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「疑心暗鬼」とは?語源や類義語など例文を使いながら意味をわかりやすく解説

2022/10/22

認知度の高い四字熟語と言える「疑心暗鬼」ですが、実はその語源が遠い昔に中国で書かれた書籍にあることを知っている人はどれくらいいるのでしょうか。

また、「疑心暗鬼」の意味を説明してください、と言われて正しく答えられる人は、実はそれほど多くはないかもしれません。

今回は、誰もが知ってはいるが、改めて考えるとあまりよく知らない、そんな「疑心暗鬼」について、その意味や語源、正しい使い方から類義語、対義語、英語表現までを徹底解説していきます。

「疑心暗鬼」とは?

暗がりでPCを睨む女性
Pheelings Media/gettyimages

「疑心暗鬼」は、「疑う」という心情を表した四字熟語です。

単純に「疑う」「疑ってしまう」などと表現するよりも、対象をより深く疑っている状態を表す際に用いられる言葉です。

普段、何気なく使うこともある「疑心暗鬼」ですが、「疑う気持ち」のように単純な名詞に置き換えることができない、少し複雑な意味を持った言葉でもあります。「疑う気持ち」と「疑心暗鬼」には一体どういった違いがあるのでしょうか。

それでは、「疑心暗鬼」の意味について、詳しく解説していきます。

「疑心暗鬼」の意味

「疑心暗鬼(ぎしんあんき)」は、疑う気持ちが強くなると、何でもないことでも恐ろしく感じたり、怪しく感じたりするという意味の四字熟語です。

よく「疑心暗鬼に陥る」や「疑心暗鬼になる」といった使い方をされる言葉で、何か原因があって疑り深くなっているという状態を表します。

複雑な心理状況を描写する言葉として、古くから書籍でもよく使用され、特にミステリー小説では頻繁に使用されています。「疑心暗鬼」は全ての漢字を小・中学生で習うこともあり、教育を通して知る機会も多く、日常的にも使われる四字熟語でもあります。

そんな「疑心暗鬼」は、「疑心」と「暗鬼」という2つの言葉を組み合わせた熟語ですが、その語源は中国の古い書籍にあると言われています。

「疑心暗鬼」は中国の書籍『列子』が語源?

「疑心暗鬼」の語源は、中国の書籍『列子』であると言われています。

『列子』は、中国戦国時代の思想家である「列禦寇(れつぎょこう)」の敬称、または、列禦寇が書いた著書のことを指します。

『列子』自体は非常に古い書籍で、中国の後漢時代に編纂(へんさん)された『漢書(かんじょ)』にも記載されています。書籍『列子』は8巻8篇あり、そのうちの1つである『説符』に「疑心暗鬼」の語源となった記述があると言われています。

『列子』で用いられた「疑心、暗鬼を生ず」

『列子 ― 説符』にある「疑心暗鬼」の語源となったとされる記述を要約すると以下のようになります。

-------------------
ある日、鉞(まさかり)を失くした男が、隣の家の息子が盗んだと疑い出します。
一度疑い始めると相手の挙動全てが疑わしく思えてしまいます。
その後、すぐに鉞(まさかり)は見つかり、一度見つかってしまうと、隣の家の息子に怪しい挙動は一切なかったように感じられた。
-------------------

ちなみに「列子」自体には直接「疑心暗鬼」という言葉は登場していません。「疑心暗鬼」という言葉は、「列子」について書かれた別の書物『列子鬳斎口義(れっしけんさいくぎ)』に登場します。

此章猶諺言。
諺曰、疑心生暗鬼也。
心有所疑、其人雖不竊鉞、
而我以疑心視之、則其件件皆可疑。

この書物に出てくる「諺に曰く、疑心、暗鬼を生ず、と。」という部分が後世にも伝えられ、今なお「疑心暗鬼」という四字熟語として使われていると考えられています。

ちなみに、「疑心、暗鬼を生ず」の後ろの文章は、「心疑う所有れば、其の人鉞(えつ)不竊(ぬす)まずと雖も、我疑心を以て之を視れば、即ち其の件件皆疑う可(べ)し。」と訳されています。

「疑心暗鬼を生ず」は直訳すると、「疑う心を持って見れば、暗闇にいるはずもない鬼が見える」という意味となります。つまり、疑う心を持って見れば、怪しくないもの(人)も、怪しく見えたり疑わしく感じたりしてしまうということを「疑心暗鬼」と表現したということですね。

「疑心暗鬼」の正しい使い方・例文

OKサインを出す男女
kei_gokei/gettyimages

「疑心暗鬼」は「疑心暗鬼を生ず」を語源とする四字熟語です。

多くの言葉が時代とともに使い方を変えていく中で、「疑心暗鬼」は、語源となっている「列子」の時代から、言葉の持つ意味はほとんど変わっていません。

それでは、具体的な例文を見ながら、そんな「疑心暗鬼」の正しい使い方を解説していきます。

「疑心暗鬼を生じる(ぎしんあんきをしょうじる)」

「疑心暗鬼を生じる」という使い方は、「疑心暗鬼」の語源となった「疑心、暗鬼を生ず」に最も近い表現です。

例文
「部下の無数の嘘が発覚し、私は疑心暗鬼を生じた。」

「疑心暗鬼になる(ぎしんあんきになる)」

「疑心暗鬼になる」は、前述の「疑心暗鬼を生じる」とほぼ同じ意味で用いられる表現です。
「疑心暗鬼を生じる」に比べると、少し砕けた物言いとなるため、口語としては「疑心暗鬼になる」の方が使いやすい表現と言えます。

