企業に求められるのは、だれかが抜けても柔軟に対応できる体制づくり~連載『はじめようフェムテック』

2024/08/20

2021年10月から、ニッポン放送でスタートした番組『はじめよう!フェムテック』。ベネッセコーポレーションとかます東京の共同企画で、社会的なムーブメントになりつつある「フェムテック」を、さまざまな角度から取り上げています。パーソナリティーは、おなじみの伊久美亜紀さんと東島衣里アナウンサー。この連載では、毎週オンエアされた内容を、ギュッとまとめてお伝えします。

番組ではフェムテックに関する、あなたの職場や家庭などでの問題点やポジティブな試みなどを募集いたします。ニッポン放送『はじめよう!フェムテック』宛にメール(femtech@1242.com)でお送りください。

<パーソナリティー>
●伊久美亜紀 Aki Ikumi
ライフスタイル・プロデューサー、企業コンサルタント。大学卒業後、『レタスクラブ』編集部、ハースト婦人画報社を経て、1995年~2022年までは、ベネッセコーポレーション発行のメディア総編集長として『たまひよ』『サンキュ!』『いぬのきもち・ねこのきもち』など年間約100冊の雑誌・書籍・絵本の編集責任者を務め、2023年に独立。32歳の長女一人。

●東島衣里 Eri Higashijima
長崎県出身。大学卒業後、ニッポン放送に入社。現在は「中川家 ザ・ラジオショー」(金 13:00~15:30)、「サンドウィッチマン ザ・ラジオショーサタデー」(土 13:00~15:00)などの番組を担当。最近、女性の健康、そして幸せについて友人と語り合うことが多くなった33歳。

<ゲスト> 
●山口慎太郎さん Shintaro Yamaguchi
1976年生まれ、神奈川県出身。東京大学大学院経済学研究科教授。1999年、慶應義塾大学商学部卒業後、2006年、ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号(Ph.D.)を取得。マクマスター大学助教授・准教授、東京大学大学院経済学研究科准教授を経て、2019年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。『子育て支援の経済学』(日本評論社刊)などの著書がある。プライベートでは一児の父。


認知が広がりつつある「フェムテック」を推進して、女性だけでなく社会全体の幸せを目指したい!という意気込みでスタートしたこの番組。ゲストは、東京大学大学院教授の山口慎太郎さんです。「山口先生いわく、経済学=お金というイメージをもっている人が多いけれど、実は私たちの生活に関わる広いことを扱える学問だそう。今、社会で注目されている課題について、きっとわかりやすく教えてくださると期待しています!」(伊久美)

“子持ち様論争” の解決に向けて、企業が実践し始めている取り組みとは!?

■東島アナ「ゲストは、東京大学大学院教授の山口慎太郎さんです。今回は、以前この番組でも取り上げました“子持ち様論争”について伺います。この言葉は、子どもの体調不良などを理由に欠勤や早退をしなくてはならない子育て中の社員に対し、“配慮や特別扱いをされている”と、職場で批判を込めて使われています。SNSなどに、“子どもが高熱だといって、また急に休んでいる” “仕事をバックアップする社員の作業量が増えた” などと書き込まれるケースがあるといいます。改めて“子持ち様”という言葉が生まれた背景には、どのようなことがあるのでしょう」

■山口「いちばん大きいのは、やはり子育てをしながら働く人が多くなってきた。もっとはっきりいうと、女性が仕事場で活躍するケースが増えてきたことだと思います。世の中の在り方がかなり変わってきて、社会の中で目に見える大きな問題になってきたのかなぁと思います」

■伊久美「私はこの子持ち様という表現を、あまり気持ちがよくない言葉だと感じていました。ただ、最近は少しずつ、さまざまな企業で対策が行われつつあるようですね」

■東島アナ「最近、おもちゃメーカーの『タカラトミー』は、育児などを理由に休業や短時間勤務をする従業員の業務をカバーする社員にも、応援手当を支給すること発表しました。その他『サッポロビール』を始めいくつかの企業も“育休カバー手当”を導入するというニュースが出てきています。育休をカバーした人に対して給与面でフォローするという制度が広がってきているわけです。まずは、手当の面でストレスを緩和するということなのでしょうか」

