットもあります。

リトミックの狙いと効果 

それでは、リトミックを行うことによって伸ばすことのできるさまざまな力やリトミックによって得られるものについて具体的に紹介します。

リトミックで音楽に関する力を伸ばす

リトミックでは、音楽との楽しいふれあいを通じて基礎的な音楽能力を育てることができます。基礎的な音楽能力とは、例えばリズム感覚や聴覚のことです。体と脳が大きな発達を遂げる子どもの時期に、これらを感覚を研ぎ澄ます体験を十分に積んでおくことが、将来音楽の学びを深めるためには欠かせないと言われています。

また、音楽を愛する心を育てることができる点も見逃せません。子どもの頃に音楽を通したポジティブな体験を積み重ねることによって、音楽が好きになり、これから出会うさまざまな音楽を愛せるようになるでしょう。このことは、子どもの生涯におけるひとつの財産となるに違いありません。

リトミックでは非認知能力を伸ばすこともできる

小さな女の子見て水族館
Hakase_/gettyimages

リトミックは音楽教育が体系化されて生まれたものです。しかし、そのシステムが確立されていくにつれて、ジャック=ダルクローズはあることに気がつきました。リトミックによって養われるのは音楽に関する力だけではなかったのです。

リトミックを行うことによって、集中力、創造力、社会性などを同時に養うことができます。そして、リトミックの効果は大人よりも子どもに対してより大きな影響を与えました。

目的が知識や技術を身に付けることに偏りがちであった教育の世界で、子どもが持っている集中力、創造力、社会性などの「非認知能力」を引き出すこともできるリトミックは、多くの人の賛同を得ました。そして国の垣根を越えて、世界中にリトミックが広まっていったのです。

現在リトミックは、好奇心や探求心などの「心(マインド)」、集中力や表現力などの「力(パワー)」、社会性や創造性などの「性(キャラクター)」をバランスよく育てる「総合的な人間教育」として盛んに行われています。

【年齢別】リトミックのやり方・内容例

リトミックを実践するときには、子どもの発達段階をよく見極めたうえで行わなければうまくいきません。ここではリトミックのやり方や内容例について、年齢別に紹介します。

0~1歳:スキンシップを中心に楽しもう

個人差がありますが、一般的に0~1歳の子どもはまだまだ自分の体のコントロールが難しいでしょう。特に0歳児には、音楽に合わせて体を動かすのはハードルが高いと言えます。抱っこしてリズムをとるときにも、乳幼児揺さぶられ症候群に注意して、あまりにもダイナミックな動きは控えましょう。

そのため、子どもがまだ小さい時期には、音楽を使ってスキンシップを楽しみ、音楽に関するポジティブな体験を積み重ねるのがおすすめです。子どもの創造性を育むために自由な動きを尊重するのがリトミックですが、0~1歳の間は子どもの様子をよく観察しながら、お父さんやお母さんがある程度主導権を握る必要があるでしょう。

明るい部屋で赤ちゃんを抱くママ
west/gettyimages

この時期の子どもは、音楽に合わせて子どもを抱っこして優しく左右に揺らしたり、マラカスなどの音が鳴る楽器で子どもの身体をトントンしたりすると喜びます。リズムに合わせてほっぺをくっつけたり、くすぐったりするのもよいでしょう。

1歳を過ぎると、おどけたような大きな動きも好むようになります。また、運動機能の発達が目覚ましく、自分で前後、左右、上下に揺れたりすることも次第に上手になっていきます。

おすすめの曲

童謡の「ぶんぶんぶん」や「おつかいありさん」など、シンプルなフレーズで子どもが覚えやすい曲を使うのがおすすめです。小さな子どもは身近なお父さんやお母さんの声に1番反応するので、できるだけCDなどは使わず生の声で行うのがよいでしょう。

思うような反応がなくてもがっかりしないでください。聴いていないようでも実は聴いているということはよくあります。反応が薄いからと言っていろんな曲を使うのではなく、少しでも好きそうな曲は繰り返して使うようにしましょう。

繰り返すうちに「楽しいことがある曲」「お母さんが遊んでくれるときの曲」として、しっかり覚えてくれるでしょう。

2~3歳:リトミックスカーフや楽器を使ってみよう

体の動かし方がだいぶ器用になってきた2~3歳の子どもは、道具を使うこともうまくなります。「タンバリン」や「すず」などの比較的簡単に扱える楽器や、透ける素材でできた色とりどりの「リトミックスカーフ」などを使って活動の幅を広げてみましょう。また、この時期は動物のマネもできるようになるので、音楽に合わせて「動物ごっこ」をしても盛り上がります。

音源としてCDを使ってもよいですが、できるだけお父さんやお母さんが歌ってあげたり、生の楽器の音を積極的に聴かせてあげたりするのがおすすめです。自分でピアノを弾くようにすれば自由にテンポや音の大きさを変えられるので、表現の幅を広げられます。

騒がしいナーサリーレッスン
DGLimages/gettyimages

また、2歳前後は一般的に「イヤイヤ期」とも呼ばれる「第一次反抗期」でもあります。せっかくリトミックに誘っても断られることが続くと「やっぱりやめようかな」という気持ちになるかもしれませんね。

