「わがままな障がい者」と言われ炎上。それでも発信を続けて、つくりたい世界とは?

2024/11/20

原因不明の病気である日突然、障がい者になってから「障害があっても住みやすい世の中に、誰かが変えてくれたらいいのに」とずっと思っていた。そう思っているだけでは、なかなか進めなかった。

自分の発信が何かを変えるきっかけになるのなら。誰かの勇気になれるのなら。

そんな気持ちを勇気に変えて、行動する車椅子インフルエンサーを取材しました。

【取材した人】
車椅子インフルエンサー 中嶋涼子さん

1986年東京生まれ。38歳。原因不明の病気で9歳から車椅子ユーザーに。高校卒業後、アメリカに留学。帰国後、通訳や会社員を経て、31歳から車椅子インフルエンサーの活動をスタート。

YouTube動画、講演、SNS、テレビ出演などを通して、社会や人の心をバリアフリーにしていけるよう発信中。憧れの人は安室奈美恵さん

「車椅子でもかっこいいと思われたい願望があって外ではクールを装ってるけど(笑)、かわいい雑貨やぬいぐるみ に目がなくて。つい買い集めちゃう」。一人暮らしの部屋には大好きなピンクのグッズがあちこちに

9歳の時に突然、車椅子に。 「かわいそう」と 見られるのが辛かった

「子どものころの私はスポーツ少女でした。だけど小3の冬、学校の休み時間に鉄棒で遊んでいて地面に着地した瞬間、歩けなくなって。大きな病院で治療や検査をしても下半身まひの原因ははっきりせず、脊髄の炎症による横断性脊髄炎と診断されました」
 
突然始まった車椅子生活。何よりつらかったのは人の視線でした。「車椅子で外に出るとチラチラ見られるのが、いやで恥ずかしくて。かわいそうって思われてると思い込み、家に引きこもるようになりました」

そんな中嶋さんを救ったのは、友達に誘われていやいや観に行った映画『タイタニック』。

「主演のディカプリオにひとめぼれ。困難に立ち向かうストーリーにも心を揺さぶられて11回も観に行くうちに人の視線にも慣れて、アメリカで映画を学ぶ夢ができました」

高校卒業後に渡米。大学の映画学部などに通い、8年間過ごしました。

『 タイタニック』を見て以来、映画漬けの日々。週に2~3本は見る。小4から10年以上書き続けた映画ノートは火事のときにも絶対持ち出すと決めている宝物
夕食は自炊派。よく作るのは卵炒めや野菜炒め、チャーハン、オムライス

自分も誰かのために発信できる? 車椅子の友達ができて、 考えが変わった

「アメリカは車椅子ユーザーが多くて、街の人たちもフレンドリー。『手伝おうか?』と気軽に声をかけてくれて、障害を意識せずに暮らせました」

しかし帰国後は再び孤独に。「周りに車椅子の人はおらず、夢だった映画関係の仕事に就いても職場になじめず、もっと生きやすい社会に誰かが変えてくれたらいいのにって思っていました」

そんなとき、SNSを通じて音楽活動など好きなことを自分らしく楽しむ車椅子の女性たちに出会い、価値観が変わります。その後、意気投合した3人で車椅子のガールズユニットを結成。

「ステージで、歌ったり障害のことを話すのは初めて。すごく緊張したけどお客さんが笑ってくれて、障害のある方々から『勇気が出ました』と言ってもらえたのが嬉しくて。

私は今、映画の仕事より、車椅子ユーザーのことをもっと知ってもらって壁がなくなるような活動をするべきなのかなと考えて会社を辞め、インフルエンサーとして活動することに決めました」

車椅子チャレンジユニット「BEYOND GIRLS(ビヨンドガールズ)」の活動でTシャツなどグッズも販売。2025年はCD制作と発売イベントを計画中

声を上げるときはいつも悩む。 何かが変わるかもと思って 勇気を出す

「インフルエンサーとして発信するのはやりがいがあって楽しい反面、厳しい批判や心無い言葉をかけられることもあります。

24年の春にはよく行く映画館での車椅子の介助について発信したSNSが炎上して、猛烈なアンチコメントの嵐に心底落ち込みました」

しかしその後、映画館側とバリアフリーについて話す機会を得て、スロープや車椅子席が新たに設置されました。

「車椅子でもみんなと同じように映画を楽しめたらという思いが届いたようで。感激で涙がとまりませんでした」

また炎上するかもと悩みつつ、思いきって後日談を発信。すると「よかったですね」「声を上げてくれてありがとう」といったコメントが続々届き、勇気を出してよかったと安堵したそう。

「何かを伝えるのってすごく難しい。どうすれば誰も傷つけずに考えや思いを真っすぐ届けられるか、いつも悩みます。でもスロープなどの環境面だけではなく、社会や人の心こそバリアフリーになってほしいから、これからも発信し続けたいです」

「おへそから下の感覚がないので、排泄にも障害があります。排泄の悩みを発信するのは勇気がいったけど、案外『同じ障害があります。話してくれてありがとう』とか『始めて知りました』という、発言に肯定的な声が多くてうれしかったです」

最後に豆知識。もし、街で車椅子の人に出会ったら?

「何をしていいのかわからない」「声を掛けたら失礼?」そんなふうに迷う人に。中嶋さんに、声掛けのワンポイントを聞いてみました

声を掛けて もらえるのは、嬉しい

「なぜ車椅子なの?」という素朴な質問も中嶋さんはウェルカム。子どもからのストレートな言葉もOKです

「何かお手伝い しましょうか?」は、 嬉しい

声を掛けてもらえたら、ドアを開けてもらったり、ちょっとしたことをお願いしやすくて助かります

平気なように見えても、 辛いことがある

自分から助けを頼むほどではなくても、実はこっそり辛いと思っていることも。特にこんなところだそう

●上り坂
坂道を自転車で上るときの腕バージョン。地味にきつい

●段差
案外あちこちに段差ってある。スロープが遠かったり、傾斜がきついことも

●エレベーター
混んでいると、ずっと見送るしかなかったり、降りるタイミングが難しかったり。優先エレベーターはゆずってもらえるたらうれしいな

●電車の乗り降り
駅員さんが用意してくれるスロープを待つと20分くらいかかることも。ホームと電車のすき間が小さい駅なら、自分で乗っちゃいたいときもある。お手伝いしてくれる人がいると乗れるんです(無理はしなくてOK。安全に不安を感じたら駅員さんを呼んで)

ベビーカーを押したり手伝ったりするのに近いかも。声をかけたら、役に立てることがありそう

撮影/林ひろし 取材・文/松沢陽子 企画・構成/飯塚真希(サンキュ!編集部)

※記事は「サンキュ!」2025年1月号(24年11月25日発売)に掲載されたものを一部加筆・修正しています。内容は本誌校了時(24年10月現在)のものです

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