■山口「そうですね。やはり働く人にかかる負担は無視できないので、会社が手当という形で支給していくという姿勢はよい傾向だと思っています」

■東島アナ「ただ、資本が十分にある大企業でないと、導入はなかなか難しいようにも感じますが、いかがでしょうか」

■山口「実は必ずしもそうとはいえないと思っています。労働の世界では“ノーワークノーペイの原則”というのがあります。働かなかったら給料は支払われないことが大原則です。ということは、育休で業務から抜けた場合には、企業はその人にお金を支払う必要はなく、その分人件費は浮くわけです。育休の給付金というのは、育休を取っている人が受け取るのですが、実はこのお金は会社からではなく、雇用保険制度から支払われています。つまり、会社に負担がかかるわけではない。むしろ育休を取ることによって、会社は人件費の節約ができます。育児カバー手当は、この浮いたお金をカバーに回っている同僚の人に使ってもらうという一つの考え方です。中小企業に対しては、国から助成金が支払われていますから、大企業でないと手当を出せないとは必ずしもいえないと思います」

■東島アナ「なるほど。そういう循環なのですね。お金の面でのフォローは大きなポイントだと思いますが、ストレスの観点から、育児就業者のスケジュールや仕事量に対する不平不満というのもありますよね」

■山口「当然ありますよね。子どもがいないからといって、毎回遅番や夜勤ができるわけではないですし、そうなると、プライベートの時間をつくるのにも苦労してしまいます。この問題が注目されたのは最近のことですが、女性が活躍している企業では昔からあったことです」

■伊久美「そういえば“資生堂ショック”というのが記憶にあります」

■山口「はい、2017年に起きた“資生堂ショック”と呼ばれる事件です。これはまさに子持ち様が社内で大問題になり、それを解決しようとした資生堂の取り組みを指しています。当時、お子さんがいらっしゃる美容部員は、遅番や土日シフトに入らないことが当たり前になっていたそうです。これをカバーするのが、お子さんがいないかたやお子さんが大きいかたで、当然不公平だと感じるわけです。そこで会社は、“子どもがいるからといって遅番が自動的に免除されるわけではない。土日も月1日は出てほしい。そうすることは、ご自身のキャリアアップのためでもあるので、遅番や土日の出勤を検討して周囲のサポートも得てほしい” と説得したのです。結果、お子さんのいるかたが、遅番や休日に出勤するようになり、より職場で活躍できるようにもなった。カバーに回っていったかたがたの不平不満も、一定程度は抑えられるようになったと聞いています」

■伊久美「助け合いの精神みたいなものが生まれたのでしょうね」

■山口「まさにそうですよね。子どもがいるからといって、一部のかただけが負担の大きい業務を免除されてしまうと、やはりチームの中に一体感は醸成されにくいと思います。みんなで苦しいものを少しずつシェアしていくことが、チームワークを育む上で大切なことだと思います」

■東島アナ「現状を踏まえた上で、子育てにおいて、今後企業はどのような対応をすべきだと思われますか」

■山口「私自身、子どもはよく熱を出すとは、以前から耳にしていましたが、父親になるまで、これほど頻繁に起こることだとは知りませんでした。子どもを育てることは、本当に驚きの連続です。企業はそういう急な事態に対し、柔軟に対応できるような体制をつくっておくことが重要です。結果的には、子どもをもたない人にとってもメリットになると思います。また、どんな人でも病気になりますし、あるいは親の介護が必要になるかもしれない。そういった時に、仕事を抜けられるような体制があることは、子どものことに限らず、みんなが求めていることです。だれにとっても働きやすい会社にするための第一歩として、子育てをしている人が働きやすい会社をつくるということは大事だと思います」

●次回も、東京大学大学院教授の山口慎太郎さんをゲストにお迎えします。

合言葉は「はじめよう!フェムテック!!!」

【番組インフォメーション】 『はじめよう!フェムテック』は、毎週・土曜日15時50分~16時にニッポン放送でオンエア。聴き逃しは『radiko』のタイムフリー機能で、放送1週間後までお聴きになれます!

●記事まとめ/板倉由未子 Yumiko Itakura
トラベル&スパジャーナリスト。『25ans』などの編集者を経て独立。世界を巡り、各地に息づく心身の健康や癒やしをテーマとした旅企画を中心に、各メディアで構成&執筆。イタリア愛好家でもある。伊久美さんとは28年来の付き合い。https://www.yumikoitakura.com/

●撮影/寿 友紀 

 
 

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