ある日突然、私はパニック障害になった
2020/02/13
こんにちは。サンキュ!STYLEライターのあやをです。
突然ですが、私は一年半ほど前にパニック障害を発症しました。これまで、家族と一部の知人を除いて誰にも言っていなかったのですが、隠しているよりも、少しでも多くの人にパニック障害のことを知ってもらった方がよいのではないかと思い改め、今回記事を書くことにしました。
そもそもパニック障害ってなに?
パニック障害とは、動悸や窒息感、めまい、吐き気、震えといったパニック発作が、繰り返し出現する状態のことです。パニック発作が起きると、このまま死んでしまうのではないかというほどの強い恐怖を感じます。
パニック障害の人の多くが、空間(広場)恐怖を伴います。空間(広場)恐怖とは、逃げるに逃げられない場所で恐怖が生じることで、新幹線や飛行機、高速道路などが典型的な例ですが、そのほかにもエレベーター、トンネル、橋など恐怖の対象は人よって異なります。
そしてパニック障害の場合、発作が起こった後も、「また発作が起こるのではないか」という恐れから行動が制限され、日常生活に支障をきたすようになるのです。
私が初めてパニックになった日
そのとき私は、ホワイトニングの施術を受けるために歯医者の椅子の上にいました。まず歯をチェックし、マウスピースを装着、薬剤を塗布…これまで何度も経験した、何も特別なことはないいつもの手順でした。
しかしマウスピースを口に入れられた瞬間、生まれて初めて感じる恐怖が突然私を襲いました。薬剤を塗布しようとしているお医者さんを跳ね除け、咄嗟にばっと起き上がってしまった私。
「ど、どうされましたか?」
驚くお医者さん(そりゃそうだ)
「いえ、あれ、なんか、すみません…」
私自身何が起こったのかがよく分からず、でも動悸と息苦しさが止まりません。再度椅子に横たわってみるも、今度は横になった瞬間にめまいがし、このまま狂ってしまうのではないかという恐怖に襲われ、まさに「パニック状態」でした。
それでも、その日の私はまだ「ちょっと疲れていたのかな…」程度にしか思っていませんでした。
しかし、数週間後に今度は歯科検診で歯医者を訪れた際、椅子に座った瞬間に先日のできごとがフラッシュバックし、また発作が起きてしまったのです。
パニック障害の始まり
さすがにおかしいと思いネットで詳しく調べたところ、明らかにパニック障害の症状であることが分かり、すぐさま病院へ。
私は数年前からストレス性の胃腸障害で心療内科に通院していたので、そこで診てもらったところ、やはりパニック障害の症状だということで安定剤を処方されました(この胃腸障害というのもなかなか厄介で、2年以上あれこれ苦しめられたので、またいつか詳しく書きたいと思います)。
あえて書きますが、数年前に初めて心療内科を訪れたときには「なんで私がこんなところに」「ここは私みたいな人が来るところじゃないのに」なんてことを本気で思っていました。ものすごい偏見ですよね。でも当時、バリバリ働いていて、ストレスを自覚していなかった私は、精神的な疾患が誰にでも起こることだという認識が正しくできていなかったのだと思います。そのせいで、その後の治療がかなり難航しました。
それから数年をかけて、だいぶ自分のからだを受け入れられるようになっていたので、今回のパニック障害についても多少のショックはあったものの、受け入れるのにそこまでの苦悩はありませんでした。
ただ、そのときの私はまだ、パニック障害が日常生活に与える影響を甘く見ていたのです……。
次第に日常を支配していくパニック障害
歯医者で初めてのパニック発作を経験した私。最初のうちは、パニックになりそうな場所を避け、どうしても避けられないときにだけ薬を飲むようにすれば、日常生活にさほど支障は出ないだろうと考えていました。
しかしその後しばらくして、歯医者だけでなく、まつエクの施術や美容院など「椅子に座って身動きが取れなくなる状況」でもパニック発作が出るようになりました。
そしてパニック発作の対象がじわじわ増えていくことに不安を覚え始めていたある日、乗っていた電車が突然止まりました。次の駅で非常用ボタンが押されたため一時停車するというアナウンスが流れるのを聞きながら、私は、心臓の鼓動が徐々に速くなっていくのを感じました。
