今日よりあしたを良くするために、何かを始めたひとに会いに行く、雑誌「サンキュ!」の連載です。今回は街に「本屋さん」を作った人のお話です。
今回会いに行った人
目に見えない大勢より、目に見える人とつながるワクワク
上田さんは元テレビマン。ドキュメンタリー番組などを制作し、世の中に伝えたいことを広く発信していました。忙しく働いていましたが、大勢の人が見るテレビは影響力が大きいけれど「誰かに届いてる」という実感が薄いと感じることも。
30歳ごろからテレビの仕事もしつつ、仲間とともにイベント企画を始めました。そこでは主催者と参加者の垣根がなく、料理をしたり音楽を楽しんだりして全員が主役になれる。『目に見えない何万人の視聴者より、目の前の100人に直接何かを伝えてつながれるっておもしろいな』とワクワクしました
19年には、誰もが特技や作ったものを持ち寄って出会いがつながる場として「路地裏文化会館 C/NE」をオープン。
「そこでイベントを開いて、街に住む人たちが料理やアートなど、趣味でやっていたことを発信できる場を作ったんです。するとどんどんファンが増えて。
予想外の展開もありつつ、ある人はその趣味が本業に変わっていく……。まるで映画を見ているようで、その企画や運営をサポートする僕にも、生きている実感というか手ごたえがありました」
そして24年8月、本と飲食とイベントを組み合わせた「COUNTER BOOKS」を立ち上げました。
つくりたいのは、フラッと入れて 好奇心が動くものがたくさんある場所
約70㎡の店内には2000冊の本が並び、読書会などのイベントを開催。併設のカフェバーでは世界の食文化をヒントに生まれたフードやドリンクを提供し、その全てが「本」につながっているのがおもしろいところ。
「食事しながらスタッフと会話して、ランチメニューの解説から国や料理に興味がわいたり、読んでいる本を教え合ったり。単に本を売るんじゃなくて、買う手前の気持ち、『なんかそれ、気になるな』っている好奇心が生まれてくるような本屋にしたかった」
本棚には食べる、暮らす、つくる、生きるなど、身近な日常を見つめ直すきっかけとなる本がズラリ。働き方や経済の本など〈働く〉がテーマの棚の下には、疲れた体や心のケアに関する〈ほどく〉がテーマの本がそろいます。
「何となくつながりのあるものが隣にあることで、本棚を眺めるうちに好奇心が連鎖して広がればいいなと。そうやってささやかだけど心が動く時間を過ごしたその延長で、本を買ってみようという気持ちになってもらえたらいいなと思っています」
読み切らなくても 理解できなくても その本と出合ったことが既に価値
「本を読みたいけれど、何を読めばいいか迷う」「読みたい本が見つからない」という声は意外と多いもの。
「そんなときも気追わず、本屋で心のおもむくまま本を手に取ってみては?読みたい本を探すのは、自分と対話することだと思うんです。自分はなぜこの本を手に取ったんだろう、今はこんな本にひかれるんだなとか、内なるプロセスがある。
だから本は選んだ時点で価値があって、全部読まなくても理解できない部分があってもいい。僕自身も積ん読率はかなり高いですよ(笑)ぜひ気になる本を手に取って自分の好奇心と出会ってください」
※記事は「サンキュ!」25年4月号の掲載の内容を一部加筆修正したものです。instagramのアカウント@39._booksでは動画も公開しています
撮影/林ひろし 取材・文/神坐陽子 企画・編集/飯塚真希(サンキュ!編集部)