突然発症し、治療後の再発リスクも高い心筋梗塞。前兆となる症状やかかりやすい人の特徴には、どのようなものがあるのでしょうか。
心筋梗塞についての詳しいお話を、糖尿病・総合内科・甲状腺専門医である、たいや内科クリニックの加藤大也院長に聞きました。
Q.心筋梗塞とはどのような病気ですか
心筋梗塞とは、主に動脈硬化が原因で、心臓に酸素と栄養を供給する冠動脈が詰まり、心筋(心臓の筋肉)の一部が壊死してしまう病気です。
血管内に蓄積した「粥状(じゅくじょう)プラーク」と呼ばれるコレステロールや、炎症細胞などが含まれた塊が破裂すると、そこに血栓(血の塊)ができて血管が詰まって血流が遮断されます。これにより心筋は酸素不足となり、時間が経つにつれて壊死していきます。治療が遅れるほど壊死の範囲が広がり、心臓の機能が著しく低下する危険性があります。
心筋梗塞の主な症状は、突然の激しい胸痛や締めつけられるような圧迫感です。痛みは30分以上続くことが多く、冷や汗、吐き気、息苦しさを伴うケースもあります。
心筋梗塞は迅速な治療が生存率を左右する病気です。発症後は早ければ早いほど治療の効果が高まるため、疑わしい症状があればすぐに救急車を呼び、適切な医療機関で診察を受けることが重要です。
Q.心筋梗塞になりやすい人にはどのような特徴がありますか
心筋梗塞は、動脈硬化を引き起こすリスク因子を多く持つ人に発症しやすい病気です。主な危険因子として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満症が挙げられます。特に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)の人は、血管が詰まりやすく、リスクが高まります。
また、喫煙やストレス、運動不足も大きな要因です。タバコに含まれる有害物質は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。ストレスが続くと交感神経が活性化し、血圧が上昇して心筋梗塞の引き金となり得ます。
さらに、家族に心筋梗塞の人がいる場合、遺伝的要因によって発症リスクが高くなることが知られています。
発症リスクは男性では50歳以降、女性では閉経後に徐々に上昇し、高齢になるほど増加します。特に朝の血圧が高い人や、冬場の急な温度変化にさらされる人は注意が必要です。
これらのリスクを減らすためには、定期的な健康診断と生活習慣の改善が重要となります。
Q.心筋梗塞の前兆や自覚症状にはどのようなものがありますか
心筋梗塞は突然発症することが多いのですが、発症前に前兆症状として、胸の痛みや圧迫感が起こることがあります。その他、動悸、不整脈、左肩や腕、あごの痛み、胃の不快感、吐き気、冷や汗などが現れる場合もあります。
これらの症状が、夜間や安静時に症状が出たときは特に注意が必要です。
糖尿病や高齢者では痛みを感じにくいため、なんとなく体調が悪い、倦怠感が続くといった軽い症状でも、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
また、運動時や階段を上る際に「締めつけられるような痛み」や「息苦しさ」を感じる場合、心筋梗塞の前触れとなる狭心症の可能性があります。
心筋梗塞の痛みは典型的には30分以上続き、ニトログリセリンという薬を服用しても改善しません。一方、狭心症の痛みは数分から15分程度で、ニトログリセリンを服用すると症状が軽減することが特徴です。
ただし、短時間で痛みが軽減しても、心筋梗塞の前兆である可能性は否定できません。そのため自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。
Q.心筋梗塞を予防することはできますか
心筋梗塞は、生活習慣の改善によって予防できます。最大のポイントは「動脈硬化を防ぐこと」で、そのためには食事、運動、禁煙、ストレス管理が重要な要素となります。
食生活では、塩分・脂肪の摂取を控え、野菜や魚を多くとることが推奨されます。特に青魚に含まれるEPAやDHAには、血液をサラサラにする効果があります。
また、飽和脂肪酸(肉・バター)よりも不飽和脂肪酸(魚・ナッツ類)を選ぶことでも、動脈硬化を予防できます。
運動は、心臓に過度な負担をかけない範囲で行いましょう。一般的には1日30分程度のウォーキングが推奨されますが、持病があるかたは医師と相談し、適切な運動強度を決めることが重要です。
そして、禁煙はもっとも効果的な予防策のひとつです。禁煙を続けると、時間とともに心筋梗塞のリスクが低下します。
さらに、定期的な健康診断で血圧・血糖・コレステロール値をチェックし、異常があれば早めに対策を取ることが大切です。
Q.心筋梗塞を治療することはできますか
心筋梗塞は、迅速な治療によって、救命率を大幅に向上させられる病気です。発症から時間が過ぎると、心筋の壊死が進行して回復の可能性が低くなります。そのため、発症後はできるだけ早く医療機関への受診し、血流を再開させることが重要となります。
心筋梗塞の主な治療法として、詰まった血管をカテーテルで広げ、ステントを挿入するPCI(カテーテル治療)があります。PCI(カテーテル治療)が可能な施設では、発症後120分以内の施行が推奨されています。また、心筋梗塞発症後12時間以内の場合、適応があれば血栓溶解療法(詰まった血栓を薬で溶かす)が検討されます。
重症の場合やPCIが困難な場合は、冠動脈バイパス手術(CABG)が検討されます。CABGは、新しい血管をつないで血流を迂回させる手術で、特にPCIが難しい多枝病変(複数の血管が詰まっている状態)や、左冠動脈主幹部病変があるケースに有効とされています。
糖尿病患者の心筋梗塞においても、多枝病変がある場合は長期予後が良いとされるCABGの適応が検討されます。
治療後は、再発予防のための薬物療法や生活習慣の改善、心臓リハビリテーションが不可欠です。また抗血小板薬やスタチン(脂質異常症治療薬)を継続することで、再発のリスクを大幅に低減できます。
心筋梗塞は治療可能ですが、再発リスクの高い病気でもあります。そのため、治療後も上記のような管理を行っていくことが非常に重要です。
取材/文:山名美穂(Instagram「@mihoyamana」)
編集:サンキュ!編集部