日本で「子宮頸がん」が増えている理由とは?早期発見と予防のために「子育て世代」が知っておくべきこと

2024/02/12

他の先進国では減少傾向にある「子宮頸がん(しきゅうけいがん)」が、日本では増えているとご存じですか。

日本で「子宮頸がん」が増加している理由と、予防・早期発見について、産婦人科医で森女性クリニック院長の森久仁子氏に聞きました。

Q.子宮頸がんとはどのようながんですか

「子宮頸がん」は子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんです。日本では年間約1.1万人がかかり、約2,900人が亡くなっています。20~30歳代のおもに若年層の罹患率が増加傾向にあり、とくに30代前半から罹患率・死亡率ともに上昇します。

子宮頸がんは、がんの発生する場所によって、ふたつに分けられます。ひとつは「扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん)」という子宮頸部にある扁平上皮細胞から発生するもので、子宮頸がんの約75%を占めます。

もうひとつは「腺がん」という子宮の奥に近い腺組織の円柱上皮細胞(えんちゅうじょうひさいぼう)から発生するもので、約23%を占めます。

日本では年々、腺がんの割合が上昇しています。腺がんは検診で発見が困難で転移しやすいため、治りにくいがんとされています。

Q.子宮頸がんの原因にはどのようなものがありますか

子宮頸がんのほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが、性交渉により子宮頸部に感染することが原因であると言われています。

HPVは皮膚にイボを作るウイルスで、100種類以上あります。このうち約15種類のハイリスク型とよばれるものが、子宮頸がんを引き起こします。ハイリスク型を含め、ほとんどのHPVは免疫機能で自然に排除されますが、持続感染することがあり、そのうちの一部の細胞が異常を起こすと「子宮頸部異形成」という状態になります。

子宮頸部異形成は、進行度の軽い順に軽度異形成・中程度異形成・高度異形成に分けられます。そして異形成の一部が、数年から十数年かけて子宮頸がんに進むと考えられています。

Q.子宮頸がんになりやすい人にはどのような特徴がありますか

性交渉による持続的なHPV感染が原因なので、性交渉が多いかたがリスクは高いですが、HPV自体は身の回りにあるありふれたウイルスなので、たとえ性交渉が少なくても(仮に相手が夫1人だけでも)なる可能性はあります。また喫煙や免疫低下・出産回数が多いこと・ピルの内服・初回性交年齢が早いなども、子宮頸がんと関連があると言われています。

Q.子宮頸がんを早期発見することはできますか

champpixs/gettyimages

子宮頸がん検診は、厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」において、20歳以上を対象とした2年に1回の定期的な受診が推奨されています。しかし日本の子宮頸がん検診受診率は約40%であり、アメリカやイギリスの約80%と比較すると低いのが現状です。

子宮頸がんが進行すると、治療が困難になるだけでなく、子宮や卵巣を摘出しなければならなくなる可能性があります。

早期の子宮頸がんや高度異形成で発見できれば、子宮頸部を部分的に摘出する手術で治療でき、治癒率も高いです。

進行すると性交時の出血や不正性器出血や異常な帯下(おりもののこと)、下腹部痛などがでてきますが、初期には症状がほとんどありません。このため早期発見には、定期的ながん検診が大事です。

HPVに感染して20年以上かけてがんになる場合もあります。性交渉をする機会がなくなっても、性交渉の経験がある人であれば、定期的ながん検診を受けましょう。

Q.子宮頸がんを予防する方法はありますか

ワクチンで一部のハイリスク型のHPV感染を防ぐことにより、子宮頸がんを予防できます(※)。

なお、子宮頸がんワクチンはすでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果はないため、初めての性交渉を経験する前に接種するのがもっとも効果的です。ただし、仮に性交経験があっても、まだ感染していない型のHPV感染は予防できるので、性交経験がある場合でもワクチン接種する意味はあります。


※2価ワクチン(サーバリックス)および4価ワクチン(ガーダシル)はHPV16型と18型に効果があり、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぎます。9価ワクチン(シルガード9)はHPV16型と18型に加え、31型・33型・45型・52型・58型に効果があり、子宮頸がんの原因の80~90%を防ぎます。

Q.子宮頸がんワクチンについて詳しく教えてください

子宮頸がんワクチンは、日本では2013年に定期接種になりました。しかし接種後の持続的な痛みや運動障害などの多様な症状が報告され、積極的な勧奨が控えられました。

その後「多様な症状は、子宮頸がんワクチン特有の症状とはいえない」という国内外の調査結果を受け、安全性について特段の懸念が認められず、ワクチンの有効性が副反応のリスクを大きく上回るという判断から、2022年より積極的な勧奨が再開しました。

現在、子宮頸がんワクチンは、小学校6年生~高校1年生に相当する年齢の女性は、公費で接種できます。過去に定期接種を逃した平成9年度生まれ~平成18年度生まれの女性も、令和7年3月までは公費で接種できます。

なお、HPVワクチンに限らず、予防接種法に基づくワクチン接種後に痛みなどの多様な症状が起きた場合の対応として、医療連携体制や相談体制および報告・救済制度が設けられています。

Q.日本で子宮頸がんが増えている理由と、罹患率を減らすために子育て世代が知っておくべきことはありますか

先進国は子宮頸がんワクチンの接種率が高く、カナダやイギリス、オーストラリアでは約80%に上ります。それらの先進国ではワクチンの普及とともに、子宮頸がんの患者数・死亡者数ともに減少傾向です。しかし日本ではどちらも増加傾向で、その数は先進国でもっとも高いです。これには日本のワクチン接種率の低さや、検診受診率の低さが関係しています。

子宮頸がんワクチンの積極的な勧奨前は、日本での接種率は約1%でした。積極的な推奨再開後の2022年4月~2023年3月までの調査では30.2%に上昇していますが、他の先進国よりもまだかなり低いです。副反応に対する不安や信頼できる情報が得られないことを理由に、接種を躊躇する人が多いと言われています。

正しい信頼できる情報を提供し、周知を進める取り組みをすることで、子宮頸がんワクチンと子宮がん検診の両者ともに、普及していくことが望まれます。


教えてくれたのは・・・

森 久仁子さん

産婦人科専門医、医学博士。大阪医科大学を卒業後、同大学産婦人科学講座に入局、同大学産婦人科学講座助教、和歌山労災病院をへて、平成25年和歌山市に森女性クリニックを開院。産婦人科としての枠組みだけではなく、女性医療の充実を目指すべく診療を行っている。

構成:サンキュ!編集部

 
 

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