瀬戸内海の小さな島に「光を味わう家」を建ててしまった普通の主婦の話

2019/09/22

「これさえあれば自分はハッピーになれる」そんな何かを持っている人って、強いですよね。あなたにはありますか?

日々のちょっとしたことを、自分をハッピーにする素に変えてしまう、まわりをハッピーにしてしまう、そんな人を全国に訪ねてみました。あなたの”ハッピーの素”になるヒントが見つかりますように。

子どものころに見た美しい光の記憶を頼りに、家を建てる

子どものころによく遊んだ、祖母の家の押入れの中で。

「ちょっとだけ戸を引くと、暗がりの狭い空間の中に一筋の光が差し込み、その美しさに心がキュッとしました」。世古さんはそのキラキラとした美しい光を、今なお、忘れられないといいます。

お宅に一歩入ると、心地よい空気感や静謐(せいひつ)さ、そして、柔らかな光の陰影にハッとさせられます。世古さんの美意識が詰め込まれた空間です。

瀬戸内海に浮かぶ島の1つで生まれ育ち、同じ島の人と結婚。旅に出かけたことこそあるけれど、世古さんの人生は、ほぼこの小さな島の中にありました。書店もなくて、大好きな本は移動図書館頼み。ネットで何でも検索できる時代ですが、実はとっても苦手。世にあふれる情報からは、自然に距離をおいているような暮らしぶりです。

だから、この空間をつくり上げるもとになったのは、押し入れの中で見た光だったり、小学生のころ通学路で見かけた、海沿いに立っていた貝を加工する小屋だったり。古い祖母の家の記憶だったり……。情報としてあらためて仕入れた知識からでなくて、子どものころから見ていた島の景色の、大好きな断片をヒントに、その美しさが再現されています。

「朝は人がいっぱい働いていて、にぎやかだった貝小屋も、夕方私が小学校から帰宅するときにはだれもいなくて、シーンとなるくらい静か。その様子を見ていると悲しく感じるのに、その寂しげな風情になぜか惹かれたんです。そういう、苦しいくらいに、心がキュッとなるものが好きです」と世古さん。

何もない場所だから、光の動きや人が運ぶにぎわいをより味わえる

1日の光がどう動くかを考えて窓を作り、壁を作り。「南側の光を遮るように壁を作りたいと言ったら、大工さんにはびっくりされました」。

でも、さんさんと入り込む光を半分遮っているから、戸を開けた瞬間に差し込む光が美しく感じられるし、光が当たるときと当たらないときの、白の色の違いにも気がつける。ソファに座り、光の変化を感じながら本を読むとき、世古さんは幸せを感じるのだそうです。

2人の子どもは、もう大学生と高校生。すでに島を出て、今は夫婦2人暮らし。からっぽに近い、ガラーンとした子どもたちの部屋は寂しいけれど、そういう無の空間も好き。

「子どもが帰ってきて、派手な色の洋服やバッグを持って、そこを動いたり、物を置いたりする様子を空想するんです。そうやって色や物がたされるから、家自体は白がいい。無の空間がいいと思っています。何もない空間が、私には必要なんです」

世古さんの強さは、自分の〝好き〟がはっきりしていて、ぶれないこと。それは、〝どこそこの、なになに〟という名のあるものではなく、子どものころから見てきた風景の積み重ねのうえにあるもの。好きがたくさん詰まったおうちが世古さんのハッピーを支えています。

#素材が好きなんです
コンクリートブロックをオブジェとしてリビングに置き、はや16年。好きな素材は変わりません。ほかには古いブリキや朽ちた雰囲気のある木などの素材に惹かれます

#午後の光
午後になると、西側の窓から家の中に光の道ができます。「部屋の中の色も、影の印象もどんどん変わります」。陰影の美しさを日々感じながら、世古さんは暮らしています

#記憶に残る小石
祖母宅の土間の風景を残したくて、玄関には石を埋め込みました。「世の中、変わっていくことばかりだけど、この家だけはいつまでも変わらぬ場所にしたいんです」

#古くなるといいな
家の前にある、公営プールの古びたコンクリート壁が好きで家もコンクリートに。「プールの壁に負けない味わいになるといいなと思っています」。古さはイヤなことではなく、時間だけが作ることができる、憧れ

#人の気配をイメージしてみる
子どもたちの部屋は、ほぼからっぽ。何もないから、人がいる風景を想像できて楽しいのだそう。人が入ってこの家は完成するから、物はたくさんなくてもいいのです

#からっぽが美しい
リビングにある、古道具店で見つけてきた棚。こまごまとした物の整理にぴったりですが、実はからっぽ。「中に何も入っていない〝箱〞が好きなんです」

愛媛県 世古愛さん
『サンキュ 』誌面にも何度となく登場し、そのたび、物の少なさと暮らしの豊 かさに、反響大。時々、好きで仕入れた雑貨&古道具をイベントで販売するこ とも。愛媛の島に生まれ育ち、今も暮らしている

Have a try!

□家に入る光を意識してみる
□「美しいな」と感じたものを思い出してみる
□SNSを1日開かないで過ごしてみる

参照:『サンキュ!』2018年8月号「わたしのHappyのつくりかた」より抜粋。
撮影/砂原文

取材・文/加藤郷子
出版社にて料理・生活情報誌編集を経てフリーに。得意ジャンルは暮らしまわりいろいろ。趣味は食べること。取材先で見つけた小さな知恵を家で試して、うまくいったらほくそえむこと。著書に『あえて選んだせまい家』(ワニブックス)、共著書に『「北欧、暮らしの道具店」店長のフィットする暮らし』(パイ インターナショナル』、編著書『アートと暮らすインテリア』(パイ インターナショナル)など。

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