次男は重度の知的障害のある自閉症 岐阜県飛騨市市長 都竹淳也さんが取り組む福祉改革とは
2024/11/16
高齢化の進む飛騨市で、改革を進める市長の都竹淳也さん。次男が重度の知的障害のある自閉症と診断され、誰でもある日突然、弱者になり得るのだと身に染みました。弱者の支援に重点的に取り組む福祉改革について教えてもらいました。
●プロフィール
岐阜県飛騨市市長 都竹淳也(つづくじゅんや)さん
67年飛騨市生まれ。筑波大学卒業後、岐阜県庁で知事秘書や障がい者医療推進室長などを経て、16年に飛騨市長に就任。現在3期目。画期的な産業振興や福祉改革を行い、全国の自治体から注目される。妻、長男、最重度の知的障害のある自閉症児の次男と4人家族。
<教えてくれた人>: 岐阜県飛騨市市長 都竹淳也
67年飛騨市生まれ。筑波大学卒業後、岐阜県庁で知事秘書や障がい者医療推進室長などを経て、16年に飛騨市長に就...
障害児の親になり困難を抱える人たちの力になりたいと思うように
高齢化の進む飛騨市で、改革を進める市長の都竹淳也さんは、県庁職員だった39歳のときに、次男が重度の知的障害のある自閉症と診断されました。「診断がつくまでは不安な気持ちでした。障害という暗い世界に家族ごと来てしまったとも思いました。一方で当事者になってみて初めて、誰でもある日突然、弱者になり得るのだと身に染みたんです」。
そこから、県庁で障害者支援の仕事に希望を出し、飛騨市市長になってからは弱者の支援に重点的に取り組むように。市長就任直後に、自治体としては全国初の、児童精神科単科クリニックを開設し、子どもの発達支援の核をつくります。「市営にしたのは民間では採算が取れないと思ったから。また医療だけではなく、療育機関や学校につなげるためにも行政がやるべきと考え、志を同じくする医師を口説いて飛騨市に来てもらったんです」。
●ここが飛騨市
発達支援の専門家を学校へ。当初は学校側の抵抗もあった
都竹市長のこだわりは、どの施策も専門家を据えること。23年には、飛騨市の全小中学校に保健室と同様に作業療法室を設置。発達支援の専門家の作業療法士が、子どもに対応し、悩みを抱える保護者や教職員にもアドバイスします。この取り組みはメディアや不登校に悩む保護者、医療関係者などの注目を集めました。「きっかけは、保護者の方に、進級で先生が毎年変わるのが困る。ずっと発達を見てほしいと言われたことです。教員は教育の専門家。負荷を減らすためにも子どもの発達支援は行政がやろうと判断し、作業療法士のいるNPO法人を誘致しました」。
当初は学校側も、部外者が入ることに抵抗感があったそう。市の職員が教員のOBに協力を求め、学校と対話を重ね、やがて子どもたちが主体的に学ぶようになるなど成果が出るように。「今ではもっと来てほしいと言われます」。
一番弱い人のためにやることが必ず全員のためになる
飛騨市では、大人の支援にも力を入れています。地域生活安心支援センター「ふらっと」では誰もが、どんな困り事でも相談が可能。「一般的に行政の窓口は縦割りですが、貧困は、病気や家庭問題とつながっていることも多く、困り事は複合的。たらい回しにせず、まとめて相談できるところをつくりたかった」という都竹市長の思いから、全国でも類を見ない一気通貫の組織が実現しました。「弱い人のためが、結局みんなのためになるんです。福祉にお金をかけ過ぎだとやゆする人には、あなたの家族が困難に直面したとき、同じことが言えますかと返しています」。そう笑う市長のモットーは「日々是好日」。どんなことも前向きに捉えるという意志で、地方都市の困難な課題に挑戦し続けます。
●作業療法士(OT)って?
作業療法士はOT(Occupational Therapist)とも呼ばれ、言語聴覚士(ST=Speech Therapist)、理学療法士(PT=Physical Therapist)と並ぶ、リハビリテーションの3大国家資格。主に日常生活に支援を必要とする人を対象に、生活に必要な動作や精神面のケアを行う。病院や福祉施設での大人の支援が一般的だが、児童福祉施設などで、発達の遅れや、苦手がある子ども向けに、支援を行うケースも。米国では学校に常駐し、誰もが支援を受けられインクルーシブ教育(障害の有無に関係なくすべての子どもが一緒に学ぶ)を支える。
都竹市長が取り組む福祉改革
全国の自治体から視察の申し込みが引きも切らない飛騨モデルと呼ばれる改革の数々。計画に時間をかけず実行、検証、仕組み化を行う。
1 全ての小中学校に作業療法室。発達の専門家が教員をサポート
2 全国でも希少な、児童精神科を行政の直営で設立。立地にもこだわり
3 脱縦割り。市民の悩みを何でも聞く。総合支援相談窓口を設置
参照:『サンキュ!』2024年12月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2024年10月現在のものです。撮影/西川知里 取材・文/『サンキュ!』編集部