本棚を見て、その人の職業がわかりますか? ~その2.ものごとの背景を知りたくなる本棚

2025/04/14

本棚を見ると、その人が何を考えて何をしているかがわかるらしい。では、その職業まで言い当てることができるでしょうか?

「私、そんなに読書家じゃないと思うけど?」と少々いぶかしげな表情で取材を受けてくれたこの本棚の持ち主。でも話を聞いてみると、自分が好きだとはとくに意識しないままに、本の存在をつねに身近に感じていたようです。

「両親だけでなく、叔母、いとこなど、いろいろな人の持っている本がずらっと並ぶひと部屋が実家にありました。自然に本を手にするような環境だったのかもしれません」。

なにかに興味を持つと必ず本を手に取ります。背景とか、考え方を知りたくなっちゃう

子どもの頃も、社会人になって現在の仕事にたどり着くまでも、そのときどきの興味の変遷に寄り添いながら、本は、傍らにいつもあったのです。

「小説も読みますが、借りて読むことが多い。買うのは、歴史や文化を教えてくれる本」と、本棚に並ぶ自分の本をじっくり眺めながら、そう分析してくれました。そのときどきの興味や気になることが広がっていくと、それを深掘るために本を手にし、自然に読書はつながっていきました。 

新聞のコラムから、読みたい本を見つけることが多いです

『感性は感動しない』椹木野衣

朝日新聞のコラム「折々のことば」で出会った本。「SNSなどで好き勝手に批評をする人が多いことに違和感を抱いていたとき、自分の思いを代弁してくれたと感じて、気持ちがラクになりました。今、いちばん好きな本です」。

子どものころ、母の料理本を読むのが好きでした

『最新楽々ケーキづくり』小林カツ代著 主婦と生活社(現在は、復刊ドットコム)

サッカー→韓国→K-POPへと興味が繋がりました

ブームを先駆けてくれる雑誌は捨てられない

前職は長時間パソコンに向かう仕事だったので、体を動かしたくなって。フットサルを始めたら、そこで在日韓国人の友人ができて韓国文化に触れました(当時はワールドカップの日韓同時開催後で盛り上がりは最高潮でした)。そこからK-POP好きにも。

そのときどきに手に取った雑誌をきっかけに、興味の幅がどんどん広がっていった感じです。

食の背景にあることをつい調べたくなります

その土地や風俗の話を読みたくなる

仕事場につくった本棚には、ずらりと食文化に関する本が並びます(上の写真は職場にあるものです)。

最近の興味の対象は、食の歴史やそのおいしさの理由。食を通して見えてくる歴史や文化、芸術。奥底に流れる、人の営み全般に惹かれているようです。

本棚の持ち主は、韓国ごはん屋さん店主 山口泰子さん

東京都出身。グラフィックデザイナーとして社会人生活をスタート。長時間パソコンに向かう仕事に疲れ、飲食業を志す。人気の焼き菓子店「フードムード」を経て、東京・経堂にて韓国料理店「モゴ」をオープン
全7席の小さなお店。広島・尾道に昔からある、ラーメンやうどんを提供するお店の内装を模したのだそう。韓国出身の人からは懐かしい雰囲気と言われることも。毎日食べたくなる、ホッとする味わいの料理を提供
カウンターの背面の壁にある、小さなでっぱりは本を見せながら置いておくのにぴったり。ごはんを待つ間に読むかな?と、本を置いてます。本のセレクトが好きだからと、お店に通うようになった人も

店をオープンするときに本棚を設置することは、山口さんにとっては既定路線でした。「私も飲食店とかの本棚を見るのが好きだから」と話します。

棚のデザインは韓国の民画の作品集を見ながら考えたのだそう。「デザインや民芸が好きで、韓国の民画にも惹かれます。有名なものより、無銘性がおもしろいと思っています」。無名な人がつくるものの集積が歴史であり、文化。そういったことを伝える本が、お店の本棚には多く並びました。

韓国の田舎の家庭料理のようなメニューが中心

「韓国の食文化の本が増えたのは、日本人の自分が、韓国の料理をつくるためには、きちんと背景を知っておくべきと考えたから」。真摯に韓国料理と向き合っている山口さんの姿勢が伝わる本棚でもあります。

そんな本棚から一冊の本を取り出して、料理を待つ。この本棚は、ひとりだけで切り盛りされる小さなごはん屋さんにとって、大切なサービススタッフでもあるのです。

※サンキュ!2025年7月号の内容に一部加筆しています。インスタグラムのアカウント(39._books)では動画も公開しています

撮影/キムアルム 取材・文/加藤郷子 企画・編集/飯塚真希(サンキュ!編集部)

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