羽生結弦選手が挑む「4回転アクセル」とは?フィギュアスケートの「ジャンプ」を見分けるポイントを解説
2022/02/03
2022年2月4日から開幕する北京2022冬季五輪。数ある競技のなかでも、メダル獲得への期待がとくに高いのがフィギュアスケートです。五輪開幕当日の午前9:55(北京現地時間/日本時間10:55)に始まる「団体戦の男子シングル ショートプログラム」を皮切りに、2月20日の「エキシビション」まで、連日のようにフィギュアスケートが見られるということで、テレビ観戦を楽しみにしている人も多いのでは?
そこでサンキュ!では五輪開幕に合わせて、日本中が注目するフィギュアスケート競技の観戦がもっと楽しくなる情報をお届け。解説してくれるのは、さまざまなメディアでフィギュアスケートのライターとして活躍する長谷川仁美さんです。
- フィギュア演技のハイライト「ジャンプ」がわかれば観戦がもっと楽しくなる!
- 試合で跳ぶジャンプは6種類。見分けるにはどこを見ればいい?
- ジャンプは「着氷」が同じ……だから「踏み切り」に注目!
- ◯回転半ジャンプ=アクセル
フィギュア演技のハイライト「ジャンプ」がわかれば観戦がもっと楽しくなる!
「4回転トウループ+3回転トウループのコンビネーションジャンプを決めました!」とか「高いトリプルアクセルです!」といった実況中継を聞いたことがあるかもしれません。
これらは、フィギュアスケートのジャンプの名前です。演技中に何度も跳ばれるジャンプは、フィギュアスケートの演技のハイライトのひとつ。そこで、ジャンプについて、すぐにわかるあれこれをご紹介します。
試合で跳ぶジャンプは6種類。見分けるにはどこを見ればいい?
フィギュアスケートの試合で跳ばれるジャンプの種類は、全部で6つ。アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トウループの6種類になります。この順でむずかしいとされていますが、実際には選手によって、得意なもの、苦手なものがあり、体感としての難易度は個人によって異なります。
こうした6種類のジャンプ、見分けられたらちょっとかっこいいですよね。でも、テレビ画面で見てもぱっとわかるのは、どのジャンプも、助走してきて踏み切って空中に跳び、そこで何回転かしてから降りる、ということ。さて、どこを見たらいいのか……?
ジャンプは「着氷」が同じ……だから「踏み切り」に注目!
まず知っていただきたいのは、6種類のジャンプすべて、「着氷」が同じだということです。「着氷」、つまり「空中から氷に降りるとき」の動きや形がすべて同じ。「右足1本で後ろ向きに」なっています。ちなみに、大多数のスケーターは、左回り(反時計回り)でジャンプやスピンを回っています。左回りの場合は、ジャンプは右足着氷。時計回りの選手は左足着氷です。
ですので、6種類のジャンプは、「踏み切り」で見分けます。とはいっても、左右どちらの足の、スケートの刃のどの部分(外側とか内側とか)で踏み切ったのか、とか、つま先をついて跳び上がったのか、とかによってジャンプを区別するのですが、ジャンプの踏み切りって一瞬のこと。とても目が追いつきません。
ただし、6種類のうち1つだけ、すぐに見分けられるジャンプがあります。それは、「アクセル」です。
踏み切りのとき、アクセル以外の5種類は「後ろ向き」で踏み切るのですが、「アクセル」だけ「前向き」で踏み切ります。わかりやすいので、すぐ見分けられるはずです。
◯回転半ジャンプ=アクセル
「アクセル」について、もう少し詳しいお話を。
さきほどお伝えしたとおり、「ジャンプはすべて、『後ろ向き』で降りる」もの。ですので、アクセル以外の5種類のジャンプは「後ろ向きに踏み切って」、「後ろ向きに着氷する」ので、踏み切ったのと同じ向きで降りてきます。ところが「アクセル」だけは、「前向きに踏み切って」、「後ろ向きで降りる」ジャンプ。そのため、ほかのジャンプと比べて「半回転多い」ことになります。
「3回転半ジャンプ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは「3回転と半回転のジャンプ」→「3回転アクセル」ということ。つまり「3回転半ジャンプ」=「3回転アクセル」なのです。「3回転」は英語で「トリプル」。そのため、「トリプルアクセル」と呼ばれることもあります。
羽生結弦選手は、「4回転アクセル」に成功するか?
