ハッピーシニア大人カップルが一緒に健康的なサラダを食べる

日本女性の2人にひとりは寿命90歳以上⁉ メタボに続く、超高齢社会の新たな健康問題“食べられない”「イートロス」とは

2024/04/10

“人生100年時代”と言われていますが、“人生120年時代も夢じゃない”と、囁かれていることをご存じですか? 120年⁉ と驚きますが、実は日本で100歳以上の高齢者は約9万人(令和4年9月現在)。年々増加傾向にあります。超高齢者社会の到来を控えて、「イートロス」という新たな健康問題に注目が集まっています。

女性の2人にひとりは90歳の誕生日を迎えている

厚労省の「令和4年簡易生命表の概況」※によると、90歳まで生存する割合は、2022年は男性25.5%、女性49.8%。1980年の男性7.1%、女性16.0%と比べて、3倍以上となっています。

日本の平均寿命は年々伸びており、令和4年は男性81.05歳、女性87.09歳。最高年齢はなんと116歳(平成4年9月現在)。あと数年で女性の平均寿命は90歳の大台にのると言われ、これが“人生120年時代も間近では⁉”と、ささやかれる所以です。

これはひとえに、近年の医療の進化の賜物。しかし手放しで喜べないことも事実です。

ビーチで幸せなシニアカップル。エキゾチックな高級リゾート.バックビュー。
Jub Job/gettyimages

WHOが2000年に提唱した“健康年齢”。平均寿命から介護期間を差し引いた寿命、つまり健康に生活できる年齢をいかに延ばすか、が注目されるようになり、メタボ(糖尿病をはじめとする生活習慣病の前段階)が広く認知されるようになりました。

そして中年期の「メタボ対策」から転じて高齢期には「イートロス」という、重要な健康問題が注目されています。「イートロス」とは「食べられない状態が続くこと」。
「食べられない」なんて特殊な状況と思われがちですが、実はかなり身近な存在で、高齢者を中心に、誰でも気づかぬうちに陥る可能性があるといいます。

伊藤園中央研究所が開催している「第9回 伊藤園ウェルネスフォーラム」において、❝究極の健康問題”として「イートロス」が取り上げられ、専門家による講演やパネルディスカッションが開催されました。

人生120年時代を健康に生きるために知っておきたい「イートロス」

「イートロス」の重要性を講演する、東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻 感覚・運動機能医学講座 口腔顎顔面外科学分野の星 和人教授。星教授のご家族の事例を基に解説していただきました。

「伊藤園ウェルネスフォーラム」は「人生120時代を豊かに生きる イートロスとは何か?」をテーマに開催されました。

「食べるとは命を支えること。栄養の摂取はもちろん、咀嚼は脳の血流をあげて、口腔内の衛生面を正しく支えることになります」

と星 和人教授。ただ、高齢になるほど食欲が落ちていくのが一般的です。仕方のないことでは……と、思われがちですが、実は違うようです。

人は家族や友人の食事を作ることには使命感をもちますが、自分ひとりだと手抜きになりがち。なぜなら「食べる」ためには「買い物(食材の確保)」「調理」「後片付け」が必要だからです。

さらに「食べ物を口に運ぶ」「咀嚼する」「消化する」「排泄する」という“当たり前”の過程が必要となりますが、高齢になると心身に問題を抱えるなどして、“当たり前なこと”が“困難なこと”になることも。

こうして徐々に食べることに意欲がなくなり、体重が減少していきますが、「肥満になるよりは」と、軽く思いがちです。けれども実は、太りすぎよりも痩せすぎの方がより死亡リスクが高く、体重が落ちると介護リスクが高まるというデータがあるのです。
食欲減退からやがてイートロスになると、口腔内が不衛生になり、歯周病が悪化してさまざまな健康被害をもたらす可能性が高まります。星 教授は

「このままでは2040年には大イートロス時代となり、約600万人の高齢者がやせすぎによるイートロスで、医療や社会、経済を圧迫する可能性があります」

と警鐘を鳴らします。

イートロスにならないために。「フレイル」とは?

