異性のペア

性教育は「0歳」から?おむつ替えから始める子どもと性の関わり

2020/10/13

子どもへの性教育、いつからすべき?何を話したらいいの?悩む親御さんは多いと思います。「0歳からの性教育」を提案する中井聖さんに、お話をお聞きしました。

(取材・文:みらいハウス 阪口千春、渡部郁子)


◆話を聞いた人・・・中井聖さん(生と性のはぐくみ研究室「はぐラボ」主宰)
茨城県つくば市を活動拠点とし、乳幼児を持つ保護者向けに「0歳からの性教育」講座を不定期で開催。思春期保健相談士、日本思春期学会性教育認定講師。

「キラキラした誕生の話」だけが性教育ではない

男女の概念の良好な関係
takasuu/gettyimages

中井さんは、「赤ちゃんが学校にやってくる!」という地元の子育て支援NPOのプロジェクトを手がけ、あわせて茨城県内の学校で誕生や思春期について伝える出前授業を展開しています。


「小中高の体験授業として生まれたばかりの赤ちゃんとその保護者をゲストに迎え、学校の子どもたちと赤ちゃんとの交流の場をつくっています。学校からの要望に合わせ、児童生徒には生命の仕組みとしての誕生や第二次性徴についても伝えています。

学校で総合学習が始まった2004年ごろから、所属するNPOに学校から体験授業への協力依頼が入るようになり、私も自分の子どもを連れて学校へ行き授業に参加しました。その体験の楽しさが忘れられず、2012年からはその子育て支援NPOの自主事業として実施するようになりました。また、性やジェンダーに興味があったことから2007年には誕生の仕組みを伝える資格を取得して性教育の活動も始めました」


小中高の子どもたちを対象にした性教育の経験を踏まえ、中井さんは5年前から独自のプログラムも伝えるようになりました。

「それまで伝えていたプログラムは『誕生』にスポットを当てて、参加した子どもたちが自分の生まれてきたことに思いを馳せ、命の大切さを感じ、自己肯定感を高めることを目的としたものでした。

子どもたちへの性教育として、キラキラした誕生の話にスポットを当てるだけでなく、私としては、もう少し踏み込んで性について考えるきっかけを作れないだろうか、もっと幅広い世代に伝えたいと考え、3年ほど前には『0歳からの性教育』講座を開催することにしました。

講座に参加するのは、乳幼児を持つ保護者のかたや、子育て支援に携わるかたなど子どもに関わるかたが多いですが、対象としては誰でも参加できるものです」

おむつ替えも性教育?0歳児のときから親ができること

若い母親は白いタオルの上に赤ちゃんのためにおむつを交換します。クローズ アップ。
FotoDuets/gettyimages

中井さんが提案する「0歳からの性教育」。その言葉だけを聞くと少しギョッとする人もいるかもしれませんが、実際には親と子(赤ちゃん)のコミュニケーションの重要さを説くものです。

「『0歳からの性教育』では、今日からでもお家でできるヒントをお伝えするようにしています。例えばおむつ替えのときは子どもに声をかけ、アイコンタクトを取りながらするといいですよとか。親はお世話のために、子どものプライベートゾーンを見たり触ったりすることが多くあります。でも本来、プライベートゾーンを見たり触ったりしていいのは本人だけ。だから、おむつ替えのときは『これから服を脱がせるよ』『体を触るよ』などと伝えて、子どもの気持ちを確かめるようにすることが大切だと私は考えています。

0歳児は言葉を話せませんが、1人の個人として扱い、尊重することが、子どもの自己肯定感や自分を大切にする感性にもつながるとも思います。だから『赤ちゃんといえども、生まれたその日から人間として扱いましょう』とお伝えしているんです。

私自身、長女が小さいころ何も言わずに子どもを捕まえて服を脱がせ、自分のペースでおむつ替えをしていました。親としての義務感ばかりで、一方的だったなと反省しています。0歳児であってもコミュニケーションを取りながら関わっていくことを実践していたら、もうちょっと子育てが楽しかったのではないかな、と感じています。

実際、次女、三女のときは『おむつ替えるよー、気持ち悪かったね、きれいにしよう、いいかなー?』と話しかけるようにしてきました。 まだ会話のできない赤ちゃんであっても、声をかけ目を見て意思を確認することで、子どもにもきちんと伝わっていると感じることができました。

