息子の不登校を「見てるだけ」だった夫が、変わった。夫が変わると、家族も変わる?
2024/01/26
中2の息子が不登校になったさやかさん。実母から「無理にでも学校に行かせるべき」とたびたび言われて悩んだり、息子の進路も気がかりでした。不登校の問題に詳しい蓑田雅之さんに相談して1カ月が過ぎたころ、家庭で意外な変化があったようです。
息子を買い物に誘ったりして、夫が積極的に関わってくれるようになりました
編集部:さやかさん、お久しぶりです。お母さまとの関係や息子さんの様子など、その後いかがでしょうか。
さやか:母との関係は前より落ち着いています。というか、母が体調を崩して、前ほど息子に目が向かなくなったようです。心配はしてるけど、今は自分のことで精一杯みたいで。
蓑田:そうでしたか。お母さま、早く回復されるといいですね。
編集部:元気になられたら、趣味など関心を持てることを見つけてもらえたらいいかもしれないですね。
蓑田:そうそう。不登校のことばかり考えると追いつめられるし、親も周りの人も自分のことに関心を向けたほうがいいですよ。
編集部:ほかに変わったことはありますか?
さやか:夫が息子に積極的に関わってくれるようになりました。今まではちょっとあきらめてたというか、4年ほど単身赴任をしていて1年前に戻ってきたのですが、コロナ禍で赴任中はあまり会えなかったこともあり、息子との距離を測りかねている様子だったんです。
蓑田:何か変わるきっかけがあったんですか?
さやか:夫が息子にあまりに関わらないので「どう思ってるの?」って聞いてみたんです。それでお互いに思っていることをぶつけ合って。
編集部:どんな話をしましたか?
さやか:「息子が行っているフリースクールはどんなところなのか」「家庭以外の関わりがあるのはいいけど、中学を卒業した後はどうするのか」「このまま大人になって働いていけるか」と言ってました。いろいろ気になってるけど、どうしていいかわからなかったみたいです。
編集部:さやかさんはどう答えたんですか?
さやか:将来どうなるかはわからないけど、そう思っているのなら、子どもが考えるようにし向けたり、どこか行こうって誘ったりしてみたら、と。それで夫はコミュニケーションを取り出して、息子を買い物に誘ったりしています。
蓑田:息子さんの反応は?
さやか:誘われたら一緒に出かけています。戸惑いもあるみたいで、「急にどうした?」って私に言ってました。「別に外なんか行きたくなかったのに」とブツブツ言いに来たり。ちょっとギクシャクしてますね。
蓑田:ご主人は「学校に行け」とは言わないんですよね。
さやか:はい。無理やり行かせるのは良くないと夫もわかっているのですが、今のままでいいのかなって思ってるようです。外との関わりもなるべく持つようにしたほうがいいんじゃないかと。
蓑田:それで外に連れ出そうとしているのかな。
さやか:そうですね。朝起きないで寝てるのも気になるようで、「とりあえず生活リズムをちゃんとして」と言って、夫が起こしています。私が起こすと二度寝しちゃうけど、夫が言うと何となく怖いから起きてきて、助かってます(笑)。
蓑田:とてもいいですね。親子のコミュニケーションがとれているっていうのがすごく大切。そこが断絶すると、子どもが孤立無援になってしまいますから。親子で出かけたり、テレビを見たり、雑談したりというのが意外と大事です。
さやか:夫の態度が変わったことで、私も気が楽になりました。
蓑田:生活リズムも規則正しいほうがいいと大人は思うけど、そんなに厳しくしなくてもよくて、元気なってきたら自分で考えて行動するようになりますから。
編集部:すると、お父さんと息子が多少ギクシャクしているのは、さほど問題ではない?
蓑田:はい、そう思いますよ。
親との関係がこじれると、子どもは自分のことや将来に意識が向かなくなります
蓑田:不登校になった場合は、自分から何かを始めたいって思うことが一番大切なんです。人がそうさせるって難しいじゃないですか。
さやか:はい。
蓑田:親が子どもにあれこれ言うと、子どもが反発したり悩んだりして、親に意識が向くのも問題で。自分に意識が向くのを邪魔してしまうんです。
編集部:子どもが自分のことや将来に目を向けるためにも、親子は対立しないでいたほうがいいのですね。
蓑田:そう、実はそこが意外と大切です。親が構いすぎると、かえって子どもの芽が育たない。植物を育てるように、水だけあげてあとは待つみたいな状態がよくて。そうすると自然と芽が出ることが多いんですね。
さやか:なるほど。わかりました。
「人より何年か遅れても、社会に出ればいいや」とゆったり構えて、子どもにまかせよう
蓑田:中学を卒業後、このままで将来働けるかというお話ですが、ご主人ももう少し長い目でお子さんを見てあげたほうがよくて。15歳で高校とか18歳で大学とかって区切ると、親も焦るし子どもも焦りますよね。
さやか:はい。
蓑田:それができなかったらもっと焦ります。だからもう時間的な区切りは外しちゃって「人より何年か遅れても、社会に出ればいいや」くらいの心のゆとりを持っていたほうが、子どもにプレッシャーがかからないので。
さやか:そうですね。
蓑田:ご心配はよくわかるし、不登校児の親の大半は同じような心配を抱えますが、これまでいろんなケースを見てきて、子どもにまかせて見守っていれば大丈夫なことがほとんどです。
さやか:夫にも話してみます。
編集部:子どもにまかせておけば自分で動き出すものだと言われると、ちょっとほっとします。
蓑田:でもね、そこを信じきれない親御さんが多いんですよ。会社員のかたは、学校に行って進学して就職という進路を歩んできた場合が多いので、それ以外の方法でどうやって社会に出るか、イメージがわきにくいんですよね。
編集部:そっか・・・。
蓑田:だから、学校に行かない不安を拭い去るのはなかなか難しい。一方で自営業やフリーランスのかたは、社会に出る武器は学歴だけじゃないことを実感として知っています。例えば、カフェをやっている人はおいしいコーヒーを入れられたら生きていけるとわかっている。だから「学校に行って就職する道もあるけど、そうじゃない道だっていくらでもあるよね」と、気持ちを切り換えやすいです。
編集部:そうだろうなってすごく想像がつきます。
蓑田:息子さんをあまり追い詰めない方がいいですよね。子どももいつまでも子どもじゃない。大人になっていきますから。
さやか:そうなんですよね。あまり関りすぎてもいけないし。でもまあ夫は仕事の帰りが遅いので、関わるといっても、朝と土日ぐらいですから。
蓑田:さおりさんのケースは大丈夫だと思いますよ。
編集部:ご夫婦でお互いの気持ちを話し合って、ご主人が行動を起こしたのも素晴らしいなって思います。
さやか:ありがとうございます。夫が一歩踏み出してくれたので、少し前進したかなと思います。息子と夫の関係も少しずつでもよくなっていくといいなと思っています。
蓑田:応援していますよ。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部