「あれ、これって...」どうしよう、どうしようと焦るほどに呼吸が荒くなっていきます。とそのとき、電車がゆっくり動き出しました。次の駅まで何とか持ちこたえ、幸いそこが乗り換えの駅だったので、すぐに電車を降りました。息を整え「ああ、よかった…」と発作が出なかったことに安堵しつつ、乗り換え先の地下鉄のホームへ移動しました。
しかし今度はそこで、満員電車の扉が開くのを目にした瞬間、からだが震えだしてしまったのです。
人がすし詰め状態の車両を前に、足がまったく動きません。それでも、この電車に乗らなければ会社に遅刻してしまうと思い、意を決して乗り込んだのですが、発車ベルが鳴り響いた瞬間「この扉がしまったら逃げられない」という恐怖に襲われ、咄嗟に電車から降りてしまいました。
私、電車もダメなのか……。
目の前で閉まるドアを見つめながら涙が出ました。それからというもの「また発作が出るのではないか」という恐怖が、私の日常生活を支配していくようになったのです。
空間(広場)恐怖の実態
以下に、現在私が空間(広場)恐怖を感じる場所をあげます。
・飛行機
・新幹線
・特急電車
・高速道路、トンネル
・人混み、満員電車
・地下
・暗い場所、狭い場所、窓のない場所
・出入り口から離れている席、奥の席
・歯医者、美容院など
すべてに共通するのは「逃げ場がない」という恐怖です。「一度乗ってしまったら降りられない」という意味で、一番強い恐怖を感じるのが飛行機や新幹線、特急電車です。高速道路やトンネルも、途中で止まることができないという意味で同様です。満員電車については、奥へ押し込まれてしまうことや、身動きがとれないことに対し「逃げ場がない」と感じます。
地下、暗い場所、狭い場所、窓のない場所というのは「閉鎖感」に対する恐怖です。例えば、照明が暗めの飲食店や、窓のない会議室、マンションのゴミ置場などに入ると「閉じ込められる」という感覚に襲われます。
出入り口から離れている席(会議室の最前列)や、奥の席(座敷の一番奥のように、手前の人に立ってもらわないと自分が出られないような席)でも逃げ場を失った感覚になります。歯医者や美容院は、椅子に固定されている状態「=身動きがとれない」ことに対し恐怖を覚えます。
歯医者で最初の発作を起こしてからたった一年半で、私の恐怖の対象はここまで広がりました。そう、「空間(広場)恐怖の対象が拡大していく」というのが、パニック障害の特徴なのです(このことを「全般化」と呼ぶそうです)。
パニック発作って実際どんな感じなの?
これは人によってもかなり差があると思いますので、あくまでも私の場合ですが、まず、恐怖の対象である空間に入った瞬間に「このまま死んでしまうのではないか、このまま私は狂ってしまうのではないか」という恐怖の波が押し寄せます。
例えるならば、狭い部屋の中で、四方の壁がどんどんこちらに迫ってきて「このままでは壁に押しつぶされて死んでしまう…」という感じでしょうか。そして動悸、冷や汗、めまい、窒息感、からだの震えが止まらなくなり、数分で恐怖が頂点に達します。
「死ぬわけない」――そんなことは分かっているんです。飛行機だって新幹線だって、これまで何十回も乗ってきました。冷静なときはそう思えるんです。それでも、いざその瞬間が訪れると恐怖の渦に飲み込まれてしまう。それがパニック障害の怖さだと、私自身は感じています。
パニック障害で変わる生活
パニック発作が繰り返し起こるのがパニック障害の特徴ですが、発作を繰り返すと「また発作が起きるのではないか」という不安(予期不安)にかられ、発作が起きる恐れのある場所を避けるようになります。
私の場合は「満員電車、人混み、地下の店、暗い店、狭い店、閉所、高速道路、飛行機、新幹線」などを回避して生活するようになりました。
恐怖の対象を回避する生活は、簡単なことではありませんでした。例えば「地下の店、暗い店、狭い店」を回避しようと思っても、私の住んでいる東京なんて、そんなお店だらけなのです。友人から食事に誘われても「もし狭い店だったらパニック発作が出てしまうかも」と思うと不安になり、だんだん人と会うこと自体を避けるようになりました。
飛行機や新幹線にどうしても乗らなくてはいけないときは、薬を飲んで対処しています。高速道路は、私のパニック障害に対し理解のある夫の運転であれば薬なしでも乗れますが、夫以外の人の運転は、薬を飲まないと乗ることができません。
