『バチェラー・ジャパン』シーズン6が完結しました。今シーズンのバチェラーは、“歴代最高スペック”とも言われた医師・久次米一輝(くじめ かずき)さん。放送前から注目を集めていましたが、これまでのバチェラーとはちょっと違う魅力を放っていたようです。
『バチェラー』はもちろん、数々の恋愛リアリティショーの考察をしているエンタメライターの霜田明寛さんに、そんなシーズン6の見どころや、新しいバチェラー像について解説してもらいました!(以下、本編ネタバレを含みます)。
- 完璧に見えるバチェラーが持つ、たったひとつの“欠点”?
- “平等マン”と揶揄された理由と本音
- “婚活バトル”から“真実の愛”へ──変化するシリーズの方向性
- 「好き」を取っておいた──ラストシーンが持つ重み
完璧に見えるバチェラーが持つ、たったひとつの“欠点”?
今回の『バチェラー』は、王道でありながら、これまでのシリーズの進化形。良質な恋愛ドラマのようなシーズンだった。それには、予告編の時点から「すべてを備えたバチェラー」と期待値が高まっていた、医師・久次米一輝さんの人柄も影響していたように思う。
完璧に見えるバチェラーの唯一と言ってもいい“欠点”「好き」と言わない、という点が、今シーズンを面白くしていたのである。
彼の中の何が今回のドラマのような面白さを作っていったか、見ていきたい。
“平等マン”と揶揄された理由と本音
そもそも、今回のバチェラー・久次米一輝は、出演女性にも「平等マン」と揶揄されるほどで、皆に優しく、誰のことを好きなのかが分かりづらかった。そして、それは何よりも、バチェラー自身が自分の気持ちを言葉にしなかったからだ。
それについては、旅を終えた後の久次米自身が、あえて「好き」と言わない手法を取っていたことを告白。「不器用なのか意地なのか、あんまり好きって言葉を言いたくなかった」「軽くなっちゃう気がしてあんまり使いたくない」と、その理由も明かした。
さらに、言葉だけではなく、スキンシップの面でも、誰に感情が向いているのかがわかりづらかった。今回のシーズンは全体的にキスシーンが少なめで、あっても頬に軽くするのみ。最初にきちんとしたキスシーンがあったのはエピソード5だった。これまでキスシーンが多いバチェラーもいたため、初期のシーズンのファンからすれば物足りなく見えた部分もあったかもしれない。
例えばシーズン2の予告編では、「色仕掛け」「嫉妬」「裏切り」という言葉が踊り、シーズン4では序盤から多くキスが繰り出され、中盤には、女性と一夜をともにする展開も起こるなど、このシリーズに過激な印象を持つ人もいるかもしれない。
ただ、実は最近はそういった過激なシーンは減少傾向で、昨年配信されたバチェロレッテのシーズン3では、ハグなどの身体的接触をいきなり求める男性を、バチェロレッテ女性が毛嫌いする様子も映し出さされていた。
“婚活バトル”から“真実の愛”へ──変化するシリーズの方向性
確かに初期のシーズンは「婚活サバイバルバトル」を打ち出した構成で、序盤からキスシーンが連発し、ある種下世話な戦いが行われるところが『バチェラー』の見どころでもあった。
だが、近年の『バチェラー』/『バチェロレッテ』シリーズは「真実の愛を探す旅」といったロマンチックな方向にシフトしている。今回の予告編でも「運命のプリンセスを見定められるか」といったように「運命」といった言葉が多く飛んでいるなど、打ち出し方から変わってきている。
「真実の愛」「運命のプリンセス」といった言葉から考えると、いきなりキスをしてしまうのは、ロマンチックではなく、むしろ逆効果。相手の心をつかむ手段としてではなく、じっくり向き合ってお互いのことを好きになった結果としてのキスのほうが、リアリティもロマンチックさも増すはずだ。
その点、今回のバチェラー・久次米はデートの中でも簡単にキスを連発することはなく、ひとりひとりと向き合い、相手を理解することに時間を使っていた。参加女性は14人いたが、1対14のひとつの話ではなく、1対1の話が14個あるような構成だったと言っていいだろう。
「好き」を取っておいた──ラストシーンが持つ重み
久次米は、最後のひとりに選んだ女性に対して「心置きなく全部が終わって言えるから」「他の誰にも伝えてなくて」「最後の一人に取っておいた」と前置きした上でやっと「好きだよ」と言う。
ラストシーンが、初めて「好き」と言葉で伝える場面となった今回の『バチェラー』。長い旅の間で、好きという言葉を使わない、キスといった行動にもなるべく出さないできたバチェラーだからこそ、最後の選択が説得力のあるものになり、感動を呼んだ。
ちなみに、最後まで「好き」と明言しないのは、恋愛ドラマの王道パターンでもある。仮にお互いが好きだったとしても、いかに好きだと言葉にしないかが、恋愛ドラマのキモなのだ。
かの大ヒットドラマ『ロングバケーション』も、木村拓哉演じる瀬名秀俊と山口智子演じる葉山南は、絶対に好きとは明言しない。共同生活をして互いに惹かれ合い、中盤でキスシーンこそあるものの、その意味も明言されず、お互いにあれは何だったのかヤキモキするほど。だからこそ、最後の最後にお互いが名前を呼び合い、感情を爆発させるシーンが感動を呼んだのだ。
その意味では、久次米の「好き」と言わない戦略は(本人は意図していなかったとしても)結果的に恋愛ドラマのような構成・感動を生んだ。
「言葉にするのが下手」と母親に指摘されていたように、それは久次米の欠点と捉えることもできるかもしれない。だが、それにより、物語はドラマチックになり、過去のシーズンとも差別化されることになった。「最後のひとりを選ぶ」ことがサバイバルゲーム的ではなく、恋愛ドラマ的になって重みを持ち、新たな形の感動を巻き起こすことになったのだ。
シーズンを面白くする上では、言葉にできないという久次米の特性は欠点ではなく、強みだったのだ。やはり、久次米はすべてを備えたバチェラーだったのかもしれない。
『バチェラー・ジャパン』シーズン6
2025年6月5日(木) 20時より独占配信中
全9話
製作:Amazon
©2025 Warner Bros. International Television Production Limited. All Rights Reserved