本棚を見て、その持ち主の職業を考える企画。答えを読む前に、あなたはそれを当てることができますか?
「月に4~5万円分は本を買っています。本にしかお金を使ってないかも」と、驚きの金額を淡々と口にするこの本棚の持ち主。4万円(!)もする、建築家の作品集を購入したばかり。届くのを楽しみに待っているところです。
私はなんと多くのことを見落としているのか! 勇気をくれるのも本だし、打ちのめされるのも本
二十歳のときに上京。ルームシェアをしていた読書家の友人の影響もあって、自分の本好きに気づき、本を読むことにのめり込んでいったのだそう。
物語やエッセイ、哲学の本や日記本も。はたまた写真集などのビジュアル本まで。気になれば、手当たり次第に、どんなジャンルでも手を伸ばします。友人におすすめされてということもあれば、SNSで流れてきた情報からということも。
「活字中毒でオタクなんです、きっと。テーマの振り幅は激しいけれど、バラバラに見えて共通項もある気がして。人はどういうことを考えながら、ものをつくっているのか、生きているのかに、私は興味があるんだと思います」
本はいつも2冊持ち歩いています
「読み終わってしまって、読むものがなくなるのが恐怖だから、バッグには2冊の本を入れています」。いつでも読める、いつでも調べられるという状態が安心なので、1冊は保険代わりに持ち歩いているのだとか。
写真集は「家に美術館がある」感じ
掃除をしながらだったり、仕事でお客様を待つときだったり。テレビやスマホを見る代わりに写真集をめくります。「美術館が好きだけれど、いつでも行けるわけではないので」。美術館に行った気分になれ、気が晴れます。
セキララな本を読むと「なんでもアリだんだ!」と勇気がでる
「人に興味があるんです。幅広い年齢のお客様と接する仕事なので、ついいろいろ聞いちゃう」。日記本が好きなのもその延長。この本は、思いや苦しみの吐露がセキララすぎて衝撃でしたが、逆に安心感につながったそう。
美しいアートブックは、新しい視点を見せてくれる気がする
コンクリートの表面、階段の断片、光の色……。建築家が世界を旅して切り撮った断片を色ごとに編集した写真集も。「世界の新しい見方を教わると同時に、私はなにもかもを見逃してると愕然とし、落ち込みさえします」。
建築と私の仕事って、なにか通じるところがある感じがするんです
依頼者がいる、形をつくる、好きなものをそのまま形にするわけではない。この3点が建築家と自分の仕事の共通点だと感じている二階堂さん。「建築家の言葉や作品に学ぶことが多く、自分の仕事に置き換えながら読みます」。
本棚の持ち主は、美容師・二階堂雪さん
群馬県出身。サロン勤務を経て、2年前に独立。東京・田園調布でひとりで客と向き合うプライベートサロンsiiをオープン。現在新規の申し込みができないほど人気。子どもの頃から本好きだったよと親にも言われるそう。

「本は嫌いなものの存在にも気づかせてくれます。自分にとっての好きと嫌い。どっちも見つけておくことって、仕事にも人生にも大切だなと思っています」。本にあることと向き合うと、自分がより見えてくると言います
このところ、二階堂さんがよく手にするのは、写真集。なかでも惹かれるのが、建築家の視点を提示してくれるもの。美容師と建築家、共通点のない仕事のようにも感じますが、対象へのアプローチの仕方が似ていると感じるのだそう。
「細かいことの集積で、美しい建築は生まれます。美容師の仕事も同じ。ディテールの積み上げで、よりよいスタイルになると思うんです」
以前、SNSきっかけで同じ本が好きということが判明し、わざわざ来てくれた新規客もあったのだとか。お客様を連れて来てくれたり、コミュニケーションの一助になったり。本を媒介にすることで、好きな世界観をスムーズに共有することもでき、よりその人に合ったスタイルを生み出すことにもつながるのかもしれません。
※サンキュ!2025年7月号の内容に一部加筆しています。インスタグラムのアカウント(39._books)では動画も公開しています
撮影/相馬ミナ 取材・文/加藤郷子 企画・編集/飯塚真希(サンキュ!編集部)