万年赤字の銚子電鉄がコロナに打ち勝ち、悲願の黒字化!「銚子電鉄の動力は電気ではございません。皆様の応援が動力です」
2022/09/26
「電車屋なのに自転車操業」の「自ギャグ」キャッチフレーズで知られる千葉県銚子市のローカル鉄道「銚子電気鉄道」。度重なる廃線や倒産の危機を乗り越えてきた動力は、地元の住民やファンの「応援消費」でした。
「ぬれ煎餅」で経営危機を回避。人手不足で社長が電車を運転 ……こんな鉄道会社、見たことない!
全長6.4kmのローカル私鉄ながら、全国区の知名度を誇る銚子電気鉄道(以下、銚電)。その売上の約9割を占めるのは鉄道事業以外の副業です。「鉄道の運営には毎年億単位のお金がかかります。鉄道だけではお先真っ暗ですので、売れるものは何でも売っています」。そんな竹本社長の言葉通り、銚電は駅名や線路の石をも販売。「売るものがなくなってきたので……」と、車内アナウンスや電車の走行音まで売っています。
一方で、経営状況の深刻さをギャグにした自虐ならぬ「自ギャグ」商品を続々開発。たとえば経営状況のまずさを自ギャグにしたスナック菓子「まずい棒」は、通算約400万本を売り上げる看板商品になりました。そんな銚電は昨年度(2021年度)、赤字から脱却(純利益21万円)。コロナ禍のさなかに悲願の黒字化を支えたのは、「まずい棒」をはじめとする物販でした。「私たちの動力はお客様の応援です!」と竹本社長。「銚電がんばれ」「つぶれないで」の思いを乗せ、今日も銚電は走ります。
銚子電鉄とは?
1913(大正2年)設立、2023年に100周年を迎える完全民営のローカル鉄道。銚子~外川間6.4kmを22分で結ぶ。人口減少や観光客の減少などにより厳しい経営状況が慢性的に続く。
21年度決算は「純利益21万円」で6年ぶりに黒字化。 ただし鉄道事業は1億3500万円の赤字
2021年度の総売上高は5億2,830万円。本業の鉄道部門での乗客数はコロナ禍により伸び悩みましたが、オリジナル商品の「ぬれ煎餅」「まずい棒」や鉄道グッズを売る物販部門の売上高は約4億5千万円で大幅増。物販で鉄道事業の赤字を埋める形で、21万円の純利益を達成しました。
銚子電鉄の売り上げの約85%が物販
本業の鉄道事業をもっぱら支えているのは、副業の物販。銚電の物販の歴史は今をさかのぼること24年、平成10年に始まります。親会社の倒産により連鎖倒産の危機をさらされた銚電が、本社の片隅で焼いて売り出したぬれ煎餅が多くのメディアに取り上げられ、話題に。副業のぬれ煎餅の売り上げが本業を上回り、倒産の危機を乗り切りました。
「鉄道だけでは食っていけない。だから何でも売っています」
「苦しいときこそ笑いを」。そして、「売上のためならなんでもやる」……そんな銚電の魂がこもったオリジナル商品のごく一部。銚電の駅とネット通販で買えます!
マズイんです! 経営状況が…
まずい棒
コロナ禍による乗客減少にあえいでいた銚電を支えた立役者の1つ。2018年8月3日(破産)18時18分(イヤイヤ)に発売されて以来のロングセラー。種類は「コーンポタージュ味」などレギュラーに加え、写真の「岩下の新生姜味」など限定品も続々登場。パッケージのイラストはホラー漫画界の重鎮・日野日出志先生の描き下し。10本入り450円。
「まずい棒」のPVには社長や車掌が出演。決めゼリフは「まずい……もう1本!」
鉄道よりも煎餅で稼いでいます
ぬれ煎餅
経理課長が自社HPに書いた「ぬれ煎餅買ってください!!電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」という叫びが「2ちゃんねる」でバズり大ヒット。(左から)「青の薄口味」、「赤の濃い口味」、「緑の甘口味」5枚入り各500円。
当社はこれで赤字が消えました?!
赤字が消える!暗記セット
コロナ禍での乗客減少時、何とか赤字を消したいという願いを込め、赤ペンとシートをセット販売。倒産の危機を何度も乗り越え走り続けてきた銚電の強運をお裾分けする縁起物。500円。
こんな物も売っています
・再建最中(さいけんもなか)
・鯖威張(さばいばる)カレー
・ペットのおやつ「わん太郎」
・アイドルマスター SideM 一日乗車券入り ぬれ煎餅
・運転士「袖山里穂」写真集
・駅名愛称ネーミングライツ
・線路の石(※現在は売り切れ)
日本一のエンタメ鉄道を目指しています
銚子の夏の風物詩 お化け屋敷電車
走る電車内と駅でお化け屋敷を体感できる超人気企画(2020~2022年はコロナで運休)。料金はぬれ煎餅の手焼き体験付きで大人2,500円。イギリスのBBCやカタールのアルジャジーラなど海外メディアの取材も多い。
社長がギャグを織り交ぜながら運転&観光案内 DJ社長が運転する貸し切り電車
銚子市のふるさと納税返礼品。社長自らが運転士とDJ(ディスクジョッキー)をつとめ、ギャグをたっぷり盛り込んだ沿線観光案内とともに銚子―外川間を1往復する。「DJ」は「ドン引きする冗談」の略でもある。
「鉄道がなくなった町はさびれてしまう。99年間支えてくれた地域に恩返しするためにも、電車を止めるわけにはいきません」
銚電のなりふりかまわぬ生き残り策の根底にあるのは、「絶対に電車を止めない」という思い。「地元のお客様、特に車の運転をされない方にとって鉄道は、通勤や買い物、通院など生活に欠かせない足。何が何でも生き残って、地域も一緒に元気にするのが私たちの使命です」と社長は話します。「こういう会社、好きだな」。「残ってほしいな」……そんな思いを込めたお買い物。「応援消費」は今後、社会を動かす力になっていくのかもしれません。
撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 取材・文/秋山由紀、『サンキュ!』編集部
参照:『サンキュ!』2022年11号 特集「応援消費を始めてみよう」より。掲載している情報は2022年9月現在のものです。