【東日本大震災から7年】被災地のママの心と体に寄り添う場所をつくる/佐藤美代子さん

2018/03/10

東日本大震災が起きた11年。岩手県の沿岸部で被災したママの心と体をケアすることを目指し、助産師や栄養士によるNPO法人「まんまるママいわて」が誕生しました。

立ち上げの中心になったのは助産師の佐藤美代子さん。2児のママでもある佐藤さんは当時5カ月だった長女をおんぶし、自宅がある花巻市から往復2時間かけて被災地に出向き、助産師や栄養士とママが交流するお茶会「まんまるサロン」を約450回開いてきました。

震災から7年経った今も活動を続ける佐藤さんにお話を聞きました。

<Profile>
佐藤美代子(さとう・みよこ)
岩手県花巻市在住の助産師。夫と息子、娘の4人暮らし。岩手県内で看護師と助産師の資格を取ったのち、東京の「矢島助産院」で修業し帰郷。震災直後から被災妊産婦の受け入れなどにかかわる。県内の幼稚園、小中高校、PTAや教員向けに「いのち」や「生と性」についての講演活動もおこなっている。

「震災でストレスを受けているママ、に少しでもほっとしてもらいたい」

――「まんまるサロン」とは、どんな場所ですか?

助産師など専門家とママが気軽に交流できるお茶会です。発足は震災から半年後の11年9月。産婦人科が軒並み閉鎖された釜石、大槌など沿岸部で孤立するママの力になりたい!と、内陸部に住む助産師と栄養師が中心になって活動を始めました。

地域の集会場を借り、ハーブティと手作りのおやつをいただきながら、ママと妊婦さん、それから助産師や栄養士など専門職の女性がおしゃべりして過ごします。お酒を飲まない女子会ですね(笑)。これまで9カ所の市町村で約450回開催。参加者の延べ数は4000人を超えています。

↑釜石での「まんまるサロン」。助産師4名と運営スタッフ2名、14組の母子が集まり大盛況。月1回のサロンを楽しみにしているママが多い。

▲釜石での「まんまるサロン」。助産師4名と運営スタッフ2名、14組の母子が集まり盛況。月1回のサロンを楽しみにしているママが多い


――どんなおしゃべりをするのですか?

専門家としてママの体や母乳、食事、赤ちゃんの体や子育てについての相談に乗るだけでなく、だんなさまや家族についての愚痴も大歓迎。逆に私たちのぼやきを聞いてもらうこともあります(笑)。

震災でストレスを受けている子どもを休みなく世話するママは、子どもよりもさらに大きなストレスを抱えています。そんなママに少しでもほっとしてもらいたくて、アロマオイルを使ったハンドマッサージもします。マッサージはママと1対1で向き合うので、おしゃべりが深い話に発展することも多いです。

↑会場の一角がハンドマッサージコーナーに。家事と子育てで疲れたママの手をやさしくねぎらう。

▲会場の一角がハンドマッサージコーナーに。家事と子育てで疲れたママの手をやさしくねぎらう


――深い話とは?

最初から被災経験を語る人はいません。サロンを始めて2〜3年が経ち、何度か顔を合せるママたちがぽつりぽつりと本音をもらしはじめました。「津波で両親が死んでしまった。でも生活や子育てに追われ、悲しみに向き合えていない。今から悲しんでもいいのだろうか?」「収入が減ってイライラしている夫とケンカばかりしている」「津波がすごく怖かった。思い出すたびに心臓がバクバクして苦しい。でも私は生き残れたんだから、このくらい我慢しないと」……岩手は家長制度が強い土地柄で、おじいさんとおばあさんの世代から「周りの人も大変なんだから黙って耐えろ」と言われることも多いです。ですのでママたちは、自分のつらさを言いだしにくい。家族でも地元の人間でもない私たちだから、話しやすいのかもしれません。 


――震災を経験しなければわからない悩みがあるのですね……。

身近な人を亡くした悲しみ、家や仕事を無くしたことによるお金の悩み。震災で見えてきた家族の問題。そして、「私よりももっと大変な人がいる。だから落ち込んではいけない」という、自分への抑圧。被災を経験した人の心の痛みは本当にさまざまです。そんな思いを「まんまるサロン」で打ち明け、ママたちの表情が少しずつ明るくなっていく。そんな様子を7年間見てきました。

「復興という言葉をよく聞きますが、心の傷は簡単には消えません」

――サロンを始めてうれしかったことは?

サロンに参加してくれていたママが活動に加わり、支援する側に回ってくれていることですね。「まんまるママいわて」の副代表もその1人です。それぞれの地域で支援を受けた女性が「次の困っているママへ」と自分たちの力と経験を発揮して支援が連鎖し、広がっています。そんな様子をみるたびに、「まんまるを始めて良かった!」と思います。


――現在はどんな活動をしていますか?

大槌、釜石、花巻、北上などで、月1回ペースでサロンを開催しています。ヨガ講師やアロマセラピスト、フードコーディネーターも参加してくれるようになり、親子ヨガやアロマのワークショップ、それから料理教室も開いています。


――震災から7年。支援活動をやめない理由は?

復興という言葉をよく聞きますが、心の傷は簡単には消えません。盛り土された土地や土ぼこりが舞う更地、それから仮設住宅を見るたび、震災はまだ終わっていないと感じます。震災によってさらに過疎化が進み、産婦人科も激減した地域で、専門家とママの交流の場が果たす役割は大きいです。だから続けています。


――今、目指していることは?

妊娠・出産・育児を経験する女性とその家族が、岩手県のどこに住んでいても、不安や悩みを最小限にして楽しく育児ができる環境をつくりたいですね。

▲おむつや子ども向けのお菓子などの支援物資が今も寄せられる

撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 構成・文/川上(『サンキュ!』編集部)

記事を書いたのは・・・

川上(サンキュ!編集部員)

モード系ファッション誌などを経て「サンキュ!」へ。昔はファッション・エディター、今はなんでも担当。高1と小5の母で、朝5時に起きてべんとうをつくるのが日課


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