「非認知能力」とは?非認知能力が高い人の特徴や育て方について解説
2022/08/05
「非認知能力」という言葉を、子育て中の保護者や子育てにかかわる仕事をしている人なら1度は聞いたことがあるでしょう。複雑で変化の速い現代社会において、一人ひとりがよりよい人生を送るためのキーとなる「非認知能力」。
令和3年度には、発達保育実践政策学センターが文部科学省より委託を受けて「非認知能力に関する保育・幼児教育施設の意識や取り組みと園児への影響に関する調査研究」を行っており、その重要性にはますます注目が集まっています。
この記事では非認知能力の定義や、非認知能力が高いとどうなるのか、非認知能力の伸ばし方などについて具体的に解説します。
非認知能力とは
非認知能とは、認知能力以外のさまざまな心の力を総称した言葉です。そのため、非認知能力を理解するためには、認知能力と比較しながら考えてみるとわかりやすいでしょう。
認知能力との違い
一般的に「認知能力」とは知能検査で測れる力のことをいいます。例えば、知識、理解力、計算力、思考力などがそれにあたり、IQと言い換えられることもあります。
一方で、非認知能力とは認知能力以外の「心の力」を指します。非認知能力は「非認知的スキル」「非認知的な心の力」などと呼ばれることもあります。
非認知能力は主に「自分に関する力」と「人とかかわる力」にわけられ、それらは以下のようにさらに細かく分類されます。
※非認知能力の分類は、国内外のさまざまな研究者やその研究内容によって、異なる場合があります。
非認知能力一覧
自分に関する力
・自尊心
・自己肯定感
・自立心
・自制心
・自信 など
人とかかわる力
・協調性
・共感力
・思いやり
・社交性
・道徳性 など
非認知能力の測り方
非認知能力の測定は、主要5因子性格検査(BigFive)やYG性格検査(矢田部-ギルフォード性格検査)といったパーソナリティ測定の尺度にそって行われる場合があります。これらの検査は「どのようなときにどのような行動をとるか」というようなアンケート調査により評価されます。
しかし、この方法では調査結果が本人の主観によって左右されてしまうのが現状です。そこで、学校などで非認知能力を測定する場合には、少しでも正確な評価に近づけるため、教員による評価が併用されることもあります。
非認知能力の測定では、いかに客観的なデータを反映させるかが課題です。非認知能力は数値化できる認知能力とは異なり、測定が非常に難しい力だといえるでしょう。
非認知能力はなぜ大切なのか
近年、非認知能力が世界的に注目を浴びることになったのには、アメリカで行われたひとつの研究がかかわっています。非認知能力の大切さを世間に伝えた「ペリー就学前プロジェクト」について紹介します。
「ペリー就学前プロジェクト」で非認知能力と社会的成功の関係が明らかに
ペリー就学前プロジェクトとは、ノーベル賞経済学者であるジェームズ・ヘックマンがアメリカのミシガン州で行った研究です。この研究は、ミシガン州のペリー小学校付属幼稚園に通っている経済的に恵まれない家庭に育つ幼児を対象に、1962年から1967年にかけて行われ、追跡調査が今も続いています。
就学前教育を受けた子どもと受けなかった子どもを40年にわたって比較すると、就学前教育を受けた子どもたちの方が犯罪歴が低く、大学への進学率が高いという結果が出ました。また、認知能力よりも非認知能力の方が、社会的成功に反映されやすいことが明らかになりました。
ヘックマンは、非認知能力を身に付けるには就学前が効果的だと述べています。小学校以降に受ける教育をしっかりと自分のものにするためには、幼児期にその土台となる非認知能力を伸ばしておくことが重要なのです。
非認知能力の高い人の特徴
ところで、非認知能力が高いとはどういう状態を指すのでしょうか?なかなかイメージしづらいという人も多いでしょう。
そこで、非認知能力の高い人の特徴について、子どもの場合と大人の場合にわけて具体的に紹介します。ただし、本人の個性もあるので、今回挙げる姿は一つの例としてとらえてください。
非認知能力が高い子ども
非認知能力が高い子どもは、自尊心や自己肯定感が育まれているために情緒が安定しています。また、自信や自立心を持っているため、わからないことがあったら自分で調べようとするでしょう。
嫌なことは嫌と主張しますが、協調性や思いやりを持っているので友だちとかかわり合いながら遊ぶのも得意です。また、正しいことをしようとして周りに働きかけたり、自ら努力したりできます。
非認知能力が高い大人
非認知能力が高い大人は、自分の気持ちをコントロールするのがうまいです。自信、自制心をしっかり持っているので、自分なりのペースで粘り強く物事に取り組み、着実に成果を出します。
ビジネスや家庭においてつまづくことがあっても、持ち前の自己肯定感を発揮して再び立ち上がり、素直に自らを見つめなおすことができます。自己主張ができて社交性も高いので、海外に出ても自分らしく活躍できるでしょう。
非認知能力の育て方!習い事や遊びの紹介
先ほども紹介したとおり、非認知能力は社会的成功と深いかかわりを持っており、それを伸ばすには幼児期が最適だといわれています。それでは、子どもの非認知能力を適切な時期によりよく育てるためには、周りの大人はどのようにかかわればよいのでしょうか?