しかし、たとえ拒否されたとしても、音楽に興味がないというわけではありません。お父さんやお母さんにいわれたことに従うのではなく「自分で決めて、自分でやりたい」という気持ちが育っている証拠だと捉えましょう。

こんなときには、親が率先して音楽を楽しむ姿を見せて「私もやってみたい!」と思わせたり、動きや道具を子どもに選ばせたりするのもよいでしょう。日を改めてもよいかもしれません。音楽嫌いにさせないためには、子どもの様子をよく見て無理強いしないようにするのも大切です。

おすすめの曲

「ぞうさん」「ちょうちょう」「かえるの合唱」など、動物ごっこができるような曲がおすすめです。子どもが大好きな「ぞうさん」なら、腕を使って誰でも簡単にゾウのマネができるでしょう。また「ちょうちょう」なら、子どもが蝶になって、花に見立てたリトミックスカーフのまわりをヒラヒラ飛んでみるのもよいですね。

「かえるの合唱」では、テンポや音の大きさを変えながらいろんなジャンプを試してみましょう。これらの曲は簡単に演奏できます。自宅にピアノがある人はぜひチャレンジしてみてください。

4~5歳:ストーリー性のある曲で想像力をかきたてよう

4歳を過ぎるとタイミングや力加減などのバランスをとる能力が伸び、より体の動きが巧みになります。楽器の扱いや曲想に合わせた動きもうまくなるでしょう。この時期にリトミックを通してさまざまな動きを経験することで、無駄な動きや過剰な動きが少なくなり、より洗練された動きが可能になります。

また、4~5歳の頃には想像力や表現力が大きく育ちます。イヤイヤ期を終えて一回り成長した子どもたちは、リトミックに主体的に参加して、「音楽に合わせて自己表現をする」というリトミックの醍醐味を存分に味わえるようになっていることでしょう。

幼児音楽教室
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この頃になると子どもが自立して動いてくれるので、お父さんやお母さんは楽器の演奏に専念しやすくなります。テンポや強弱を変えたり、ときには曲を止めたりしながら、さまざまな曲想を楽しみましょう。ストーリー性のある曲を使ったり、トライアングルやカスタネットなどの少し難しい楽器に挑戦したりすれば変化を味わえます。

子どもと一緒に身の回りにあるものを使って楽器を作ってみるのもよいですね。手作りの楽器なら、より心のこもった演奏が可能になるでしょう。

おすすめの曲

この頃には、ストーリー性のある少し長めの曲も使えるようになります。床に水色や緑色の布をひいて「めだかの学校」や「線路はつづくよ どこまでも」を楽しんでみましょう。めだかや列車になりきって、音楽に合わせて自由に体を動かします。正解の動きや間違いの動きがあるわけではないので、自分なりに表現することができていたらしっかりほめてあげてくださいね。

また、「権兵衛さんの赤ちゃん」のメロディーで簡単に弾ける「ともだち讃歌」もおすすめです。楽しく体を動かしながら、世界の国々に興味を広げることができるでしょう。

リトミック実践のポイント 

それでは最後に、実際にリトミックにチャレンジするときに押さえておきたいポイントについて紹介します。

リトミックをする前に準備するもの

リトミックを実践するときにまず必要なのが、「リトミックをする部屋」と「楽器」です。まずは、運動をするためのスペースを十分にとれる部屋を選びましょう。部屋が決まったらこまごまとした生活用品やおもちゃは片付けておきましょう。

年齢が小さい子どもほど目に見えたものに引っ張られがちです。音楽への集中を妨げる可能性があるものは、全て見えないところに片付けます。

また、部屋が準備出来たらいくつかの楽器も用意しておきましょう。初めから高価な楽器を用意する必要はありませんが、自分が音色を聴いて「いいな」と思えるものを準備しておくのがよいでしょう。絵本やリトミックスカーフなど、音楽の世界観を感じ取る手助けになるようなアイテムも有効です。

両方のママと音楽を楽しむ娘。
PRImageFactory/gettyimages

リトミックを実践する際の心構え

1番大切なのが、「焦らない」ということです。リトミックの勉強や準備を頑張ったお父さんやお母さんは、「喜んでほしい」「楽しんでほしい」という気持ちから、ついつい焦ってしまうこともあるでしょう。ですが、そのような焦りのせいで純粋にリトミックを楽しむことが難しくなる場合があります。

ぜひ子どものペースを尊重して、「今日がダメならまた明日!」という気持ちで焦らず取り組んでほしいと思います。大好きなお父さんやお母さんが笑顔で楽しんでいれば、少しずつ興味を持ってくれるようになるでしょう。

また、リトミックの動きに正解はありません。「こうしてほしい」と思った動きと違っていても否定せずに見守りましょう。「こんな動きはどうかな?」とやって見せてあげると、子どもが自分で考えるヒントになることもあります。

まとめ

リトミックでは、音楽との楽しいふれあいを通してリズム感覚や聴覚の発達を促し、創造力や表現力などの非認知能力も同時に養うことができます。

スイスで生まれて世界中に広まり、総合的な人間教育としていまや日本においても盛んに行われるようになった「リトミック」。リトミックを子どもの教育に取り入れたいと考える方は、子どもの発達段階に合わせて楽しみながら実践してみてくださいね。

参考サイト

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