フレイルとのイートロスの密接な関係を講演する、東京大学大学院医学系研究科 加齢医学講座 老年病学の小川純人准教授

フレイルとは「病気ではないけれど、加齢によって心身と筋力が低下して、回復力が低下している状態」のことを言います。筋肉の衰えなど身体的な要因だけでなく鬱や独居など、社会的要因や心理的要因も大きく影響されます。

小川純人准教授によると、フレイルとイートロスは密接な関係にあるそうです。

「高齢者は栄養が偏りがちになります。

・ばっかり食べを避ける
・1日3食バランスよく食べる
・孤食を避けて、楽しい食事の機会をつくる
・低栄養になることを避けてタンパク質を多めに摂取する
・『褒めあう』あるいは『喜びを分かち合う』

ことが大事です」

などの、フレイル予防のアドバイスがありました。

「オーラルフレイル」のキーワードは“舌圧”

イートロスの原因となるオーラルフレイルについて講演する、東京大学大学院医学系研究科 イートロス医学講座の米永一理准教授

オーラルフレイルとは歯や口の機能が衰えて「話しにくい」「飲み込みにくい」「むせる」「こぼす」などの状態になることを言います。

「実は身体の機能は、口の機能から衰えていきます。口の機能の一つである舌圧がしっかりしているときちんとした食事ができますが、舌圧が弱っている人は柔らかい物しか食べられないため、『イートロス』に繋がりやすいのです。食べ物を飲み込む機能である“舌圧”を、いかに衰えさせないかが重要です」とは、米永一理准教授。

オーラルフレイルは、フレイル・サルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)や要介護状態、死亡に深く関連することもあるそうです。

「舌筋力を鍛えることは難しいですが、舌圧と握力、舌圧と歩行能力に関連性があることが分かってきており、日頃からの運動が大切といえます」

とのことでした。

企業が率先して「イートロス対策」を推奨することが重要

イートロスにならないために、社会全体でどう取り組むべきかについて話す、東京大学大学院医学系研究科の渡辺林治特任講師

「企業の目的は長期的に維持発展し、社会的な役割を果たしていくことでもあります。日頃から企業が、社員の『イートロス』対策を考慮したウェルビーイング健康経営(働く人の健康とやる気をサポートする)にしっかり取り組んでいくことが、昨今叫ばれているサステナビリティにもなるのです」とが、渡辺林治特任講師。

実証研究により、歯科検診に行けないことがストレスに繋がるということが分かってきたそうです。

「しっかり働くためには食べなければいけないが、しっかり噛めること、それから口腔内を綺麗にすることが重要です。定期的な歯科検診によって『イートロス』を多くの人が知り、予防していくことは、企業の有益にもなり、社会全体のウェルビーイングに繋がっていきます」

と、個人だけでなく企業が、社会全体がイートロス対策をすることの大切さを説きました。

究極の健康課題「イートロス」対策に向けて

パネルディスカッションの最後に、伊藤園中央研究所の瀧原所長が登壇。

「多くの人に、日常的に食べられない状態が続くことに危機感を持ってほしい。『イートロス』という言葉を広めるためにも、東京大学との社会連携講座「イートロス医学講座」の皆様とともに、この研究を深掘りして、社会実装(応用・展開)できるよう、我々がしっかり発信していきたい」

と、締めくくりました。

超高齢化社会において大切なのは「どんな最期を迎えるか」

公園で屋外を歩く3世代の家族
imtmphoto/gettyimages

40~50代は「脱メタボ」が重要課題ですが、高齢者になったら「脱フレイル」“栄養をしっかりとる”にシフト変更することが、イートロス対策になると言えそうです。

「いつの時代も、人は何も食べられなくなり最期を迎えます。ただ『どんな最期を迎えるのか』が重要です」

と、星教授。しかも現代において、イートロスは高齢者だけでなく独居、貧困、閉じこもりなどでも陥る可能性がある“究極の健康問題”なのだそう。

「食べる」は命を支えます。そして美味しいものを食べると人は”幸せ”を感じ、活力にすることができます。

人生120年を健康に生き抜くためにも、自分のみならず家族のイートロス問題に、しっかり取り組む必要があるようです。

提供/伊藤園

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