自閉症の子2人のひとり親の暮らし。 知ってもらうだけで、社会はきっと変わる

2022/05/16

取り残されているひとをなくしたい。ずっと住み続けられる地球にしたい。そんな思いと行動が「持続可能な世界」につながると『サンキュ!』は考えます。今日よりあしたを良くするために、何かを始めたひとに会いに行く連載です。

<教えてくれた人>
さおりさん(43歳)/島根県
1979年生まれ。自閉症の子ども2人を育てるシングルマザーで職業はWEBライター。長女(中1)は特別支援学校、長男(小5)は特別支援学級に在籍。趣味は自転車と筋トレ、語学の勉強。近い将来の夢はハワイ旅行。ツイッターアカウントは@triodiary。noteでコラムも執筆。22年に初の著書「我が家は今日も崖っぷち~発達障害児との暮らし(仮)」を幻冬舎から刊行予定。

◎History◎
●2008年(29歳)結婚し専業主婦になる
●2009年(30歳)長女出産
●2011年(32歳)長男出産
●2017年(38歳)離婚しパートに出る
●2019年(40歳)WEBライターとして仕事を始める。専門はSEO記事やインタビュー/アカウント名「さおり|自閉症児のお母さん」でツイッターを始める
●2021年(43歳)音声プラットフォームVoicyで「発達障害2人育児」配信開始

支援なしでは生きられない娘と息子。そんな子を育てる現実を、私がつぶやいてみよう

「おつかれさま、私。おつかれさま、お母さんたち」。自閉症児を育てるさおりさんのある日のツイッターは、同士へのねぎらいの言葉で締めくくられていました。時に物を壊したり、トイレに失敗したり、公共の場で怒られることも多々。障害ゆえに平穏な生活を送ることすら難しいのに、「自閉症は才能があるんでしょ?」と的外れな慰めをかけられてしまう。散々泣いて気づいたのは「世の中の人に悪意があるわけでなく、自閉症の子の現実を知らないだけ」。それなら自分が伝えようと、ツイッターでリアルな日常を発信すると、同じように苦しむお母さんや、支援者からも共感の声が集まるようになりました。島根から発する140文字のつぶやきが、さおりさんと社会をつなげています。

食卓でスマホに向かいVoicyを配信。パーソナリティになったのは精神科医でバックパッカーのkagshunさんのVoicy「精神科医のココロに効くラジオ」に刺激を受けたのがきっかけ。

乗り越えたわけじゃなく、慣れただけ「障害児のお母さんは立派」そんな認知がなくなったらいいな

障害児の親は「試練を乗り越えられるから、あなたを選んで生まれてきた」と励まされがち。相手の気持ちは受け取るけれど「その言葉の背景にあるものは変えていきたい」とさおりさん。そこには親が相当の苦労を背負うしかない現実が映し出されているから。「障害児の親は決して聖人ではなく、悲しむこともイライラすることもある。試練に慣れてしまっている状態が、乗り越えているように見えるだけなのです」。

子のハンディに併走する親への支援は、まだまだ伸びしろがある

問題行動や排泄の見守りがあると、子どもから目が離せない生活が何歳になっても続きます。たとえ親の体調が悪くても預け先はない。支援が足りないゆえ母親が仕事に出ることもままならず、死活問題です。日本の親支援はいまだ未整備。もっと伸ばせると信じて発信しています。

自傷や他害が減った。夜眠れて、トイレにも行けた。そんな達成がわが家の喜び

「自閉症の子にはすごい才能があるんでしょう?」とよく聞かれるけれど、それ以前に日常生活を送ることすら困難なのがさおりさんの子どもたちの現実。「思いを言葉にできずパニックを起こしやすい娘、怒りのコントロールが苦手な息子が『生まれてきて良かった』と思えることが私の育児のゴールです」。

公共の場で大声を出す子、走り回る子。親のしつけが足りないのではなく、支援が必要な子なのかも

光や音に対する感覚が過敏、不安を言葉で表現できない……発達障害の行動には理由があります。「親はとにかく、周りに謝ることしかできない。単にマナー違反をおかしているのではなく、子ども本人も親も苦しんでいると知ってもらえたら、見方を変えてくれる人もいますよね」。キッチンには長女と長男の衝動性や不安、睡眠障害などを抑える薬が。

困難なことに向き合うひとほど、楽しむ時間は大事だと思う

子どもと離れて自分の時間をもつことに「実は私も罪悪感を持ってしまいそうになる」とさおりさん。でも、障害児の育児は先が長く、自分がつぶれるわけにいかないから、時々はひとりでサイクリングへ。50キロほど一気にこいでリフレッシュするのは、さおりさんが自分を取り戻す大切な時間。

だれもが普通に「手伝って」「助けて」って言える世界になったら最高だよね

助けを求めることをうしろめたく思ってしまうのは、苦労を美徳とする古い価値観のせいかも。「社会がやさしくなれば誰もが生きやすくなる。助けてと言い合える世界を、私が生きているうちに見たいです」。

参照:『サンキュ!』2022年6月号「サンキュ!SGDs部」より。掲載している情報は2022年4月現在のものです。撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 取材・文/石川理恵 編集/サンキュ!編集部

 
 

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