【東日本大震災から7年】被災したふるさとでレストランを始めた/小野寺智子さん

2018/03/10

東京の有名レストランでシェフをしていた小野寺智子さんは津波で大きな被害を受けた岩手県・野田村出身。震災で地元への愛を痛感し、「東京で磨いた料理の腕で、村の人を喜ばせたい」とUターンを決意。16年にレストランを開きます。

妊娠10カ月の今も厨房に立つ小野寺さんにお話を聞きました。

<Profile>
小野寺智子(おのでら・ともこ)
1989年岩手県九戸郡野田村生まれの29歳。夫と夫の両親との4人暮らしで妊娠10ケ月。高校卒業後コックを目指し上京して調理専門学校を卒業。レストランやホテルを経営する「ひらまつ」に入社し、東京・代官山の「リストランテASO」などで6年間働く。15年にUターン。16年にイタリアン・レストラン「おすてりあ ばいげつ」をオープン。趣味は温泉とお酒を飲むこと

「地元への愛を震災で痛感。東京で磨いた料理の腕で、村の人を喜ばせたい」

――震災当日はどこで何をしていましたか?

東京に住み、代官山のイタリアン・レストランで働いていました。たまたま仕事を休んで家にいるときに大きな揺れが。テレビをつけると「三陸沖に大津波警報」というテロップが出ています。あわてて家族や友達に電話やメールをしましたが、つながりません。

同じ岩手県の久慈や宮古が大津波にのまれる映像が何度も流れ、夜にはラジオで「野田村壊滅」というニュースを聞きました。村のだれとも連絡がつかず、「みんな死んだ」と覚悟しました。親と電話で話せたのは津波の1週間後。同じころ、友人家族と同級生が亡くなったことを知りました。 


――どんな気持ちでしたか?

「申し訳ない」という気持ちがいちばん大きかったです。津波の日の野田村は寒く、夜は氷点下まで気温が下がったと聞いています。そんな日に、壁みたいな大津波が村を襲った。村の人が味わった恐怖と寒さ、冷たさを、東京にいた私は知らないので……。申し訳なく思う気持ちは、今も私を責めています。


――震災から5年後、野田村にUターンしています。なぜですか?

津波のあと、東京のレストランの厨房で、いつも村のことを考えるようになりました。「私を育ててくれた村に何かできないだろうか?」……答えが見つからず悶々としたまま、津波から5年半が経ちました。

休暇で帰省したとき、災害ボランティアの皆さんにイタリア料理を作る機会がありました。使ったのは村でとれたほたてや豚肉、わかめやきのこ、ほうれん草など。どれも味が濃厚で、それぞれの食材の持ち味が力強く際立っているのに驚きました。野田村の食材には、東京の厨房で手にしてきた高級食材に勝る魅力がある。それに、ここには海も山も里もあるから、フルコースの食材が全部そろう。それはとても誇らしい発見でした。

そのときに、「私にできる「何か」は、料理だ!」と気づき、そこに村の食材がつながり、「野田村でレストラン始めてみっぺ!」という答えにたどり着きました。

▲智子さんは経営者兼シェフ。店の近くの畑では店で使うためのトマトやピーマン、ハーブやイタリア野菜など約100種を有機栽培している

▲プレートの演出に東京での修行経験が生きる。特別感のあるコース料理と、鶏のから揚げなど身近な料理の両方が楽しめる店を目指している。


「村のおいしいもんで料理作って、村の人を喜ばせてけったいなぁ」。そんな思いを抱いてUターン。すぐに事業計画書をつくり、資金を調達しました。

同時に村の生産者にも会い、コネクションをつくり始めました。そこから半年後。私を育ててくれた祖母が手がけていた小料理屋「梅月(ばいげつ)」から名前をもらい「おすてりあ ばいげつ」をオープンしました。


――開店から2年、震災から7年。今の気持ちは?

津波で悲しい思いをたくさんした人たちが、村の食材で作った料理を食べて笑顔を見せてくれるのが、今の私の生きがいです。村や人に貢献できているとはまだ思えないけど、帰ってきてよかったと思っています。

▲取材当日は地元のオーケストラが店を借り切りコンサートの打ち上げ。楽器を演奏して盛り上がるメンバーの多くが震災を経験


<おすてりあ ばいげつ>
野田村産の海鮮や肉、野菜を使ったイタリア料理を提供する地産地消のレストラン。おすすめは「荒海ホタテと荒海ワカメの贅沢スパゲティ」。

【SHOP DATA】
岩手県九戸郡野田村31-7-1
TEL:0194・71・1005
三陸鉄道北リアス線 陸中野田駅から徒歩1分
11:30~16:30、17:30~22:00 木曜休
公式ホームページ:https://www.osteriavai-getsu.com

参照:『サンキュ!』4月号「東日本大震災を経験した人の7年」より一部抜粋
撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 構成・文/川上(『サンキュ!』編集部)

記事を書いたのは・・・

川上(サンキュ!編集部員)

モード系ファッション誌などを経て「サンキュ!」へ。昔はファッション・エディター、今はなんでも担当。高1と小5の母で、朝5時に起きてべんとうをつくるのが日課


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