利益損失リスクがあるために彼女の仕事から解雇についての作業ミス問題のためを強調したアジア ビジネス女性頭痛

働くママたちが陥る「マミートラック」を知っていますか?

2019/10/06

2019年4月~6月に放送され、働く世代からの支持を集めたドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBSテレビ系)。同ドラマの第2話に、働くママが陥る「マミートラック」について描いたシーンがありました。内田有紀さん演じるキャリア志向のワーキングマザーが、妊娠を理由にプロジェクトを外された過去のトラウマから、育休を半年早々で切り上げ「残業も休日出勤も問題ありません!」と公言し、上司や同僚に波紋を及ぼす、というものです。

「マミートラック」とは、昇進や昇格、または責任のある仕事を任されたいと望む女性が、出産や育児をきっかけとした時短勤務などを理由に、軽微な仕事や補佐的な業務しか任されなくなってしまう状態を指す言葉。仕事におけるキャリアを陸上競技の「トラック」になぞらえて、ママであることを理由に出世コースから外れたトラックを延々とまわり続けることを意味しています。

また、たとえ昇進や昇格が働く先の目指す方向ではなくとも、女性が子どもを産み、育て、働き続けることには、いくつもの壁や困難が立ちはだかっています。

今回は、2人の働くママに出産、育休を経て、職場復帰した後にさまざまな壁や困難をどう受け止め、乗り越えようとしているか、お話をうかがいました。

(取材・文/みらいハウス 福井良子)

時短勤務って迷惑ですか?ITエンジニアママのケース

中年実業家のオフィスで何かを考えています。
metamorworks/gettyimages

Mさん(35歳)は、5歳の長男、3歳の次男、1歳になる長女の3人の子どもを育てながら、ITサービス会社のエンジニアとして働いています。新卒で入社して以来、サーバ運用の仕事に関わり、365日、休日や夜間出勤は当たり前という職場環境で仕事を続けてきました。そんななか、30歳のときに長男を出産。育休中に2人目を妊娠したため、そのまま復職せずに、次男を出産しました。そして、約3年の産休・育休を終え復職したMさんを待っていたのは前述した「マミートラック」でした。


「保育園の送迎のため時短勤務だったこともあり、上司からは『時短でしょう?問い合わせなどの電話も取れないんだよね。』と言われ、データをExcelに落とし込むなどの比較的簡単な事務作業ばかりを任されるようになりました。

エンジニアなど技術者が多く在籍する部署なので、もともと事務仕事もそんなに多くはなく、上司が『何か(事務の)仕事ない?』と部下に聞いて回っているような状況。その様子を見ていて、『子持ちの女性社員に復職されると、やはり困るのかな』と複雑な心境でした。

そして復職後、1年ほど経ち、3人目の出産のため、再び産休・育休を取得しました。復職は、長女が1歳を迎える前に運良く保育園への入所が決まったタイミング。すると、今度は上司から『戻ってくるの早くない?』『旦那の稼ぎだけではダメなの?』と言われたんです……。

明らかに私の存在を迷惑がっていましたが、夫が転職したばかりという家庭の事情もあり、どうしても仕事を続けざるを得ない状況でした。だから、以前と同様に時短での復職ではありましたが、『何でもやります!』と上司には強く伝えたんです」

働くママ=上を目指さないとダメですか?

消沈ビジネスウーマン
AH86/gettyimages

Mさんの状況は、冒頭で紹介した『わたし、定時で帰ります』のエピソードと驚くほど似ていました。ママであることを理由に、実力を発揮できない仕事ばかり任せられてしまう……まさに「マミートラック」の状態です。

幸いにもMさんは、復職後しばらくして以前の経験とスキルを活かせるプロジェクトへの打診を受け、それを機に時短勤務からフルタイム勤務へ戻ることができました。そのときの気持ちを「短い期間でのプロジェクトですが、本当にラッキーだし、ありがたいお話でした」と振り返るMさん。一方で、上司や会社に対する不信感は消えませんでした。


「最近は、プロジェクトが終わるのを機に転職も考えるようになっています。いまの勤務先は関連会社も含め、徐々に育児と仕事を両立しやすい制度は整いつつありますが、まだまだ整備途中といった感じ。双方の実家も遠方で急な預け先などで頼れる人はいないので、子どもに何かあったときに産前のように、365日フル稼働という働きかたを出来る自信もないんです」


Mさんからは、現在、そして将来の仕事観が率直に語られ、最後には、このような疑問も口にしていました。


「最近、会社からも世間からも『女性活躍=子どもを寝かしつけてからリモートで会議や残務もこなし、隙間時間は自己啓発に充て、上を目指してバリバリ働く』という働くママ像を求められている気がしています。でも、私は何が何でも上を目指そうとは考えていません。会社から見れば『何もビジョンがない人』と思われるかもしれませんが、仕事は好きだし、働くことは続けたいんですけどね……」


