今回のお悩みは、重度障害のある娘のいる母、みのりさん。将来のために何が必要なのか調べたくても、情報が十分に拾えないと感じています。お金も貯めておきたいけれど、いくら貯めれば安心できるのか?今の生活も大切にしたいし、節約ばかり考えるのは息が詰まってしまいます。子どもが小さいうちからできることって、何でしょうか?LITALICOライフのファイナンシャル・プランナー、山田遼平さんに相談しました。
【相談者】
みのりさん<仮名>38歳 東京都
夫(42歳)、長女(7歳)、二女(6歳)の4人家族。フルタイムで働いています。二女には脳性麻痺があり、歩くのもおしゃべりも難しいけれど、家族で幸せに暮らす道を模索中。
【回答者】
障害のある子の教育や家庭に詳しいファイナンシャル・プランナー
山田遼平さん
金融機関、不動産・相続対策コンサルティング業界を経て、「LITALICOライフ」の講師に。障害福祉分野に精通し、生涯設計などの相談に携わっています。
健常の子の進路とか教育費の情報はたくさんあるけれど障がい児のものは少ない。 将来のイメージが難しいです
みのりさん(以下みのり):二女の障害がわかったときに、お医者さんからは「寝たきりを覚悟してください」といわれました。
療育をしたかいもあって、車椅子で保育園に通園しています。ただ、義務教育までは見通しがついても、そのあとの情報がないんです。
山田さん(以下山田):みなさんがいちばん気にされるのは、成人してからの居場所ですね。
みのり:はい。将来が見えないなかで、いったいどのぐらいお金を残せば困らずに生活できるのか……。情報も見つけにくくて、わからないことだらけです。
山田:福祉サービスは地域差があるので、自治体の相談窓口や親の会などから情報を得るのが一般的です。ただ、情報が更新されていなかったり、空き情報がわからなかったりするのがたいへんだと、みなさんおっしゃいます。
みのり:そうなんです。ようやく情報にたどり着いても、うちの子の状況では使えない福祉サービスだった、ということが、これまでにもありました。
お子さんが小さいうちから調べるのは、 打ち手が増やせてとてもよいこと
山田:福祉はケースバイケースですから、ピンポイントでマッチする情報を見つけるのは難しいですよね。
みのりさんは、将来的にかかるお金を知りたいとのことですが、お子さんが小さなうちから調べておくのは、とても大切です。それだけお金の準備に時間がかけられますし、少し広めに情報を集めておけば、さまざまな打ち手に対応できます。
たとえば、支援を受けながら少人数で生活するグループホームを調べたことはありますか?
みのり:知りたい気持ちはあるけれど、探す方法がわからなくて。
山田:最近は、そういった当事者の苦労をわかっている方々が、新しい仕組みをつくっています。
元看護師の方が立ち上げた、「みんなのグルホ」という検索サービスが使いやすいんですよ。地域、障害支援区分、望む条件などをチェックすると、月々の支払い金額や空室の有無までわかります。
みのり:これは便利ですね。名前は知っていましたが、ちゃんと見たことなかったです。
山田:大まかにチェックを入れて、シミュレーションしてみましょう。
家賃や光熱費といったグループホームへの支払金額が、だいたい8万5,000円程度。それにお小遣いをプラスすると、月々の生活費に10〜12万円ぐらいかかってくることがわかります。
みのり:それぐらいなんですね。
山田:一方、世帯分離をした場合の収入は、障害年金と工賃などを含めて平均6〜9万円です。収入から支出を引いて、足りない分が仮に3万円だとすると、親なきあとの40年間で1,400万円が必要だという数字がわかります。
お姉ちゃんには、できる限り負担をかけたくないんです
みのり:ちょっと見えてきますね。うちは上にお姉ちゃんがいますが、彼女には彼女の人生がありますから、できる限り負担をかけたくない思いがあります。
親がいなくなったあとは、お姉ちゃんが福祉サービスの管理をする暮らしもできるのかなって、ようやく少しイメージができました。
山田:ごきょうだいでもいいですし、成年後見人を立てて管理を任せる制度もあります。その場合は、さらに月々2万円ほどの出費ですね。
みのり:成年後見制度はだいぶ先の話ですが、今から考えておいたほうがいいのでしょうか。
山田:ごきょうだいがご家族を持たれて、すべてを管理するのが大変になることも、あるかもしれません。
使うかどうかは別として、早いうちから制度を知っておくのは、やはり大切です。たとえば、ご両親が60代になってから必要だとわかっても、そこから月々2万円かかるとなれば大慌てになります。
何にお金が足りなくなるのか。漠然としている状態では、がんばれないもの
みのり:なるほど。すごく大事な話だなと思いました。
二女には大学に進む選択肢はないだろうと考えると、その分のお金を、療育やほかの教育に使ってあげたいと、ついつい思っていたんです。
でも、将来の生活費にお金がそれだけかかることがわかると、小さいうちから散財するわけにはいきませんね。
山田:将来、何にお金が足りなくなるのか。漠然としている状態では、お金を貯めようにも、がんばれませんよね。わかったうえで、ご家庭の方針を考えていくのがいいと思います。
将来の生活費をシミュレーションし、子どもが小さいうちから散財はできないと実感したみのりさん。では、これから先のお金の使いどころについて、どんなふうに優先順位を立てればいいのでしょうか?次回に続きます。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/石川理恵 企画/サンキュ!コメつぶ編集部