虹の旗でパターン化された手

「先生はゲイです」LGBT当事者の小学校教師がめざす社会とは?

2020/02/16

ある日突然、我が子や親しい友人など がLGBT(※)の当事者であることをカミングアウトしてきたら、どう向き合い、何と声をかければいいのでしょうか?適切な対応を取れる自信がある人は、あまりいないのではないでしょうか。

今回は、そんなLGBTへの理解を深めるために活動している人をご紹介します。都内の公立小学校で非常勤講師として、特別支援や算数少人数のクラスを受け持ちながら、ゲイであることをカミングアウトし、講演活動やLGBTに関わる自治体の電話相談などに取り組んでいる「シゲ先生」こと鈴木茂義さんです。活動を始めたきっかけを含めて、お話を伺いました。

(取材・文/みらいハウス 渡部郁子・野呂知子)

※LGBT:性的少数者(セクシュアルマイノリティ)を表す言葉。レズビアン(女性で同性を好きになる人。女性同性愛者)、ゲイ(男性で同性を好きになる人。男性同性愛者)、バイセクシュアル(女性を好きになることもあれば、男性を好きになることもある方。両性愛者)、トランスジェンダー(自認する性別と出生時の性別が一致していない人のこと)の、それぞれ頭文字を取った総称の1つ。

「シゲ先生」がカミングアウトするまで

――カミングアウトする前は、小学校の正規職員として担任を持っていたそうですが、どのような経緯でカミングアウトすることになったのでしょうか。

シゲ先生 クラスを担当していた当時の私は、児童たちに「誠実であれ、素直に生きろ」などと熱く語るタイプの教師でした。しかしゲイであることを隠している自分自身と、クラスの子どもたちに対する自分の言動にずっと矛盾を感じていました。やがて「このまま矛盾した状態で子どもたちの指導を続けていくことはできない」という思いが大きくなり、カミングアウトしたいと思うようになりました。

けれど、カミングアウトした場合、子どもたちや保護者、学校関係者に受け入れてもらえるとは到底思えなかった。否定されるのが怖くて、カミングアウトしたいけどできない……と悩んでいたころ、そういった悩みを抱えた人を応援する『OUT IN JAPAN 』というプロジェクトに出会ったんです。

そこでは、800人を超える人が既にネット上で、LGBTQの当事者であることをカミングアウトしていました。しかし学校の先生はひとりもいませんでした(当時)。その瞬間に「もし自分だったら、学校の先生として社会的にカミングアウトできるかも……」と思いました。そして学校への影響などもあると思い、カミングアウトするなら、一度教師を辞めよう、と考え、その年の担任が終わってから、学校を辞めてカミングアウトしました。

カミングアウトしたあと、受け持っていたクラスの子どもたちに会う機会がありましたが、「ふーん、そうなんだ」と誰からも否定されることなく受け入れられていたことを感じました。

その後、講演活動や執筆活動などを始めましたが、教師という仕事がやっぱり好きだったので、非常勤の仕事に応募。ゲイであることを隠さずに働きたいと決意し、同僚に少しずつカミングアウトしながら、いくつかの小学校で勤務しています。


――非常勤の小学校教諭として、どのような授業を担当しているのでしょうか?

シゲ先生 ある学校では特別支援クラスを担当し、別の学校では、算数少人数クラスを受け持っています。このほかに、困りごとを抱えている子どもの相談場所を作る取り組みなどに対応することがあります。

それに加えて、教員としてゲイであることをオープンにして仕事をすることで、学校にいるLGBT当事者の子どもを助けたい――そのロールモデルになれたらいいなと考えています。

ただ最近は、LGBTの活動をしていくうちに、当事者の子どもだけではなく、周りの子どもたちにも考えるきっかけをつくらなきゃいけないと思うようになりました。「多様な人がいて、さまざまな価値観がある」ということを教える機会はあまりないですし、子どもたちが知る機会も、考える機会もほとんどない、ということに気づいたんです。

LGBTと聞いても驚かない子どもたち

nadia_bormotova/gettyimages

――ご自身のことを、子どもたちにはどのように話していますか?

シゲ先生 2年くらい前まで「シゲ先生はゲイなんだ」っていうとすごくビックリされたんです。でも最近はあまりビックリされなくなりました。「テレビで観た」「YouTubeで観た」「(LGBTがテーマになっている)映画やドラマを観た」など、メディアで見て知っている子どもたちが増えてきて、時代が急速に変わりつつあるのを感じます。


――カミングアウトについては、どのように考えますか?

シゲ先生 僕の場合はカミングアウトをして受け入れられたことよりも、自分でカミングアウトをすると決めて、自分でカミングアウトできたことに自信が持てたし、そんな自分に対して自己肯定感がすごく上がったんです。カミングアウトするにしてもしないにしても、その決断と行動が誰からも尊重されることが大事です。

無理にカミングアウトを勧めることもないし、カミングアウトしないほうがいい、と言うわけでもない。その人の置かれている状況や、まわりとの関係、コミュニケーションの状態などによっても大きく左右されると思うので、その決断を尊重してもらえるような環境づくりがとても大切だと感じます。

多様な価値観との接触は子どもはもちろん、大人にも必要

――学校教育の中でLGBTについて教えるとしたら、何歳の頃がいいと思いますか?

