日本の小学生

不登校児童の支援を通じて見つけた「コロナ禍」を生きる子どもたちに必要なもの

2020/12/22

新型コロナウィルスの感染拡大によって、我々の生活は大きな変化を余儀なくされました。なかでも、子どもたちの環境変化は非常に大きかったでしょう。過去に例がない全国一斉休校や、オンライン授業の導入。また、学校行事やイベントの取りやめなどにより、学校生活は以前と比べて大きく変化しました。

コロナ禍が子どもたちにどのような影響を与えたのか?今回は、そんなテーマについて不登校児童の支援に取り組む「川崎市子ども夢パーク」所長の西野博之さんにお話をお聞きしました。
(取材・文/みらいハウス 渡部郁子)


話を聞いた人・・・

西野博之さん

認定NPO法人フリースペースたまりば理事長。川崎市子ども夢パーク所長。1986年より不登校児童・生徒や高校中退した若者の居場所作りに携わる。

コロナ禍で増えた子どもへの虐待、原因は?

西野さんは「コロナ禍で虐待が増える」と早い段階から警鐘を鳴らしてきました。コロナ禍による生活変化は、子どもたちの環境にどのように影響したのでしょうか。

「実際の調査結果からも、コロナ以降で児童相談所に寄せられた虐待相談件数は過去最多のペースで増加していました(※1、2)。コロナ禍がもたらす影響により、虐待が増えたことは間違いありません。

また、緊急事態宣言の際は学校だけでなく公園なども閉鎖されるケースがあり、子どもたちが思いっきり遊べる場が少なくなってしまったこと、学校行事やイベントなどの要素が減ってしまったことも、コロナ禍が子どもに与えた影響のひとつと考えます。ストレスを抱えた子どもが多くなれば、いじめ問題などの増加にもつながります」

一斉休校によって元気を取り戻す子どもたちも

コロナ禍は子どもたちに負の影響を与える一方で、一部の子どもたちに新たな気づきを与えたと、西野さんは話します。

「じつは一斉休校によって、一時的に元気になる子どもがいました。また、学校の再開が決まり、最初のころに行われた分散登校のときに、それまで不登校だった子どもが、一時的に学校に行けるようになったケースもありました。彼らに話を聞いたところ、通常のクラスは無理だけど(分散登校によって)10人以下になったクラスなら行きやすいというのです。

また、コロナ禍の影響で授業にオンラインで参加できるようになり、楽になったという子どももいました。在宅から参加しやすくなったことで『本当は学校にいるはずの時間なのに学校に行けない』という負い目を抱えていた子どもが、自分もオンラインで授業に参加できているという点で劣等感が和らいだのかもしれません。

ただし、学校が通常どおりになったら、こういった子どもたちの多くは、また元気がなくなってしまいました」

コロナ禍の時代、子どもたちに必要なのは「スキマ」や「余白」

子ども夢パークには、子どもたちが自由に遊んで過ごせるプレーパークがある

西野さんによれば、学校再開後によって不満の声を挙げたのは、不登校の子どもたちだけではなかったそうです。

「子ども夢パークは、学校のなかに居場所が見つけられない不登校の子どもたちの場であるフリースペースと、学校に通う子どもたちが放課後を自由に遊んですごすプレーパークなどがあります。

放課後に通ってくる子どもたちは、学校再開後の学校への不満をよく口にするようになりました。

学校は遅れた授業を取り戻すため、体育や音楽などの授業を減らし、楽しみにしていた運動会や修学旅行などの行事を、ニューノーマルを理由に中止にしました。学校で声も出せない、給食も友達の背中を見て食べる、友達と遊ぶ時間がなくなって楽しくないと悲しむ子どもたちの声が多く届きました。
 
コロナ禍で気づいたことは、子どもたちにとって『不要不急』なことも大事だということです。スキマや余白を残しておくこと、何が正しいか、子どもにとって最善の利益は何か、正論や常識にとらわれず、自分の頭で考えること。ただ中止・禁止にするのではなく、どうしたら活動を続けられるのかを、子どもたちといっしょに考えることも重要ではないでしょうか」