羽生結弦選手が、史上初めて成功させようとしているのは、「4回転アクセル」です。つまり踏み切りから着氷までの1秒に満たない短い時間のなかで、「4回転+半回転」をしようとしているのです。
羽生選手の4回転アクセルが見られるかもしれないのは、フリー。2連覇している五輪の舞台で、羽生選手は世界初の大技「4回転アクセル」を成功させるのでしょうか。これもまた、この大会の大きな見どころのひとつです。
ちなみに、「アクセル」とは、車のアクセルのように加速することではありません。1882年に史上初めて「1回転半ジャンプ」を国際大会で跳んだのがノルウェー人のアクセル・パウルゼンさんだったから、と言われています。ほかにも、ルッツやサルコウというジャンプも、初めて跳んだ人の名前がつけられています。
ジャンプの回転数は目で見てわかるもの?
フィギュアスケートの仕事をしていてよく聞かれるのが、「4回転とか3回転とかの回転数って、本当に目でわかるのですか?」ということです。これに対する私の答えは、「見分けられます。ただし、わからないときもあります」です。
選手たちはジャンプのあいだ、空中でものすごいスピードで回っています。とはいえ私も長年見ているので、回転数は体感でわかります。「1……2……3……4」と数えているのではなく、感覚ですね。また、「この選手は、このジャンプを4回転で跳ぶ」という蓄積された知識もあるので、そうしたものにも助けられます。
上手な4回転ジャンプは見分けにくい!?
ですが正直に言うと、わからないこともあります。それは、とても上手な4回転を見たときです。4回転というのはスピードある助走から力強く踏み切ることが多く、滞空時間もほんの少し長いのですが、助走が軽くて比較的すぐに降りたように見えたとき、「あれ?今の、3回転だった?」と混乱してしまいます。
ちなみに、女子選手のジャンプはほとんどが3回転なので、まず女子選手の演技を少し見て目を慣らすのがいいかもしれません。「3回転ってこのくらいだな」という基準ができてきますので、ぜひジャンプに注目してみてください。
ジャンプの回転数は衣装に注目するのも◯
もう少し意識的に見極めたいときには、選手の衣装や髪形などにどこか1つポイントを決め、ジャンプのときにそれを見つめていると、「1、2、3……あ、3回ポイントが見えた。だから3回転だ」とわかります。
たとえば、今シーズンの坂本花織選手。フリーの衣装はブルー系なのですが、背中が大きく開いています。ブルー系と肌部分の色のコントラストが強いため、背中をポイントにしてカウントすると見分けやすいです。背中が3回見えたら3回転。2回見えたら2回転になりますね。五輪で衣装を新調する可能性もありますので、その場合はまた別のポイントを探して、カウントしてみましょう。
ただしここで注意点があります。2回転半のときにも、見ている場所(テレビカメラのアングル)によっては、ポイントが3回見えることがあるのです。
ですが皆さんはもう、ここまでの解説で「2回転半」はつまり「2回転アクセル」で「前向き踏み切り」だということをご存知ですね。「前向き踏み切り」では3回背中が見えても、女子選手の場合はたいてい2回転半(2回転アクセル)です。
ときどき3回転半(トリプルアクセル)を跳ぶ女子選手がいます。北京五輪では樋口新葉選手やワリエワ選手など数人が3回転半を跳ぶはずですが、3回転半は迫力が違うので、「前向きだけど、この迫力は2回転半ではない!」とわかります。
また、男子の場合は、ポイントが4回見えても3回転半の可能性が高いです。1つの目安として、参考にしてみてください。
◆監修・執筆/長谷川仁美
ライター。1974年静岡市生まれ。1992年アルベールビル五輪の伊藤みどりさんのころからフィギュアスケートを見始め、2002年より取材開始。選手、コーチ、振付師、関係者など、数多くのインタビューを行ってきた。『蒼い炎II ー飛翔編ー』(羽生結弦)の構成、雑誌『フィギュアスケートLife』、雑誌『Ice Jewels』、Web媒体などでの執筆、オンライントークの企画運営、スケート関連雑貨の企画販売なども。保育園児の育児に揺さぶられる日々を送っている。