保育園・幼稚園の無償化、現場で働く人はどう感じているのか?
2019/11/03
少子化対策や子育て支援の一環として、幼児教育・保育の無償化(以下、幼保無償化)が2019年10月1日からスタートして、約1カ月が経ちました。
すでにお子さんが通っている幼稚園や保育園、自治体の説明会などで話を聞いたママ・パパも多いはず。しかし、一部保護者への費用負担が求められるケースや、園の種類によって助成を受けられる金額が違ったりするなど、説明を受けてもいまひとつよくわからないという声もちらほら聞こえてきます。
また、現場で働く保育士、先生たちが今回の無償化についてどう感じているのかも気になるところです。そこで今回は、関係者たちの声をまとめるとともに、幼保無償化について改めて解説します。
(取材・文/みらいハウス 野呂知子)
幼保無償化に対する、ママ・パパたちのリアルな声
まずは、幼保無償化の取り組みについて、子どもを預ける側のママ、パパたちはどう考えているのかについて。未就学児から小学生までのお子さんを持つママ、パパを対象に、「幼保無償化について、どのように考えていますか?」というアンケート調査を行いました(みらいハウス実施/有効回答数39 )。
そのときのアンケート結果を一部ご紹介します。なおこちらのアンケートは、幼保無償化実施前に行われたものとなります。
賛成意見の一例
「個人的には無償化よりも保育士さんの待遇を改善してほしいと思っていますが、通園のための費用に補助が出るのであれば、活用したいです」
「幼稚園に入園させたいと思っています。幼保無償化でそこそこ補助が出るので、貯金もできるし、かなり助かります」
「幼保無償化は、何かと出費の多い子育て世帯にはいいのではないでしょうか」
「利用者としては費用負担が少ないほうがありがたいので賛成。ただ、区別のない公正な無償化と、ほかの部分でしわ寄せがこないような状態に期待したい」
反対意見の一例
「幼保無償化で、幼稚園や保育園で働く人の環境や待遇の改善がおろそかにならないか心配です。幼児教育の現場で働くことに誇りを持てるような職場になってほしい」
「タダだったら幼稚園に入れようと思うお母さんが増えるとなると、幼稚園でもいいから預けて働きたいというお母さんたちが、子どもを希望の幼稚園に入れられずあふれてしまうのではないかと心配です」
「金銭的にはありがたいですが、働きやすさはあまり変わらないのではないでしょうか。幼稚園も無償化となると、お金がかからないぶん、逆に働く女性は若干減るかもしれないですね」
現場で働く保育士から厳しい意見も
子どもを預ける親たちの意見は賛否わかれるものの、無償化による金銭的な負担減にはおおむね好意的な声がほとんどでした。一方で、実際に働くかたたちはどう考えているのか?ここでは、東京都内にある私立保育所(企業主導型)で働く、20代の女性保育士にお話をうかがいました。
なお、この意見はあくまで一例であり、業界全体の意見でないことを先にお断りしておきます。
保育士の環境は変わらず、制度に疑問(20代・女性保育士)
結論として、無償化になったことで保育士としては今までと環境が変わることはいっさいありません。手続きのお手紙を配布したり、保護者のかたからのお問い合わせに答えたりする程度です。
幼児教育を利益の出るものと考え、保育園の立ち上げに参加し始める企業が増えるのなら、保育の質は落ちていくでしょう。これは無償化だけでなく、企業主導型の保育園に助成金が積極的に支給されていることも原因の一つになると思います。
幼稚園は教育で保育園は福祉施設と、そもそもの目的が違います。子育てがむずかしく預けざるを得ないご家庭のお子さんが行くのが保育園。収入に伴って支払う料金も違うため、たくさん収入を得て働くかたは、その額に見合った料金を支払います。そのお金に糸目をつけたいと願ったかたはいないはず。
一方で、幼稚園の教育を受けたいのに受けさせてあげられないかたもいたかと思います。なぜ、この2つの異なる環境をすべて無償化にしたのでしょう?なかには、保育園に長時間預ける理由がないのに預けるかたが増え、親子の絆を深められない世の中をつくるのではないかと思ってしまいます。
アンケート調査・取材からわかったこと
実際に対象年齢のお子さんを育てているママ、パパから、費用面で幼保無償化はありがたいという意見が多く挙がっていました。
一方で、無償化となることで保育の質の低下を気にする声も多かったのが印象的でした。そして、保育士のかたも同様のポイントについて憂慮しています。
幼保無償化は、待機児童問題や少子化問題を解決したいという国の考えに基づいて行われるもので、社会的にも意義のある政策です。しかし、現場で働く人のなかには疑問を感じる人がいるのも事実。保護者と保育士・先生たちの双方が納得する形になるには、まだ課題が残るようです。
【解説】そもそも幼保無償化(幼児教育・保育の無償化)って何?
