「デカルコマニー」とは?やりかたと、ちょうちょやとんぼ、こいのぼりなど様々な作品をご紹介!
2022/02/18
デカルコマニーとは、絵の具を転写させて作品を作る、シュルレアリスムの絵画でよく使われる絵画技法です。
デカルコマニーは小さな子どもでも簡単にチャレンジできる絵画技法として古くから幼児教育にも取り入れられ、子どもたちの成長の一端を担ってきました。
今回は、デカルコマニーの意味ややりかた、作品例について詳しく紹介します。
デカルコマニーとは
「デカルコマニー」とは「転写法」をあらわすフランス語で、「シュルレアリスム」の作家がよく利用した絵画技法です。表面が滑らかな紙の上に絵の具をたっぷり塗り、上から別の紙などを押し当てて転写します。その後紙を開くと、まだらや皺の入った不思議な色彩を楽しめます。
また、絵の具を塗った紙を2つに折って広げるという方法もあり、こちらの方法を使うと左右対称の模様を作ることができます。
デカルコマニーでは、開いてみるまでどんな模様が出てくるかわかりません。偶然性を利用して、作者の意図しない不思議なイメージを作り上げることができるデカルコマニーは、「シュルレアリスム(超現実主義)」の作家が多用しました。
シュルレアリスムとは、1920年代にフランスのパリを中心として盛り上がった芸術運動。シュルレアリスムの作品を制作する芸術家は「シュルレアリスト」と呼ばれ、夢や無意識などに目を向けた幻想的な作品をリアルなタッチで描きました。特に、マックス・エルンストの『雨後のヨーロッパ』は、デカルコマニーの技術を用いた傑作です。
日本では、瀧口修造がデカルコマニーの作品を制作していることで知られています。また、瀧口修造は日本にシュルレアリスムを紹介した画家でもあります。
デカルコマニーのねらい
小さな子どもにとって、デカルコマニーは驚きと発見の連続です。デカルコマニーでは開いてみるまで色がどのように広がっているかがわかりません。開く前には「どんな形になっているだろう?」、開いた後には「どんなものに見えるかな?」というように、想像したことを親子で話し合いながら取り組むとよいでしょう。デカルコマニーを通して、楽しみながら知的好奇心や想像力を育むことができます。
シュルレアリスムが日本に伝わったのは1930年頃ですが、その30年後の1960年頃には、すでにデカルコマニーは幼児教育に取り入れられていました。その目的には「抑圧からの解放」や「新しい美の発見」などがありました。
初めての集団生活で緊張している子どもたちが、自分らしくのびのびと活動してお互いを認め合う過程で、デカルコマニーが利用されてきたことがうかがえます。
デカルコマニーができあがったときに子どもたちが見せる驚きと喜びの表情は、まさに新しい美を見つけたときの表情です。デカルコマニーを通して、子どもたちは美術における「本物らしくうまく描くこと」以外の側面にふれることができ、芸術の奥深さや楽しさを肌で感じることができるでしょう。
デカルコマニーの基本的なやりかた
それでは、デカルコマニーの基本的なやりかたについて、初めてチャレンジする人でもわかるように詳しく説明します。
準備するもの
デカルコマニーをするためには、絵の具と紙が必要です。さらに、絵の具を紙に乗せるために使うもの(筆やスプーンなど)があるとよいでしょう。
絵の具は家にあるものでよいのですが、もし購入するなら多くの小学校でも使用している不透明水彩絵の具がよいでしょう。発色が鮮やかで水に溶けやすいため、小さな子どもでも扱いやすいのが特徴です。透明水彩絵の具の場合は、不透明水彩絵の具よりも淡くて優しい色合いになります。
紙は、画用紙などの少し分厚い紙を用意します。写真を印刷するときに使うような光沢紙を使うのもおすすめです。できれば水がしみこみにくく、表面が滑らかなものを選びましょう。絵の具を入れるための皿やビン、絵の具を紙に置いていくための筆やスプーンもあるとよいでしょう。
デカルコマニーでは使用する素材によって効果が大きく変化します。道具を複数用意しておけば、道具の違いによる効果の変化も楽しめるでしょう。絵の具の代わりに墨汁を用意したり、紙の代わりにクリアファイルやアクリル板を使ったりしても作品の幅が広がります。
1.紙に半分の折り目をつける
まずは紙を半分に折ります。絵の具を置いた後だと折りにくくなったり絵の具が垂れたりするので、始める前に折り目をつけておくようにしましょう。できあがった作品は折り目を基準に左右対称になるので、絵の具を置くときの目安にもなります。
2.絵の具を紙に置いていく
折り目を中心にして片側、あるいは両側に絵の具を置いていきましょう。絵の具の置きかたにはいろいろな方法がありますが、いずれにせよたっぷりと多めの絵の具を紙の上に置くことが大切です。
まずは、パレットや小皿、ビンなどを使って5種類前後の絵の具を用意します。色が混ざり合う変化を楽しむためには、色の種類を増やし過ぎないことと、似たような色を選ばないことが大切です。
それから、用意した絵の具を使って筆で塗ったり、スプーンですくって上から垂らしたりして紙の上に色を置きましょう。このとき、特に決まりはないので自由な発想でチャレンジしてみてください。紙の上でチューブをしぼって出てきた絵の具をそのまま置く方法もあります。絵の具の粘度が高いほうがデカルコマニー独特の皺が発生しやすいでしょう。
絵の具に含まれる水分量が多くなり過ぎると、色が薄くなって反対側にうまく転写されない場合があるので、その点には注意しましょう。