学校だけが学びの場ではない?コロナで変わる教育のカタチ

コロナ禍による一斉休校によって、西野さんは「学校の持つ託児機能の重要性」を改めて実感したそうです。

「コロナ禍の一斉休校ではっきりと意識させられたのは、学校の持つ託児機能の大きさです。一斉休校時、保護者からは学校の勉強の遅れのことを問題にする声よりも、昼食づくりの負担が増えたことや、子どもをおいて仕事に行けない、兄弟喧嘩がうるさくテレワークができないなど託児機能としての学校が損なわれることに対する不満の声が多かったように感じます。

つまり、託児機能さえキープできれば、学ぶ場の選択肢にはもう少し自由があってもいいのはないか、と考えるようになりました。極端なことを言えば、学校にこだわらなくてもいいんです 。

夢パークで木工作品を作ったり、絵を描いたり、染色したり、自然観察したり、いろんな活動を学びとして認定するなど、ダイナミックに街全体を学びの場にするようなことができるのではないかと感じています。

コロナ禍による分散登校で、少人数制によって集団が苦手な子どもたちの教育の課題解決に向けた糸口が見えてきたり、コロナ禍をきっかけに、今までむずかしかったオンライン授業が本格化するなど、学校教育も大きく変化していくと感じます」

子育てとは「大丈夫」「あなたがいてくれて幸せ」と伝えること

子どもパークには屋内施設もある

コロナ禍による新しい日常をすごす子どもたちには、どのようなケアが必要なのでしょうか。西野さんはつぎのように話します。

「子どもたちは大人と比べて、『助けて』と言葉にしづらい傾向にあると感じています。だからまわりの大人が日々寄り添いながら、子どもたちの異変、SOSをキャッチできるかどうかが問われています。そしてなにより重要なのは、子どもが『助けて』と言いやすい環境を、我々大人がつくることでしょう。そのためにも日頃から子どもに『大丈夫だよ』『あなたがいてくれて幸せだよ』と伝えることが大切だと思います 」


子どもたちがコロナ禍を乗り越えるためには、親を始めとしたまわりの大人たちの「大丈夫」という声がけが必要だという西野さんの言葉はとても説得力があります。一方で、コロナ禍によって大人たちもまた余裕を失っているという事実もあります。最後に、コロナ禍をすごす大人に向けて、西野さんのメッセージをお伝えします。


「子どもに『大丈夫だよ』と温かいまなざしで接するためには、まず大人が幸せでなくてはなりません。川崎市で“子どもの権利に関する条例(※3)” をつくった際に、市民向けに開かれた報告集会の場で、子どもたちから次のようなメッセージが大人にたちに贈られました。

『まずおとなが幸せにいてください。おとなが幸せじゃないのに、子どもだけ幸せにはなれません。おとなが幸せでないと、子どもに虐待とか体罰とかがおきます。(中略)まず、家庭や学校、地域の中で、おとなが幸せでいてほしいのです。子どもはそういう中で、安心して生きることができます』

この言葉はあまりに見事だったので、川崎の母子手帳に記載されるようになりました。子どもたちからのこの言葉を大人は心に刻み込む必要があると思います」


※3 子どもの権利を尊重するまちづくり推進のため、2000年に市議会で成立し、2001年4月から施行された川崎市の条例。

インタビューを終えて

2020年はコロナ禍による生活の変化で、誰もがいつも以上にストレスを抱える1年だったことと思います。日常生活の変化は、子どもたちの心にも大きく影響していることでしょう。

西野さんからのアドバイスは、子どもたちに「大丈夫だよ」「あなたがいてくれて幸せだよ」と伝えることでした。そのためには、大人が心の余裕を失わないことも重要です。「大人が幸せでいてください」というメッセージを強く心に刻んでいきましょう。


◆取材・文/みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。

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