飲酒が原因となるイメージの強い肝臓がんですが、お酒を飲まなくても注意が必要な人がいます。
肝臓がんになりやすい人の特徴や、予防・早期発見の方法などについて、消化器外科専門医で、医療法人社団筑三会・筑波胃腸病院の鈴木隆二理事長に聞きました。
- Q.肝臓がんとはどのようながんですか
- Q.肝臓がんの原因と、なりやすい人の特徴にはどのようなものがありますか
- Q.肝臓がんの自覚症状にはどのようなものがありますか
- Q.肝臓がんを予防・早期発見することはできますか
Q.肝臓がんとはどのようながんですか
肝臓がん(肝細胞がん、HCC)とは、肝臓の細胞が異常に増殖してできるがんです。
日本では、特にC型肝炎やB型肝炎が原因となる場合が多いです。最近では、脂肪肝(NASH:非アルコール性脂肪肝炎)からの発生も増えています。
肝臓がんのやっかいなところは、初期症状がほとんどないことです。いわば「静かに忍び寄る忍者」のような存在で、気づいたときには進行しているケースが多くあります。
Q.肝臓がんの原因と、なりやすい人の特徴にはどのようなものがありますか
肝臓がんは、肝臓に長くダメージが加わることで発生します。原因として以下のものが挙げられ、該当する人は注意が必要です。
・ウイルス性肝炎(B型・C型):
日本の肝臓がんの約70〜80%はウイルス感染が原因です。
肝炎ウイルスは慢性的に肝臓に炎症を起こし、がん化のリスクを高めます。特にC型肝炎は治療しないと高確率で肝硬変を経てがん化するため、適切な治療が重要です。
・脂肪肝(NASH)
肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームの人は、脂肪肝を放置すると「肝炎→肝硬変→肝臓がん」へと進行する可能性があります。
脂肪肝がある場合は、お酒を飲まなくても注意が必要です。
・アルコールの飲みすぎ:
長年に渡って大量に飲酒を続けると、肝臓はダメージを受け続け、肝硬変を経てがんになるリスクが高まります。特に、1日2合以上の飲酒を長期間続けている人は要注意です。
・肝臓がんの家族歴:
親や兄弟に肝臓がんの人がいる場合、遺伝的な体質の影響でリスクが高くなることが分かっています。
Q.肝臓がんの自覚症状にはどのようなものがありますか
肝臓がんは、早期のうちはほぼ無症状です。しかし進行すると、右上腹部の痛みや違和感、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、腹水(お腹が張る)などの症状が現れます。
また、「なんとなく疲れやすい」「食欲が落ちた」「体重が減った」などの、漠然とした不調が続くこともあります。ただ、これらはストレスや加齢でも起こるため、肝臓がんの症状としては見逃されがちです。
Q.肝臓がんを予防・早期発見することはできますか
肝臓がんは、予防と早期発見が可能です。特に発見に関しては、定期的な検査を受けることが最大のカギになります。
具体的な予防策と早期発見のための検査には、次のようなものがあります。
<予防策>
・ B型肝炎ワクチンを接種:B型肝炎の感染を予防します。
・ C型肝炎の適切な治療:現在は飲み薬で完治可能です。
・ 脂肪肝の改善:食生活や運動の見直しを行います。
・ 飲酒量のコントロール:アルコールは適量を守るようにします。
<早期発見のための検査>
・ 腹部エコー(超音波検査):半年に1回の検査が推奨されます。
・ 血液検査:AFP・PIVKA-IIなどの腫瘍マーカー検査を行います。
・ CTやMRI検査:必要に応じてCTやMRI検査を行います。
C型肝炎やB型肝炎の人、脂肪肝がある人は、症状がなくても定期的に検査を受けることが必須です。
Q.肝臓がんは治療できますか
肝臓がんの治療はいくつかあります。選択される治療は、がんの進行度や肝臓の状態によって異なります。
・外科的切除(手術):
がんの数が少なく、肝機能がしっかりしている場合は、手術で完全に取り除くことが可能です。特に3cm以下の単発のがんでは、手術の成功率が高いとされています。
・ラジオ波焼灼療法(RFA):
小さな腫瘍に対して、針を刺して高周波で焼き切る治療法です。手術が難しい場合の代替治療として有効ですが、再発のリスクはあります。
・肝移植:
がんが一定の基準内(ミラノ基準)に収まっている場合、肝移植で完全に治る可能性があります。特に、B型・C型肝炎由来の肝硬変を伴う場合は、移植が有力な選択肢になります。
・動脈塞栓療法(TACE):
がんに栄養を送る血管を塞ぎ、成長を抑える治療法です。進行した肝臓がんに対して、それ以上の進行を遅らせる目的で行われます。
・分子標的薬・免疫療法:
進行がんに対しては、レンバチニブ(Lenvima)やソラフェニブ(Nexavar)などの分子標的薬が使われます。最近では、免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブなど)も併用されるようになり、治療の幅が広がっています。
取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部