美しい和菓子「上生菓子」一つのお菓子に込められた意味

2019/09/22

和菓子は季節とともに変化するもの。パッと見て何を模したかわかる形もあれば、どんな意味が込められているのか考えるものもあり……。繊細な意匠(デザイン)を生み出す職人の技についても知りたくなります。

季節を味わうために、和菓子をもっと楽しむために、東京都・巣鴨にある和菓子店「福島家」さんに教えてもらいましょう。

たった一つのお菓子で、どこまで表現するか

まず、ずらりと並んだ最初の写真を見てください。スイカを模した「涼夏」(中下)や、風物詩である「花火」(左上)、涼しげな水を表現した「つくばい」(左下)と、見ているだけでも楽しくなってきます。

「これらのお菓子は『上生菓子』とも呼ばれるものです。うちでは、朝作ってその日中、もしくは翌日までに食べていただきたいお菓子。短い時間かもしれませんが、お客様に少しでも楽しんでいただけるように、日々工夫して作っています」。

そう話すのは福島家の会長、福島敏夫さん。記録として1861年には営業していた記載があり、江戸時代から続く老舗です。

地下の工房で作られたお菓子は、このばんじゅうに入れて店舗へ。店先にはいつもできたての和菓子が並びます。

上生菓子では、昔から続く意匠を受け継いで作り続けているものもあれば、試行錯誤して新しい形や色を考え、時代に合ったものを生み出すこともあるのだそう。植物や行事など、季節を表すものはいろいろあり、それをどう形作って、色付けして表現していくかは職人の技。

「一つのお菓子でどこまで表現しているかを見てください。たとえばこの『朝顔』は、花だけでなく、葉とつる、さらに朝露まで作っているものです。きれいですよね」。

「朝顔」は、淡い桃色の練り切りで花を、緑の羊羹でツルと葉、さらに寒天で中心の朝露を表現しています。花を形作るのも、羊羹や寒天を切り出すのもすべて手作業。

季節だけでなく、土地柄も写す和菓子

巣鴨という土地は、秋になると菊祭りが開催されるほど、江戸時代から菊を育て、愛でる文化が根付いていたと言います。

「植木職人が多かったようで、明治時代までは『園芸の里』と呼ばれていました。菊まつりでは生花や菊人形がずらりと並んで見事です。そんな土地柄から、菊のお菓子も多く作っています」。

菊は秋を代表する花ですが、初夏から夏にかけて盛りを迎える品種もあります。「夏菊」は、夏の季語としても親しまれているほどで、それを表現したお菓子も。

「夏菊」は、古くから使い続けている菊の花の木型を使って作るもの。秋の菊の上生菓子とは色を変え、夏らしい爽やかな水色と薄い桃色のグラデーションに。

また、名前から趣を感じさせるものもあります。「朝顔」や「夏菊」はそのものを表した名前ですが、笹の葉を模したお菓子の名前は「願い笹」。

「古くから作り続けているものは、そのままの名前が多いのですが、新しく考えて作っているお菓子には職人が自ら名前をつけています。ただの『笹』よりも、七夕の雰囲気まで感じられる名前になっています」。

「願い笹」は、緑と白の練り切りを何層も重ねて作る笹の葉をモチーフにしたお菓子。寒天で包んだ黒あんを挟むようにして形作っています。

季節を感じられる和菓子もあれば、土地から生まれる意匠もあり、その店ならではの思い入れもある。一つのお菓子に込められた意味はさまざまです。かくも奥深きかな、和菓子の世界。皆さんも近所のお店へ足を運んでみて下さい。

Have a try!

□和菓子屋さんに行ってみる
□意匠について、お店の人に聞いてみる
□お菓子の名前に思いを馳せてみる

福島家
東京都豊島区巣鴨2-1-1
03-3918-3330
9:00〜19:00
水曜定休

撮影/広瀬貴子 構成・文/晴山香織

 
 

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