幸い私は、通勤時間をずらす、会議室では常に出入り口の近くに座るといった対処で仕事は何とかできていますが、パニック障害の患者さんのなかには、通勤することができず休職を余儀なくされるかたもいます。
パニック発作にも波がある
私の場合は、発作が出ていない期間が長ければ長いほど、症状が落ち着く傾向にあります。もちろん、パニックになる場所を避けて生活しているから発作が出ないだけなのですが、それが継続すると予期不安が減るので、そういう時期は電車が多少混んでいても乗れますし、美容院などでも発作が起きにくくなります。
反対に、パニック発作が出やすいときというのは、ひどい発作が起こってしまった直後の数週間〜数カ月です。
つい先日、久しぶりにひどい発作が起きてしまったのですが、その後は過敏になり、それまで発作が出ていなかったような場所でも、発作が起こるようになりました。そのため、ここ最近は混んでいない電車でも気分が悪くなり、各駅で下車しながら通勤する日もあります。
パニック障害の本当のつらさ
パニック障害になって一番つらいと感じたのは「理解してもらえない」ということでした。
例えば、会社の研修で座席が予め決められていたことがありました。座席表を見ると、私の席は最前列。私は今、出入り口の近くの席しか座れないので、研修担当者にその旨を説明したのですが、とても怪訝な顔をされました。
「大げさじゃない?」
「気の持ちようだよ」
「私も好きじゃないけど我慢して乗ってるよ」
こんな言葉をかけられたこともあります。
空間(広場)恐怖の対象は、じつはパニック障害の人でなくても「何となく不快な場所」であることが多いのです。人混みが好きな人はあまりいませんし、満員電車だってよい気分ではないでしょう。小型の飛行機ってちょっと嫌だよね、と思う人も多いと思います。だからこそ「乗れない」ということを「わがまま」と捉えられてしまうことがあります。
パニック障害になる前の私も、もちろん満員電車なんて好きではありませんでした。それでも会社に行くために「我慢して」乗っていました。それができるのが普通です。それが「できない」のがパニック障害なのです。そこをなかなか理解してもらえず、「嫌でもみんな我慢してやっている」と言われてしまうことが、何よりもつらいのです。
でも反対に、家族や一部の知人など私のパニック障害を理解してくれている人といっしょにいるときには「パニックが起きても大丈夫」と思えるので、それによって発作が起こりにくくなることもあります。
おわりに
パニック障害になる人は100人に1~2人と言われているそうです。そして、パニック障害になりやすい特有の性格はないともいわれており、それはつまり「誰でも発症する可能性がある」ということでもあります。
読者のかたのなかには、パニック障害のかたや、身近な人がパニック障害だというかたもいるかもしれませんが、「聞いたことはあるけど、実際どういう症状なの?」と思っていたかたも多かったのではないでしょうか。
今回は、そんなかたに少しでもパニック障害について知ってもらえるきっかけになったらいいな、と思いこの記事を書きました。
もし、パニック障害で苦しんでいるかたがいたら、まず身近にいる人が理解してあげて欲しい。それが、パニック障害の人が生活するうえでどれほど心強いかを、私は身をもって経験したから。
私はパニック障害になって、それまで当たり前にできていた日常生活の一つひとつが、とても困難になりました。でも家族の理解があり、今ではパニック発作とうまくつき合いながら、毎日を過ごしています。そして今後は薬物療法に加え、認知行動療法などにも取り組みながら、焦らずゆっくりと自分の生活を取り戻していけたらと思っています。
この記事によって、1人でも多くのかたが、パニック障害のことを理解してくれますように、そして、パニック障害で苦しんでいるかたがたが、少しでも安心して暮らせるようになることを、心から願っています。
【参考文献】
磯部潮『パニック障害と過呼吸』(幻冬舎新書 2012年)
厚生労働省HP:パニック障害・不安障害(https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_panic.html)
◆記事を書いたのは・・・あやを
インテリアも節約も収納も料理もそこそこな肩書き迷子。強いて言うなら暮らしにまつわるあれこれを幅広く執筆する「暮らし」のオールラウンダー。お金好きが高じてFP2級を取得。暇さえあれば本を読んでいる読書家。