Mさんの言葉は、ともすれば働くことに消極的なママと捉えられかねないものです。しかし、その背景には復職時に経験した「マミートラック」のトラウマが影を落としている、と筆者は感じます。

働くママの仕事への思いや価値観は人それぞれであり、そのことを受け止めてお互いを理解し合うことが、この多様な社会においては、今後、求められていくのではないでしょうか。

次のステップへ進むために……育児、仕事、学校をこなすママのケース

学校の学生の教育テストを持つ思考ハード、留学教育と世界リテラシー日コンセプトの教室で答えを書くと試験
Chinnapong/gettyimages

2人目は、一児のママで、約14年、日本語教師の仕事を続けながら、並行して通信制の大学院で勉強しているYさん(43歳)。「マミートラック」の状態に陥らないよう、出産後もキャリアアップすることを考えて選んだ道ですが 、育児、仕事、学校の3つをこなすのは並大抵のことではなく、そこに至るまでにはさまざまな苦悩があったそうです。


「大学院へ進学したのは、一旦仕事を辞めていたときに参加したJICAの海外ボランティアでの経験がきっかけです。そこで知り合った仲間の多くが帰国後に進学や転職など、自身のキャリアを大きく変化させていく様子を身近に見てきました。

私は帰国後、再び日本語教師として働き始めたのですが、『もう少し専門的な知識を身につけないと先に進めないのかな』という仕事への行き詰まりを感じるように……。そこでいろいろ調べてみたところ、自分が足りないと感じていた知識を学べる大学院があることを知ったんです。自分も、ボランティア時代の仲間のように、進学を通じてキャリアを開こうと思いました。

ただ、育児も仕事も学校も、というのは、到底一人ではできることではないので、夫の協力が不可欠。もちろん最初は『育児や仕事もあるのにどこで勉強の時間を捻出するの?学費はどのぐらいかかるの?』など、賛成には程遠く、私自身も夫に自分の思いを説明するにあたり、準備不足な感も否めませんでした。

ただ、その後何度も話し合いを重ねていくうち、夫が『自分も一緒に大学院に行くつもりで、一緒にやっていきたいんだ』という考えであることがわかりました。そのために、夫に育児や家事にどの程度の負担があるのか、そのことを明確にする必要があることも改めて知ることとなりました。そうじゃないと、私がやりたいことだけをやるのは夫婦としてフェアじゃないですものね」

困難に直面するときは夫婦で納得するまで話し合う

AntonioGuillem/gettyimages

Yさんが進学した通信制大学院の授業は月2回、オンラインでゼミ受講するというもの。毎晩、子どもを寝かしつけた後に授業の準備をしています。


「疲れて子どもと寝落ちすることもありますが、そのときは朝3時とか4時に起きて準備をします。今は育児も仕事も夫の協力を得ながら、何とか日々の生活をギリギリで回しているという状態。今後はレポート提出なども増えてくるので、さらに夫に負担がかかることもあり、さらなる協力が必要かもしれません。

夫は、子どもが産まれてから『残業無し』主義の働きかたを職場で宣言し、極力それを実践しているようです。『効率よく、いかに仕事を時間内に収めるか』が働く上での夫のテーマであるそうなのですが、家庭においては、まだ子どもも小さいため、これから予測不能なことがやってきて、どうにか収めたいと思ってもコントロールできないことも起きるかもしれません。

ただ『これからも仕事もして家事もフェアにやっていこう』という思いはお互いに共有しているので、その都度、何か難しいことに直面するときは納得するまで話し合って、お互いを理解して支え合っていくことができたらと思います」

変化の兆しはあるが、未だ課題が多い「仕事と育児の両立」

筆者が以前勤めていた会社では、出産後の女性が復職するというケースはほぼ皆無で、そのようなことが許される風土もありませんでした。しかし、それから数年が経ち、後輩たちが、一人目、二人目、と出産しても職場復帰することも当たり前のようになったという話を聞き、女性が子どもを産み育てながら働く環境に僅かながらも変化の兆しを感じました。

ただ現実は、短時間勤務など、何らかのキャリアチェンジを迫られるのは女性の方が圧倒的に多く、仕事と育児の両立においては、まだまだ十分な環境とは言えません。育児については、女性だけが背負うべきものではなく、パートナーも同じ土俵に立つということが、今まさに求められていることと筆者は考えます。働きかたを含めた職場や社会の環境も大きな変革期に来ているのではないでしょうか。


■取材・文/みらいハウス 福井良子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。キャリアコンサルタントや不妊カウンセラーの資格を持ち、女性のキャリア相談や、不妊経験のあるママたちの支援などに取り組んでいる。1児の母。

 
 

PICK UP ピックアップ

TOPICS 人気トピックス

RECOMMEND