おむつを卒業したお子さんでも遅くありません。プライベートゾーンについてのマナーや、信頼関係のある人が行う『いいタッチ』と、違和感や不快感のある『悪いタッチ』 などについて子どもと話し合い、家族で考え、その日から意識そして行動を変えていくきっかけになることをめざしています」

性教育には「コミュニケーション」の視点も必要

アジアの親と娘
miya227/gettyimages

中井さんが0歳からの性教育を進める理由は、自分の体を守ることにつながるからだと話します。

「性教育は、知識とコミュニケーション、2つの視点で進める必要があります。知識があっても、相手に伝えるコミュニケーション能力を持っていないとうまく機能しません。

私自身の失敗談ですが初体験のときの相手に、コンドームを使ってほしいと伝えることができなかったという苦い経験があります。知識では自分を守るためにコンドームを使用するべきということをわかっていたけど、相手に伝えるコミュニケーションのすべを持っていなかったのです。

家族間でさえ性の話――おへそから下の話をしたことがなければ、いざというときに大切なことを伝えることができないかもしれません。信頼し合える間柄でこそ、日頃から不快感や違和感でもフラットに伝え合い、性を語ることに過剰な抵抗感や羞恥心を抱かないような雰囲気をつくっていくことが大切だと思います。

性教育は、自分を守ることにつながります。知識についての習得は、遅くても5歳から始めるという国際的な指針(※)があります。一方で、コミュニケーションについては上記のような方法で0歳からでもできることがあります。

性被害、性犯罪に巻き込まれないために危険を感じ取る力を身につけ、不快なことをきちんと伝える経験を重ねることは、子どもだけでなくすべての人にとって必要な、自分を守る手段です」


※国連教育科学文化機関UNESCOによる『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』
https://en.unesco.org/news/urges-comprehensive-approach-sexuality-education

子どもの性教育をきっかけに、親自身の性も見つめなおす機会に

もともと性やジェンダーに興味があったという中井さん。この活動を通じて伝えたいことをお聞きしました。

「性教育はいつからがいいのか、という議論は盛んです。学校では小学校4年生から第二次性徴に関する授業がありますが、実際にはもっと早く月経や射精が始まる子どももいます。現在の日本の刑法では13歳で性的同意の能力があるとみなされているのですが、小中学校の学習指導要領では妊娠や受精に至る過程、つまり性交は扱わないとされています。

小学校も高学年になるといきなり性の話をしようと思っても、なかなか話しづらい話題であるため、もっと小さいころから家族で話題にし、話せる雰囲気をつくることが必要なのです。

ユネスコなどの国際機関がまとめた『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』には、体の仕組みや保健的な知識だけでなく、人間関係や人権、ジェンダーなどについて5歳から徐々に教えるよう示されています。性被害は年齢を問わないですし、親自身が性をいやらしくてエロくてフタをしたいものというネガティブなイメージをなくしていくためにも、0歳からの性教育で、ゆっくりと時間をかけて進めていけたたらいいのではと思います。

そして、大人にとっても性について知ることは、人生をもっと彩り豊かなものにしてくれるはずです。子育てをきっかけに自分の性も見つめなおすことができたらステキだなと思います」

取材を終えて

「0歳からの性教育」と聞いて、0歳から何が教えられるのだろう?と半信半疑でしたが、中井聖さんの話を聞いて納得。コミュニケーションを取り合いながら身体に触れ、愛情に包まれた温もりを伝えることも性教育のひとつなのだと気づかされました。

日本の性教育は、文部科学省の学習指導要領から逸脱しないように実施されてきているため、諸外国に比べるとまだまだたりないと感じることも多いそうです。子どもが将来、自分や大切なパートナーを守れるようにするためには、地域や家庭での性教育が必要であると認識しました。

性教育に対する考え方は人それぞれですし、専門家間でもさまざまな意見がありますので、まずはいろいろなかたのお話を聴いてみることを中井さんも勧めています。性に関する絵本も数多くありますので、家庭でもできるところから始めていけるといいですね。


◆取材・文/みらいハウス
阪口千春
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。キャリアコンサルタントや保育士などの資格を活かし、「子どもがいてもできること、子どもがいるからできること」をモットーに、子育て世代の家族への支援活動に取り組む1児の母。

渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っている。

構成:サンキュ!編集部

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