シゲ先生 早すぎることはないと思います。例えば幼児教育のころから、いろいろな価値観や、いろいろな人に接する機会といったものに触れられることが大切ではないかと考えています。

学校教育は、みんなで一緒にできることをよしとする価値観がいまだ根強く、差別や偏見につながる可能性も指摘されています。その一方で、多様な人が共生する社会をめざす取り組みも増えてきている。私のいちばんの願いは、すべての子が、より豊かに健やかに過ごせる社会にしていくことですね。


――LGBTについて、子どもに教えるには、どのように話かけたらいいでしょうか?

シゲ先生 一番いいのは、面白くて楽しい、いろんな人と出会う機会をつくることです。あとは、「ボヘミアン・ラプソディ」「おっさんずラブ」「きのう何食べた?」など、LGBTを扱った映画やドラマを見せてイメージを持ってもらうのもいいかもしれません。

もちろん「世の中にはこういう人がいるんだよ」と説明してもいいと思いますが、逆に子どものプライドをくすぐる感じで「え、LGBT知らないの?」と言ってみると、子どもが自分で調べるきっかけになるかもしれません。

または、ときどき大人がちょっと間違った発言をして、子どもに「大人がそんなこと言っちゃダメだよ」って怒られるように仕向けるのも面白いと思います。いろんな人がいて、多様な価値観がある、ということを考えるきっかけは、子どもだけでなくむしろ、大人にも必要だと感じています。

カミングアウトされたらビックリしてもいい、悩むことも大事

取材中のシゲ先生(撮影:みらいハウス)

――シゲ先生がカミングアウトするときの覚悟は、相当なものだったと想像します。子どもならなおさら、だれにも相談できずに困っているかもしれません。困りごとを抱えている子どもが安心して大人に相談できる環境をつくるために、親としてどんなことができるでしょうか?

シゲ先生 「親はいつでもあなたの味方で、あなたの話を聞く用意がある」というメッセージを、あらゆる場面で発信し続けることが大事です。そうは言っても、親だって人間ですから、子どもからカミングアウトされた場合は、戸惑うでしょう。でも、それでいいんです。思いっきりびっくりしていいし、親が悩むことも大事です。

ただ、自分の生き方を参考に「そんなことは絶対に受け入れない」とか、「幸せになれないから隠していなさい」などと言ってしまう人もいます。

当事者のなかにも「親にだけは相談できない」、「いまだに親の理解が得られない」と話す人がたくさんいます。親として子どもからカミングアウトを受けたときは、「この子は自分と違う幸せを手に入れるかもしれない」と思ってみてください。そうすれば、程よい距離感で子どもや子どもの悩みと付き合えるかもしれません。


――シゲ先生が日頃、子どもたちと接するときに大切にしていることはなんですか?

シゲ先生 子どもたちにいろいろ相談することですかね。「シゲ先生、こんなことに困っているんだけど、どう思う?」と聞くようにしています。「大人なんだから自分で考えなよ」という子もいれば、自分なりの考えを教えてくれる子もいて、とても勉強になります。大人が子どもに相談する機会は、あまりないですよね。だから、相談のしかたがわからない子どももいるのではないでしょうか。

講演会などで同様の質問を受けるとき、子どもが相談してくるのを待っているのではなく、大人から子どもに「どうしたらいいかな?」って相談することを勧めています。相談のしかたを教えるという意味もあります。親や先生が誰かに相談している姿を子どもに見せることによって、相談のしかたを学んでもらうといいと思っています。


――シゲ先生の活動は、今後どのような方向に進むのでしょうか?

シゲ先生 小学生や保護者の方と接していて、日々感じるのは、今の世の中では大人も生きづらいということ。保護者面談などで、子育ての困りごとを周りに相談できる人がいないという話を聞くことがあります。

クラスの保護者同士、いろいろ話している様子で仲がよさそうに見えても、実は子どもの悩みごとを打ち明けるような関係ではないということもあるようです。大人にも、安心して自分のことを話せる場があまりない、ということです。誰にとっても、安心して相談できる場が増えていく必要があると感じています。それが、誰もが今よりもっと楽しく豊かに生きられる社会=共生につながるのではないでしょうか。

取材を終えて

シゲ先生の話からは、子どもと一緒に日頃から多様性について考えること、お互いに相談しあえる関係をつくっておくことなどの大切さを教えてもらいました。大人が子どもに相談することや、周りの人に相談する姿を見せておくこと、相談できる場所を見つけておくことなどが、子どもの相談を促すという点など、とても共感する話をたくさんお聞きできました。

親は子どもに幸せになってほしいとの願いから、「子どものため」と言いつつ、親の考えを押し付けてしまいがちです。しかし、子どもは親と別の人格を持った1人の人間であり、子どもの考えや生き方を尊重することは、とても大切だと改めて気づくとともに、子どもといっしょに、親子でLGBTの知識を深める機会をつくってみたい、と強く感じました。


◆取材・文
みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。

みらいハウス  野呂知子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。地域と産後の女性の働き方に関心があり、19年5月から参加。小学生の子どもがいる。

構成:サンキュ!編集部

 
 

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