持続可能な世界をつくるために、私たちは何を知ればいいのでしょうか?
ヒントを探して、「取り残されているひとをなくしたい」「ずっと住み続けられる地球にしたい」そんな思いを持って行動している人にお話を聞いていきます。雑誌「サンキュ!」のSDGs企画です。
今回は、青年海外協力隊の一員としてその地に降り立ってから、約40年にもわたりずっと寄り添い、援助を続けている一人の女性に会いに行きました。
会いに行った人
フェアトレード・ロシュン 理事 馬上美恵子さん
1 9 5 6年生まれ。学生時代に栄養学を学び、1 9 8 3年からJICA青年海外協力隊の隊員としてバングラデシュへ。現地で3年間活動した後、帰国後はバングラディュ料理教室や文化交流会などを主催しながら、彼の地で作られるノクシカタ刺繍作品を販売
栄養指導のため派遣された地で。誰も話を聞いてくれず、自分の無力にがく然とする日々
馬上美恵子さんがバングラデシュの地に初めて降り立ったのは、今から40年以上も前。27歳のときのことでした。
学生時代に学んだ栄養の知識をもとに貧しい人々の食生活を改善する。そんな使命をもって現地の言葉も学び、青年海外協力隊の一員としての渡航。子どもの頃から抱いていた「大変な思いをしている人の役に立ちたい」という強い気持ちからでした。
ところが
「卵や牛乳、肉を食べることが体にいいと伝えたところで、その人たちには買うお金がない。ろくに話も聞いてもらえませんでした」自分は何の役にも立てないのかと挫折感でいっぱいに。
そんな日々の中、50ccのバイクに乗って村々を訪ねていると、女性たちが軒先に座って、なにかをチクチクと縫っている様子に出くわします。それが馬上さんと、バングラデシュやインド北東部で1000年以上引き継がれてきた伝統の手工芸「ノクシカタ刺繍」との出会いでした。
「着古した服の布を継ぎ、重ね合わせて刺し子刺繍を施す。娘が嫁ぐ日ためにひと針ひと針刺していくなど家族のための手仕事。女性たちが穏やかないい顔で縫っていたのが印象的でした」
現金収入を得て自立しよう!女性 16 人を連れて都会へ。 地元では前代未聞の大事件
「この刺繍なら自立ができる!」 そう直感した馬上さん。販売に適した技術習得のため、首都であるダッカで研修を受けてもらうことに。当時、女性が2週間も家を離れるなどありえないという土地柄でした。
まずは彼女たちの父や兄を1か月かけて説得することからスタート。困難でも何とか説得できたのは、彼女たちの「やってみたい」という意思を感じたからと言います。
「女性の社会的位置づけがあまりに低くて、一人ひとりに悲惨なストーリーがありました。話を聞くうちに一生懸命になっちゃったんです」
活動当初は、与えられた布に刺繍をしての納品。現在では糸から草木染めをし、商品に仕上げるところまで女性たちが行います。それを適正価格で販売することで、対価を得ています。
刺繍とともに走り続けて40 年。文字さえ読めなかった女性たちは今やリーダーに
現金収入を得ることの意味は大きく、栄養状況を向上させたり、トイレの設備を整えて衛生面の改善をしたり。子どもに教育を受けさせることも可能になりました。
女性たちの中からリーダーとなってメンバーをまとめる人材も育ってきました。
「文字や時計も読めなかった人が変わっていきました。知識を得ると目がどんどん輝いていって」。
一過性の施しではなく、自立を助ける。それが馬上さんが目指した支援でした。刺繍は家族のそばで楽しく、穏やかにできることだから無理なく続けられてきた。
バングラデッシュの女性たちに、40年以上もの年月並走して「毎日がずっとフル回転」と話す馬上さん。
その笑顔から、ご自身も心豊かに楽しく活動を続けてきたことが伺えます。
撮影/砂原文 取材・文/加藤郷子 企画・構成/飯塚真希(サンキュ!編集部)