一般的には、お手伝いをさせたり、好きなことに集中して取り組める環境を設定したりして、褒められる体験をつみ重ねることが大切だといわれています。また、一緒に遊ぶことを通じて「大切にされている」「愛されている」という実感をたっぷり与えることも重要です。
東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センターが、文部科学省からの委託を受けて行った令和3年度の「非認知能力に関する保育・幼児教育施設の意識や取り組みと園児への影響に関する調査研究」では、幼稚園、保育所、認定こども園などを対象に、非認知能力を伸ばすためにどのような取り組みをしているか、ヒアリング調査をしました。
調査結果が発達保育実践政策学センターのサイトで公開されているので、そちらを参考にしてみてもよいでしょう。
それでは、ここからはもう一歩踏み込んで、非認知能力を育てる習い事や遊びを、いくつかピックアップして紹介します。
非認知能力を育てる習い事
習い事を選ぶときには、苦手を補うためではなく、得意や好きだという気持ちを伸ばすことを重視してみてください。
また、目先の成績にとらわれ過ぎずに楽しみながら続けられると、非認知能力が育ち、結果的に習い事自体の上達も早くなるでしょう。
リトミック
音楽と体を動かすことを同時に楽しめるリトミック。多くの場合はグループレッスンなので、楽しい時間をお友だちと共有し、かかわり合いながら取り組むことができます。
そのため、リトミックは人とかかわる力を育てるのにぴったりだといえるでしょう。また、リトミックを通して大人に褒められる体験をすることで、自己肯定感や自信などの自分に関する力も育ちます。
絵画教室、工作教室
絵や立体作品などのアートを制作する教室では、自分らしい作品をのびのびと制作することで、自制心や粘り強さを自然に育てることができるでしょう。
また、できた作品を周りの大人に褒められることで、自信にもつながります。アートの世界には正解も不正解もないので、自分らしい作品ができたらしっかり褒めてあげましょう。自由に自発的に表現させることで、非認知能力を伸ばす効果はますます高まります。
自然教室
ボーイスカウトやサマーキャンプなど、自然とふれ合う教室もおすすめです。自然の中で周りの人と協力しながら何かを成し遂げたり、課題を克服したりといった経験を積むことで、自信や協調性が育まれます。
また、水泳や登山などに粘り強く取り組むことで自制心やたくましい心が育ちます。非認知能力を伸ばすためには、うまくいくことばかりでなく、本人に許容できる範囲でうまくいかないことを経験するのも大切だといわれています。
非認知能力を鍛える遊び
続いて、家庭でもできる非認知能力を鍛える遊びを紹介します。日常生活に取り入れやすいものをピックアップしたので、気軽に試してみてくださいね。
外遊び
友だちとボールで遊んだり、公園の遊具で遊んだりといった外遊びは、非認知能力を鍛えるのに効果的です。ルールのある集団遊びでは協調性や思いやりが育まれ、一人で縄跳びや自転車の練習をすることでも自制心やたくましい心が養われるでしょう。
工作遊び
習い事として取り上げた「絵画教室、工作教室」に通じるものがありますが、こういった取り組みは家でも実践できます。自分なりに創意工夫して粘り強く取り組むことで自制心や創造性が育まれ、その結果満足のいくものができあがると自信につながります。
読み聞かせ
絵本の読み聞かせでは、物語に入り込むことを通じて共感力、思いやり、想像力を養うことができます。また、大人の声や存在を身近に感じながら楽しい時間を共有することで「自分は愛されている」と実感することができ、その経験が子どもの自己肯定感を高めます。
非認知能力について学べる本
最後に、非認知能力についての学びをさらに深めたい人のために、おすすめの本を3冊紹介します。
「非認知能力」の育て方
日本の教育は、学力を重視するあまりに問題解決力やコミュニケ-ション力などの非認知能力を育むことがおろそかになっているともいわれます。
この本では、アメリカで子育てを経験した作者が、現地の教育事情から学んだ非認知能力の大切さや非認知能力を育む方法を紹介。子どもの可能性を伸ばすために家庭で実践できる方法も載っています。
非認知能力を育てる あそびのレシピ
こちらは、NHKのEテレ「すくすく子育て」を初めとしたテレビ出演や、公演活動などでおなじみの大豆田 啓友さんが執筆した本です。
幼児期に育てた力が大人になってから花を咲かせる非認知能力を、本書では「あと伸びする力」ととらえて説明。非認知能力を伸ばす「あそび」を楽しく紹介します。
非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180
この本では非認知能力を育むためにおすすめの絵本を180冊選んで紹介するとともに、非認知能力とは何か、そして現代社会を背景になぜ非認知能力が大切なのかをわかりやすく説明しています。
「非認知能力をはぐくむために大人が気をつけたいこと」の項目では、絵本以外の生活習慣にも目を向けて解説し、私たち大人が持っておくべき姿勢も学べます。
まとめ
社会の複雑さや変化のスピードはどんどん加速しています。子どもたちがそんな現代社会を生き抜いていくためには、認知能力(学力)を身に付けるだけでは不十分だといえるでしょう。
非認知能力は、子どもたちがよりよい人生を歩むための心強い味方です。そして、非認知能力を効果的に伸ばすためには幼児期の過ごし方がとても重要。非認知能力の伸ばし方をふまえたうえで、貴重な幼児期を大切に過ごしたいですね。