出産を機に退職……したのはパパ!その後のキャリアはどうなるの?
2020/04/14
女性にとって、出産・育児は人生における重大なライフイベント。それをきっかけに働きかたや生きかたを考えざるを得なくなったり、その後の人生を大きく変えるようなことにつながったりすることが往々にしてあります。
一方で男性にとっても、家族の出産や育児時期が、仕事の転機となったりいそがしい時期と重なったりすることも多いのではないでしょうか。
今回は、2人目の子どもが産まれる直前に会社を辞めたという木村龍典さんにお話を伺いました。
(取材・文/みらいハウス 渡部郁子)
2人目の出産直前に仕事を辞めた理由とは?
大学院を卒業してから、ベンチャー企業に勤めていた木村さんは、5年ほど経ったころから、転職を考え始めたそうです。
「野菜を生産する植物工場を手がける会社で、学生時代からつながりがあり就職しました。結果として6年半で会社を辞めたのですが、会社が不満とか、仕事が不満ということはまったくなく、ベンチャー企業でひととおり学ばせていただいたので、そろそろ次に何か学ぶことがあるのではないか、と外に目を向け始めたのがきっかけです。ただ、考え始めてから1年ほどたって会社を辞めたときも、次に何をするかは結局決まっていませんでした。しかも、会社を辞めた時期は、第二子が生まれる直前でした」
会社を辞めることに、妻は反対しなかったのでしょうか。
「妻に、会社を辞めるかもしれない、ということは伝えていました。妻も契約社員として働く共働きですが、『(生活がむずかしくなるようなら)実家にもどってもいいんじゃない?』という妻のひとことで、少し気持ちが楽になりました。会社員のころから、会社の仕事とは別に社会貢献のボランティアをしていたので、その団体からアルバイト代をいくらかいただけるようになり、多少は収入があるということも支えになりました。次の就職先を決めずに、独立するという方向で退社しましたが、ダメだったら再就職でなんとかしよう、という思いもありました」
「預金がどんどん減っていく恐怖」と戦う日々
会社を辞めて、家にいる時間が増えたのでしょうか。
「会社を辞めてから2カ月後に、仲間と3人で会社を設立しました。そのため、会社にいたときよりも収入は少ないうえに、いそがしくなりました。平日は夜遅くまで仕事で出ていることが多くなりましたが、それでもなんとか週1、2回は早く切り上げて、子どもをお風呂に入れたり、夕食を家族でいっしょにすごしたりするようにしました。もともと、子どもたちを保育園に送るのは会社員のころから担当していましたが、朝の送りに加えて子どもに朝食を食べさせるなどの担当を続けています。
育児分担のほかに、収入が減っても今まで関わってきた支払いはそのまま担保するということを自分に課しました。収入が大きく減るため、会社を辞める前に金融機関から少し借り入れをして、月々の支払いに備えました。独立して会社を設立したばかりの立ち上げ期は、働いても働いてもお金が入ってこない。預金はどんどん減っていくので、支払いができなくなるんじゃないか、というプレッシャーが常にありました。
創業して1年は、お金のことを考えるのがとてもストレスでした。2年たって、やっと成果が出始めて、少しお金のプレッシャーからは解放され、多少は安心できるようになってきたところです」
在宅作業のときは家事を担当
起業直後で収入がないのにいそがしいという状況のなかで、妻は契約社員で共働き。家事や育児の分担について夫婦でもめたことはないでしょうか。
「妻から不満を言われたことはありませんが、言わないようにしてくれていたのかもしれません。土日もイベントの仕事があるので、できるだけ家族でいっしょに行ける仕事をするようにして、家族ですごす時間を長くするようにしています。子どももイベントを楽しんでいるようなので助かっていますが、土日も休まる時間がないという意味では、ストレスを感じることがあります。
仕事をしている時間は前よりも増えているのですが、自分で時間の都合をつけたり、家で作業できる日が増えたので、洗濯をしたり洗いものをするなど家事をしながら仕事をすることもあります。僕自身は、育児や家事になるべく関わっていきたいと考えています。時間の融通がつけやすくなったことで、子どもとすごす時間が増えたこと、子どもの行事に参加しやすくなったことで、妻とうまく連携が取れるようになりました」
退職→独立→そして今後
職業は食に関する研究者という木村さん。フリーランスでさまざまなプロジェクトに関わっているとのこと。今後のキャリアについてどのように考えているかお聞きしました。
「仲間と立ち上げた会社が軌道に乗りはじめ、3人で仕事をするなかで広がったこともありますが、それぞれ折り合いが必要な場面もあります。この先、会社の事業のほかに、自分ひとりで完結できる大きな仕事にも取り組めたらと感じています。
子どもたちはまだ小さいですが、生きものとして自然の摂理を慮ることを伝えていきたいです。小さいころから、宮林や里山に親しみを感じ、木や土にふれることに心地よさを感じていました。それをこの先、子どもたちにどれだけ残していけるのか。地球を壊さず、次世代へ引き継ぐために何ができるのか。研究者として、自分が持っているスキルや知識で価値をつくり出す人になりたいと考えています」
◇◇◇
妻が第二子出産の直前に木村さんが仕事を辞めたと聞いて、夫婦でどのように危機を乗り越えたのか知りたいと思い、今回インタビューさせていただきました。話を聞きながら、女性だけでなく男性にとっても、出産、育児というライフイベントは、仕事やキャリア形成にさまざまな影響があるように感じました。
出産や育児のタイミングによって、仕事を辞めざるを得ない場合もあれば、キャリアチェンジを選べずチャンスを逃すこともあるかもしれません。願わくば、男性にとっても女性にとっても、出産や育児などのライフイベントが、その後のキャリア形成にプラスに働くようなきっかけになりますように。
◆取材・文/みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。
構成:サンキュ!編集部