例文
「部下の無数の嘘が発覚し、私は疑心暗鬼になった。」

「疑心暗鬼に陥る(ぎしんあんきにおちいる)」

「疑心暗鬼に陥る」も、疑心暗鬼の状態になることを意味する表現で、「生じる」や「なる」と言い換えることも可能です。
「陥る」という言葉が、「落ちて中に入る」「よくない状態にはいりこむ」といった意味の言葉のため、疑心暗鬼というよくない心理状況になったことを、より強調する際に「陥る」という表現にすることもあります。

例文
「部下の無数の嘘が発覚し、私は疑心暗鬼に陥った。」

「疑心暗鬼」の誤った使い方

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Seiya Tabuchi/gettyimages

「疑心暗鬼」は、日常的にも使われる広く認知された四字熟語です。

ですが、「疑心暗鬼」自体が複雑な心情を表す抽象的な意味合いの言葉でもあるため、誤った使い方をされているケースもよく見かけます。

それでは、どういった表現が誤用になるのか、詳しく解説していきます。

「疑心暗鬼に駆られる(ぎしんあんきにかられる)」

「駆られる」とは、「ある激しい感情に動かされる」という意味の動詞です。

「疑心暗鬼に駆られる」とすると、「疑心暗鬼という激しい感情に動かされる」という意味合いとなります。

一見すると正しい用法にも見えますが、「疑心暗鬼」は「疑心という心の状態に駆られて、暗鬼のように何でも疑わしく見えてしまう心理状況」と訳すこともできるため、「疑心暗鬼に駆られる」では意味が重複しているという考え方もできます。

上記から、「疑心暗鬼に駆られる」は誤用である、とする人が一定数いる以上、公的な場所での発言や文書では、この表現を避ける方が無難です。

「疑心暗鬼を抱く(ぎしんあんきをいだく)」

「抱く」とは、「ある感情や考えをもつ」という意味の動詞です。

「疑心暗鬼」は、「疑う心を抱くと、暗闇にいるはずがない鬼も見える」という喩えが言葉の由来となっています。

そのため、「疑心暗鬼に駆られる」と同様、「疑心暗鬼を抱く」も意味が重複していると状態と言えます。「疑心暗鬼を抱く」に関しては、間違えやすい慣用表現として学校教育で紹介されることもあるため、誤った表現として改めて認識しておきましょう。

「疑心暗鬼」の類語

AとBを両手で比較する女性
metamorworks/gettyimages

「疑心暗鬼」は心の状態を表す名詞の1つです。

そのため、「不信感」や「猜疑心」など、似たような心情を表す名詞が類語となります。

「不信感(ふしんかん)」

「不信感」とは、相手を信じていない、または、信じられないという気持ちを表す名詞です。

「疑心暗鬼」の「疑心」に近い意味の言葉となるため、後に続ける動詞とセットで「疑心暗鬼」の類語として用いることができます。

例文
「部下の無数の嘘が発覚し、私は不信感を抱いた。」

「猜疑心(さいぎしん)」

「猜疑心」とは、人の言動を素直に受け取らず、疑ったり勘ぐったりすること、または、疑う気持ちを指す名詞です。

「疑心暗鬼」の類語としては、「不信感」とほとんど同じ表現で使われますが、「不信感」に比べると、より強く疑う気持ちが強調された表現になります。

例文
「部下の無数の嘘が発覚し、私は猜疑心を抱いた。」

「疑心暗鬼」の対義語

反対の方向を指す白と黒の矢印
Inna Kharlamova/gettyimages

「疑心暗鬼」の対義語として用いられる言葉として、同じく中国の書籍を語源に持つ四字熟語「明鏡止水」があります。

「明鏡止水(めいきょうしすい)」

「明鏡止水」は、一点の曇りもない鏡のことを指す「明鏡」と、静かにたたえて止まっている水のことを指す「止水」が組み合わされた熟語です。

2つの言葉の意味から、邪念がなく、澄み切って落ち着いた心を指す言葉として用いられます。澄み切った心の状態を指す言葉であることから、「疑心暗鬼」の対義語として用いられることもあります。

例文
「黙々と写経をすることで、私は明鏡止水の境地に達した。」

余談ですが、「明鏡止水」の語源は、中国の思想家「荘子(そうし)」の「徳充符篇(とくじゅうふへん)」に出てくる「明鏡」と「止水」だと言われています。

「漢書」にも記載されるなど、「疑心暗鬼」同様、古くから意味や形を大きく変えずに今もなお使われている言葉の1つです。

「疑心暗鬼」の英語表現

日本語と英語のアイコン
in8finity/gettyimages

「疑心暗鬼を生ず」という文章から転じて四字熟語となった「疑心暗鬼」という四字熟語。では、そんな「疑心暗鬼」は英語ではどういった言葉で表現されるのでしょうか。

単語や熟語に変換はできない?