幼保無償化(幼児教育・保育の無償化)とは、幼稚園や保育所に通うすべての3~5歳の子どもと、保育所に通う0~2歳の住民税非課税世帯の子どもについて、それぞれ利用料を無料にするというものです。
2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」と、2018年に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~」(いわゆる骨太方針)による、国の重要な政策の一つです。
幼保無償化の対象となる年齢と施設
幼保無償化は、0~2歳児クラスと3~5歳児クラス、対象施設に該当しているかどうかなどのこまかい条件によって内容が大きく異なります。まずは、幼保無償化の内容を対象施設ごとにご紹介します。
幼稚園(3~5歳児)
原則、小学校就学前の3年間が無償化の対象です。ただし、お子さんが通う幼稚園が子ども・子育て支援新制度の対象になる場合無料となります。対象とならない場合、月額上限25,700円まで無料。「預かり保育」の利用は、「保育の必要性の認定」を受けることにより月額上限11,300円まで無料。
※ただし、後述しますが幼保無償化の対象外となる一部の費用に関しては、これまでどおり支払う必要があります。
認可保育所、認定こども園、地域型保育など
3~5歳児は完全無料。0~2歳児は住民税非課税世帯のみ無料。
認可外保育施設など
認可外保育施設のほか、ベビーシッター、病児保育事業、ファミリーサポートセンターなどが含まれます。
3~5歳児は、就労などによる「保育の必要性の認定」を受けた場合、月額37,000円までの利用が無料。上限額の範囲内において、複数サービス利用も可能です。
0~2歳児は、「保育の必要性の認定」を受けた、住民税非課税世帯が対象で、月額42,000円までの利用が無料となります。
無償化の対象とならない費用は?
無償化という名称ではありますが、幼稚園や保育園にかかるすべての費用が無償となるわけではありません。たとえば、無償化の対象とならない費用として、以下のような費用が挙げられています。
・入園料
・通園にかかる交通費(スクールバス代含む)
・お弁当づくりにかかる食材費
・病児保育料
・制服などの学用品代
・行事費など
食材料費については、別途、住民税非課税世帯や年収360万円未満の世帯などへの費用免除制度があります。
無償化には手続きが必要なことも
これからお子さんを幼稚園・保育園に入園させる場合は、施設利用開始日の前日までに、認定手続き(施設等利用給付認定申請)を完了させておかなければなりません。入園予定の施設またはお住まいの自治体にお問い合わせください。ただし、すでに幼保無償化対象の幼稚園・保育園に通園中のお子さんがいる場合、認定申請手続きは不要です。
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以上が、今回の幼保無償化の概要です。内容が複雑でわかりにくい点もありますが、幼稚園や保育園だけでなく、ベビーシッターやファミリーサポートセンター事業も利用できるとあって、子育て世帯への心強い支援になることは間違いありません。
■取材・文/みらいハウス 野呂知子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。地域と産後の女性の働き方に関心があり、19年5月から参加。小学生の子どもがいる。