3.紙を半分に重ねてこする
紙の上に絵の具を置いたら、折り目にそって紙を折り、絵の具が乾かないうちに反対側に転写します。このときには軽く合わせるだけでなく、置いた絵の具同士がしっかりと混ざるようにしっかりと押し付けて、軽くこするようにするとよいでしょう。
版画制作で用いるバレンを使ってもよいのですが、なければ手のひらでも十分です。紙を押し当てるときの力の入れ具合や圧力をかける方向も、デカルコマニーの効果のあらわれかたを変化させます。
4.広げる
転写が終わったら、いよいよ紙を広げてみましょう。デカルコマニーで1番胸躍る、楽しい瞬間です。紙が絵の具を含んで破れやすくなっているので、静かに広げるようにしましょう。
作品が完成したら、親子で感想を言い合ってみてくださいね。デカルコマニーには正解も不正解もありません。どの作品にも素敵なところがかくれています。よいところを見つけて、それをしっかり伝えてあげましょう。
楽しく取り組むことで子どもは美術が好きになり、さらには自己肯定感を育むことにもつながります。
失敗例:時間を置きすぎると、紙がくっついてしまう
小さい子どもでも簡単に取り組めるデカルコマニーですが、失敗しやすいポイントも存在します。それは、「紙を重ねる時間の長さ」。絵の具の転写が終わったら、時間を置かずにすぐに紙を開くのが大切です。
紙を閉じたままにしておくと絵の具がくっついてしまい「紙が開かない!」と慌てることになるので気を付けましょう。
デカルコマニーの作品【基礎編】
デカルコマニーのやりかたがわかったら、実際に作品を作ってみましょう。まずは、代表的な作品を基礎編として紹介します。
ちょうちょ
「ちょうちょ」は、特に紙を2つ折りにしてデカルコマニーをするときにぴったりのモチーフです。多めの色を使って華やかに仕上げましょう。紙に絵の具を置くときは、筆を使ってもチューブから直接出して指で伸ばしてもよいので、子どもにとってやりやすい方法を選びましょう。
作品ができあがったら羽ばたくように動かして遊ぶこともできます。ちょうちょの形に紙を切り、ひもを付けて、窓辺に吊るすのも素敵です。
とんぼ
「とんぼ」も2つ折りにして作るときにぴったりのモチーフです。絵の具を使うのもよいですが、墨を使っても水墨画のような味のある作品に仕上がります。墨汁は濃いめのものと薄めのものを用意しておきましょう。
とんぼを作るときのポイントは、完成したときの形をしっかり想像することです。年齢によっては少し難しいかもしれないので、その場合は大人が少しアドバイスしてあげましょう。胴体を描くときに太めに描くとバランスがよくなります。
花火
「花火」を作るときには、小さな子どもは指を使うほうがまっすぐな線を描きやすいでしょう。大きい子どもはスプーンで絵の具をすくって上から垂らすようにすると、線の太さに強弱が出ておもしろくなります。
花火のデカルコマニーを丸く切り取って、夏休みの絵日記に貼るのも素敵ですね。ちょうちょと同じく、多めの色でカラフルに仕上げましょう。
デカルコマニーの作品【応用編】
次に、デカルコマニーの前に準備が必要な作品について、応用編として紹介します。
こいのぼり
「こいのぼり」を作るときには、デカルコマニーを始める前に、紙をこいのぼりの形に切っておきましょう。尻尾の側を三角に切り取ると簡単にこいのぼりの形になります。
子どもが自分で切れる場合は自分で、難しければ大人がやってあげましょう。切れたらこいのぼりの形の紙を上下半分に折ります。
絵の具を置くときには、小さな丸をたくさん作るとより魚のうろこらしくなります。
紙を折って絵の具を転写したら、最後にこいのぼりの目を書きましょう。転写する前に目を書いてしまわないよう、注意してくださいね。
きのこ
「きのこ」を作るときには、丸い傘の部分をリアルに表現したいものです。そこで、紙を2つに折らずに作ってみましょう。まずは、きのこの傘の形と軸の形を別々に切り取ります。
次に、クリアファイルに絵の具をたっぷりのせ、その上にきのこの傘を重ねましょう。クリアファイルを使うと、透明な素材越しに色が混ざり合う様子を見られるのがとても興味深いでしょう。
最後に軸の部分を付けて完成させましょう。
デカルコマニーをより楽しむためのポイント
子どもと一緒にデカルコマニーを楽しむときには、材料を十分に用意しておきましょう。子どもは繰り返しチャレンジすることで、模様のあらわれかたや色の混ざりかたを学んでいきます。ぜひ、子どもの知的好奇心が満足するまで何度でもチャレンジさせてあげてください。
また、今回紹介したデカルコマニーの作品はあくまでも一例です。本記事の内容を参考に、想像力の翼を羽ばたかせて自由に作品作りに挑戦してみてくださいね。エルンストのようにデカルコマニーと通常の描きかたを組み合わせて作品を作るのもよいでしょう。前述のとおり、デカルコマニーには正解も不正解もありません。デカルコマニーに必要なのは技術ではなく想像力なのです。
紙を開く前には「どんな色が出てくるかな?」と語りかけ、一緒に期待を膨らませましょう。そして、紙を開くときには、親子で感動を分かち合いましょう。楽しく取り組むことで子どもは美術が好きになり、さらには自己肯定感を育むことにもつながります。
まとめ
シュルレアリスムの作家が好んで使った絵画技法デカルコマニーは、幼児教育の視点からも、子どもの成長を促す効果的な方法だといえます。
デカルコマニーをするときには、肯定的な言葉かけをしながら楽しんで取り組めるとよいですね。