自分では気づけない!?早期発見が難しい「卵巣がん」になりやすい人の特徴とは

2024/04/20

自覚症状に乏しく、自分では気づきにくい「卵巣がん」。女性特有のがんの中では、最も死亡率が高いとされます。

卵巣がんになりやすい人の特徴や、早期発見のための検診などについて、産婦人科医で森女性クリニック院長の森久仁子氏に聞きました。

Q.卵巣がんとはどのようながんですか

卵巣は子宮の左右に1個ずつある2~3cmの臓器で、卵子を含む卵胞(卵子に栄養を供給する液体が入った袋の)の貯蔵と成熟の促進、排卵を司ります。この卵巣に発生する悪性腫瘍が「卵巣がん」です。

卵巣がんは上皮性腫瘍、胚細胞性(はいさいぼうせい)腫瘍、性索間質性(せいさくかんしつせい)腫瘍の3つに分けられ、上皮性腫瘍が全体の90%以上を占めます。上皮性腫瘍はさらに、漿液性腺がん、明細胞腺がん、類内膜腺がん、粘液性腺がんなどに分けられます。

また、多くの卵巣がんは急激に発生します。良性や境界悪性腫瘍を経過して、ゆっくりがん化するケースは少ないのが特徴です。

卵巣がんは罹患数・死亡数ともに近年増加しており、女性生殖器にできるがんの15%を占めます。女性特有のがんの中では死亡率が最も高く、日本では40歳代から増え始め、50~60歳代でピークを迎えます。胚細胞性腫瘍などは10~20歳代の女性に多いです。

Q.卵巣がんの原因やなりやすい人の特徴には、どのようなものがありますか

卵巣がんの原因はまだ十分には解明されていませんが、なりやすい人には以下のような特徴があります。

・出産経験がない、初経が早い、閉経が遅い
卵巣がんは排卵の回数が多いほど罹患リスクが上がると考えられています。そのため、出産経験がない、初経が早い、閉経が遅い人は、排卵の回数が増えるためリスクが高くなります。

・子宮内膜症で起こるチョコレートのう腫
子宮内膜症(※1)が原因で起こる「卵巣チョコレートのう腫(※2)」から、明細胞腺がんや類内膜腺がんの多くが発症すると考えられています。そのため、子宮内膜症がある方は注意が必要です。卵巣チョコレートのう腫の0.7%程度ががん化すると報告されています。年齢の増加やのう腫の増大とともにがん化のリスクが高まり、のう腫の大きさが10cm以上になるとリスクはさらに高くなります。

・遺伝的な要因
卵巣がんになりやすい遺伝的な要因を持つ人もいます。卵巣がんの約10~15%は、主にBRCAという遺伝子の変異が原因とされています。BRCA遺伝子に生まれつき変異を持つことで卵巣がんや乳がん、前立腺がんや膵臓がんなどのがんが発生しやすい状態を、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と言います。

HBOCでは一般的に若年発症・重複がん発症・男性乳がん・両側乳がん発症の傾向があり、また血縁者も同様に変異がある可能性があるため、家系内に卵巣がん(卵管がんや腹膜がんも含む)や乳がんなどが好発します。両親のうちどちらかがHBOCであれば、その子どもが遺伝子変異を受け継ぐ可能性は2分の1です。

ただしHBOCであっても、発症しやすい体質であるだけで、卵巣がんや乳がんにならない場合もあります。

・喫煙などの生活習慣・肥満
卵巣がんは、喫煙や動物性脂肪の多量の摂取との関係が報告されています。

Q.卵巣がんの自覚症状にはどのようなものがありますか

自覚できる症状には、「今まで着ていた服が入らなくなった」などがあります。しかし「太っただけ」と認識する人が多く、見逃されやすいです。

がんが進むと、お腹の上からでも腫瘍を触れられたり、腫瘍による圧迫症状が起きたりします。卵巣がんは腹水を伴うことが多く、進行によってお腹の張り・腹痛・腰痛が出現し、腸管や膀胱への直接的な影響で吐き気・便秘・頻尿が起きます。

しかし、基本的には初期の症状に乏しいです。そのため卵巣がんは「気づかれないがん」と言われています。

Q.卵巣がんを予防・早期発見する方法はありますか

クリニックの女性への妊娠初期の子宮の超音波検査
megaflopp/gettyimages

卵巣がんは症状を伴わず進行し、一部は進行が早いため、早期発見が難しいがんです。上皮性腫瘍では約40~50%が、診断時にはすでにステージIII~IV期であったと報告されています。

腫瘍マーカー検査(がんを見つけるための血液検査)は、初期の卵巣がんでは陰性になることが多く有効ではありません。そのため、卵巣がんの早期発見に対する確立した検診法はないと言われています。

早期発見のためには、婦人科疾患のスクリーニングを兼ねて、年に1度を目安に経膣超音波検査を受けることをお勧めします。経膣超音波検査はほとんど痛みなく、子宮内膜症・卵巣疾患などの腫瘍を見つけられます。急激に発症する卵巣がんでは有効でない場合もありますが、ゆっくりがん化するものに関しては有効とされています。

卵巣チョコレートのう腫などの良性腫瘍を指摘されている方は、かかりつけ医の判断により3~6カ月毎の定期的な検査を受けましょう。また月経痛や性交痛などの症状がある場合、卵巣チョコレートのう腫の原因となる子宮内膜症である可能性があります。婦人科で検査をしてみましょう。

血縁者の卵巣がんなどの罹患状況から自身がHBOCではないか不安な方は、遺伝カウンセリング外来などの専門外来で相談が可能です。現在のところ卵巣がん未発症の場合の利益は明らかではありませんが、HBOCの人には6カ月ごとの経膣超音波検査と、CA125という腫瘍マーカー検査の併用検診が推奨されています。

卵巣がんで起こる腹部の張りは増悪しないと気づきにくく、また他の疾患でもしばしばみられる症状です。お腹の張りでは受診されない方も多いですが、早期発見のためには、下腹部の違和感が数週間続くようなら婦人科を受診しましょう。


教えてくれたのは・・・

森 久仁子さん

産婦人科専門医、医学博士。大阪医科大学を卒業後、同大学産婦人科学講座に入局、同大学産婦人科学講座助教、和歌山労災病院をへて、2013年和歌山市に森女性クリニックを開院。産婦人科としての枠組みだけではなく、女性医療の充実を目指すべく診療を行っている。

※1.子宮内膜症:子宮内膜の組織が子宮外に発生して増殖する病気。子宮以外の場所で月経毎に出血し、炎症や癒着を起こし、月経痛などが発生する。また組織が増殖を繰り返すことで、腹膜や臓器の表面に血が入った袋状の腫れができる。20代半ばから発症し、30歳前後が好発年齢。

※2.卵巣チョコレートのう腫:子宮内膜症により卵巣に組織の増殖が発生し、月経毎に卵巣表面で血が溜まると卵巣チョコレートのう腫となる。

取材/文:山名美穂
編集:サンキュ!編集部

 
 

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