学校に行けない子どもは、社会にも出ていけない?…そんな親自身の不安に、どう対処するべきか

2024/01/26

5カ月前から不登校になった息子がいる相談者のさやかさん。「無理にでも登校させるべき」と言ってきかない実母への対応に悩んでいます。

不登校の問題に詳しい蓑田雅之さんは「お母さんにわかってもらおうと頑張らず、適度に距離を置くようにしてみては」とアドバイス。今回は、不登校が増えた理由や、不登校になった子どもの進路、夫と対立したときの解決策も蓑田さんに伺いました。

自由が尊重される世の中になって、学校教育も発展の途上。不登校はその流れで出てきたこと

編集部:そもそも、不登校が増えている理由にはどんなことがありますか?

蓑田:一概には言えませんが、一つにはコロナ禍の影響があると思います。休校になって、学校に行かなくてもオンラインで授業を受けられる時期がありました。それから不登校について取り上げるメディアや、情報を集める保護者が増えて、「無理に学校に行かないでいい」というメッセージが家庭にも届いています。学校の対応も前より柔軟になってきましたね。そういったさまざまな要因で不登校が増えているのでしょう。

編集部:なるほど。原因は一つではないのですね。

蓑田:はい。こういった情報がさらに広まれば、不登校はもっと増えるかもしれません。

編集部:昨年度の国の調査で不登校児が約30万人と、急増していることがニュースになりました。

蓑田:そうですね。昭和のころは学校がもっと怖かったから、子どもはいやでもそこから外れられなかったですよね。

編集部:確かに。アラフィフの私が子どもころは、不登校の子はほとんどいませんでした。

蓑田:そうでしょう。ところが今は社会が多様化して自由が尊重されるようになってきました。すると「学校も無理して行かなくてもいいんじゃないか」と思う人は自然と増えてきます。

編集部:そうですね。

蓑田:昭和の時代に不登校が少なかったのは、学校から逃れられない雰囲気があったことも大きいと思います。そう考えると、不登校が増えたのは必ずしも悪いことではなく、悲観しなくてもいいのかなとも思うんです。

子どもの自由にさせて学校にも行けないと、将来社会にも出られない?

編集部:「学校に行けなかったら、社会にも出られないのでは」と考えて不安になる保護者は多いと思うのですが・・・。

蓑田:そんなに心配しなくていいと思いますよ。中学を卒業する年齢になるとバイトを始める子が結構いますから。

さやか:へえ~。

蓑田:3時間働いて3000円くらい稼げば何か買えるし、「自分が認められた」という感覚がすごくあります。バイトをきっかけに社会に出ていくケースも多いです。

さやか:そうなってほしいですね。

蓑田:ただ、子どもがいつ動き出すかはその子次第。なので、長い目でお子さんを見ていればきっと大丈夫です。

さやか:わかりました。

親が子どもの気持ちを受け止めて見守れば、子どもが自分から動き出す日が来ます

蓑田:子どもが学校に行けなくても、自分のしたいことをやって、心理的安全性、つまり「今のままでいいよ」と周りに受け止めてもらえる環境があれば、子どものほうから何かしようと動き始めます。子どもは元々エネルギーの塊なので「高校に行かないとまずいかな」とか、自分から考えるようになるんですね。

さやか:なるほど。

蓑田:そうしたら、どんな選択肢があるのか、親も一緒に調べたりしてサポートする。通信制の高校もあるし、フリースクールで学んでもいいし、いろんな方法があります。でもそれは子どもが元気であることが絶対の条件。今そのエネルギーを奪ったら、この先が本当に大変です。

「絶対に学校に行きなさい」という夫と対立したら、どうすればいい?

蓑田:ところで旦那さんは息子さんの不登校にどう対応していますか?

さやか:「好きにしたらいいのでは」と言っています。

蓑田:それは良かったです。夫が「絶対学校に通え」と言うご家庭が多いので。

編集部:さやかさんの場合は実母がこだわっていましたが、夫の場合でも対応は同じですか?

蓑田:夫は子どもと一緒に暮らしていて、しかもその影響力がダイレクトに及ぶため、もっと深刻で対応も難しいです。

編集部:わが子のこととなれば、お互い真剣になりますね。

蓑田:はい。話しても全く理解してくれず口論になるケースも多いですし、離婚話まで出る夫婦もいます。すると子どもが「父母の仲が悪いのは自分のせいだ」と罪悪感をもったりして、状況がますます悪くなることも。夫婦だけで解決するのはなかなか難しいですね。

「不登校の専門家の話を一緒に聞きに行こう」と誘ってみよう

編集部:そんなときはどうしたらいいでしょうか?

蓑田:「あなたの対応は間違ってる」と否定するとバチバチのバトルが始まるので、「相手には相手の考えがある」ということをまず認める。そして「実は私もどうしていいかわからない。だから不登校対応の専門家の講演を一緒に聞きに行ってみない?その上であなたの考えを私に伝えて欲しいんだけど」と言ってみてはどうでしょうか。

編集部:専門家の力を借りるんですね!

蓑田:はい。大学教授や臨床心理士などに「不登校になるとこういうメカニズムで子どものエネルギーがなくなっていく」と理詰めで説明されると、「そうなのか」と納得して変わるケースも結構ありますね。

「この子はどんなオリジナルな生き方していくのかな?」と楽しみに見守ろう

蓑田:親が信じてあげれば子どもって結構強いですし、さやかさんがこのまま見守れば、息子さんもいい方向に進むと思います。

さやか:そう言っていただけると心強いです。

蓑田:お母さんであるさやかさんが元気でいることも大切です。そのためにも、実母の考えを変えようとせず、ご自分の精神状態を守るよう心がけていただけたら。

さやか:わかりました。息子はもうすぐ中3で進路が心配でしたが、蓑田先生に「心に余裕ができると、子どもの中からしたいことが出てくる」と教えていただいて不安が和らぎました。通信制高校へ行きたいとかバイトしてみたいとか、そういう言葉がいつか出てくるのを焦らずに待とうと思います。

蓑田:「この子はどうなっていくのかな。普通とは違うオリジナルな生き方していくんだろうな」と楽しみにしているといいかなと思います。

さやか:ありがとうございます。


蓑田さんのアドバイスで不登校の息子の進路について何となく道筋が見え、余裕が生まれた様子のさやかさん。不登校に対する考え方が違う実母との関係は改善するでしょうか?次回、1カ月後のさやかさんの報告をお届けします。

イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部

 
 

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