「疑心暗鬼」自体が、「疑心暗鬼を生ず」という一文を意訳した言葉として用いられていることもあり、英語でも1個の単語や熟語で表現することは難しいようです。

日本の慣用句やことわざなどは多くの場合、似た意味を持つ文章を意訳する形で表現されます。

例文
「猿も木から落ちる」 → 「Even Homer sometimes nods.」

直訳すると、「ホメロス(古代ギリシアの詩人)でさえも時々、居眠りをして(うっかり)へまをやる」となりますが、これが「猿も木から落ちる」や「弘法にも筆の誤り」と意訳されます。

例文
「二兎を追う者は一兎をも得ず」 → 「If you run after two hares, you will catch neither.」

直訳では、「もし2匹のうさぎを追いかけると、どちらも捕まえられない」となります。「猿も木から落ちる」よりは直訳と意訳であまり差がないように感じますね。

このように、「疑心暗鬼」も英語では似た意味を持つ文章を意訳する形で表現されます。

「疑心暗鬼」に意訳できる英語表現

「疑心暗鬼」を英語で表現する際によく用いられるのが「doubt」と「suspicion」、「fear」といった単語です。
「doubt」と「suspicion」は「疑心」、「fear」は「恐れ」という意味を持つ単語です。

その他にも、「影」を表す「shadow」という言葉もよく用いられます。

英語では、これらをその他の言葉と組み合わせることで、「疑心暗鬼を生ず」に近い言い回しを表現します。

例文
「a doubt gnaw at~」 → 「疑いが~をむしばむ」
「jumping at my own shadows」 → 「自分の影に驚いて飛び上がる」
「suspicion produces fear」 → 「疑心が恐怖を生む」

学校教育で習う「疑心暗鬼」

教師の質問に答える手を上げた教室の小学生
Smederevac/gettyimages

「疑心暗鬼」は、大人になる過程で、いつの間にか自然と使えるようになった、という人もが多いのではないでしょうか。では、多くの場合「疑心暗鬼」は、一体いつどのような形で触れる人が多いのでしょうか。

「疑心暗鬼」はいつ習う?

「疑心暗鬼」は、使われている漢字のほとんどを小学校で習います。
文部科学省が公表している「学習指導要領」によると、それぞれの漢字は以下の学年で習得するとされています。

「疑」・・・第六学年
「心」・・・第二学年
「暗」・・・第三学年
「鬼」・・・中学校

「鬼」以外は小学校で、「鬼」に関しても中学校で習う漢字となっていて、「疑心暗鬼」自体も高校受験の試験問題として頻出する四字熟語として紹介されることもあります。

「文学」で出会う「疑心暗鬼」

本棚から一冊の本を選ぶ手
demaerre/gettyimages

「疑心暗鬼」は、複雑な心情を表す言葉として、古くから自伝や小説などでもよく使用されています。

「破戒」:島崎藤村

著名な小説家「島崎藤村」もその代表作である「破戒」において、「疑心暗鬼」を用いて登場人物の複雑な心情を表現しています。

「だつて君、考へて見たまへ。形のないところに形が見えたり、声の無いところに声が聞こえたりするなんて、それこそが君の猜疑(うたがい)深く成つた証拠さ。声も、形も、其は皆な君が自分の疑心から産出した幻だ。」
「幻?」
「所謂疑心暗鬼といふ奴だ。耳に聞える幻―」

これは破戒の作中にある登場人物の会話ですが、「疑心暗鬼」を説明するような会話となっています。破戒では、その他にも「疑心暗鬼」が使われているシーンがあることからも、島崎藤村が生きた時代には既に「疑心暗鬼」が広く認知されていたことが窺えます。

ミステリー小説でよく使われる「疑心暗鬼」

「疑心暗鬼」は、何か不信感を抱くきっかけがあり、そこから疑い深くなってしまった心理状態を表す際によく用いられます。

そういった言葉の性質からか、ミステリー小説(推理小説)で、被害者やその関係者の心情を表す際などによく「疑心暗鬼」が使われています。

このように、「疑心暗鬼」は古くから親しまれている四字熟語として、文学においても広く用いられています。

まとめ

中国の後漢時代の書物に語源を持つ古い言葉である「疑心暗鬼」。日本においても古くから様々な文学で使用されてきました。

そんな「疑心暗鬼」は、現代では漫画やアニメ、ゲームといった様々なメディアを通して出会う機会の多い言葉でもあります。これらのメディアではほとんどの場合、言葉の意味を丁寧に解説することはありません。

普段何気なく使っている言葉も、改めて意味を聞かれると答えられないものではないでしょうか。

参考書籍・サイト

 
 

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