見ている「スマホ」を今すぐ手放せますか?便利さと引き換えに「スマホ依存症」で私たちが失うもの
2024/08/22
スマートフォンは、私たちの生活に欠かせない存在です。しかし、その便利さの裏には新たな問題が潜んでいます。
近年、その問題の深刻さに注目が集まる「スマートフォン依存症」について、心療内科、総合診療医、漢方医などマルチドクターとして活動し、診療科の垣根を越えた総合的な心身医療を行っている、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎氏に聞きました。
「スマートフォン依存症」とは
「スマートフォン依存症」は、スマートフォンの使用を制御できなくなり、日常生活に支障をきたす状態を指します。
現在は医学的に認められた病名ではなく、正式な診断基準も確立されていませんが、研究者たちは問題の実態把握と対策の必要性を認識しています。
ある大規模な調査によると、子どもと若者の約4人に1人(23.3%)が「スマートフォン依存症」の傾向を示しているとわかりました(※1)。この数字は、たとえ「スマートフォン依存症」が正式な診断名ではなくとも、私たちが真剣に向き合うべき問題であることを示唆しています。
スマートフォンへの依存でうつ病になるリスクが約3倍に
スマートフォンの過剰使用は、私たちの心と体に様々な影響を与える可能性があります。ある研究では、精神的健康問題との強い関連が明らかになりました(※2)。
具体的には、次のようなリスクが高まるとわかっています。
・うつ病になる可能性が約3倍に
・不安障害を発症する可能性が約3倍に
・ストレスの感じやすさが約1.9倍に
・睡眠の質が悪くなる可能性が約2.6倍に
これらの数字は、スマートフォンの過剰使用が単なる習慣の問題ではなく、私たちの健康に深刻な影響を与える可能性があることを示唆しています。ただし、因果関係については更なる研究が必要です。
学業への影響も深刻
スマートフォンの過剰使用は、学生の皆さんにとっても大きな問題となり得ます。ある研究チームが行った分析で、スマートフォンへの依存傾向は、大学生の学習能力と全体的な学業成績に悪影響を与えることがわかりました(※3)。
具体的には、以下のような問題が起こる可能性があります。
・集中力の低下
・学習時間の減少
・授業中の注意散漫
・記憶力の低下
・課題の提出遅れや未提出
記憶力や注意力、認知機能への悪影響も
最新の研究では、スマートフォンの過剰使用が私たちの脳にも影響を与える可能性が指摘されています。スマートフォンの高度な使用者は、記憶力や注意力などの認知機能にも問題が生じる可能性を示す研究もあります(※4)。
さらに興味深いことに、スマートフォン依存傾向のある人は、創造的なアイデアを生み出す際に必要な脳領域の活動が減少することが明らかになりました(※5)。これは、スマートフォンの過剰使用が私たちの創造性やイノベーション能力にまで影響を及ぼす可能性を示唆しています。
意思決定と報酬系への影響
ある研究では、スマートフォン依存傾向の強い人々は、曖昧な状況下での意思決定に障害があると示されました。また、彼らは報酬に対して敏感に反応し、罰に対してはあまり反応しないとわかりました。つまり、スマートフォンの過剰使用者は日常生活において、衝動的な判断や行動をしやすくなると予想できるということです。
まとめ
「スマートフォン依存症」は、正式な医学的診断名ではありませんが、私たちの日常生活に密接に関わる新しい課題として認識されつつあります。そしてその影響は、心身の健康から学業成績、脳機能にまで及ぶ可能性があるのです。
この分野の研究はまだ始まったばかりであり、今後さらなる調査や長期的な研究が必要とされています。そして重要なのは、自分自身のスマートフォン使用習慣を意識し、必要に応じて適切な対策を講じることです。
スマートフォンは便利なツールですが、使い方次第では私たちの生活に大きな影響を与える可能性があります。賢く使いこなし、テクノロジーと上手に付き合っていく知恵が、これからの時代はますます重要になってくるでしょう。
<参考文献>
※1 Sohn, S. Y., et al. (2019). BMC Psychiatry, 19(1), 356.
※2 Ratan, Z. A., et al. (2021). International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(22), 12257.
※3 Sunday, O. J., et al. (2021). Computers in Human Behavior Reports, 4, 100114.
※4 Fabio, R. A., et al. (2022). International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(12), 7445.
※5 Li, X., et al. (2022). Social Cognitive and Affective Neuroscience, 17(1), 105-115.
※6 Khoury, J. M., et al. (2019). Frontiers in Psychiatry, 10, 73.
教えてくれたのは・・・
取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部