学校に行けなくなった息子。登校した日は食事もできないほど。母からは「学校には行かせるべき」と責められますが…。
2024/01/25
不登校になった中学生の息子に寄り添う相談者のさやかさん。悩みの種は「学校には何としても行かせるべき」と考える実母のこと。あれこれ口出しされてケンカになることもあり、実母とギクシャクしているのが心苦しいそう。不登校の問題に詳しい蓑田雅之さんがアドバイスします。
【相談者】
さやかさん〈仮名〉
43歳
夫(44歳)、長男(14歳)、長女(12歳)の4人暮らし。三重県在住。薬剤師としてパートで働いています。実母(69歳)は車で40分の距離に住んでいて、よく訪ねてくるそう。
【回答者】
不登校問題の保護者サポーター
蓑田雅之さん
コピーライター、「東京サドベリースクール」評議員。息子の不登校を機に教育分野の研究・発信を始め、全国の企業や幼稚園、NPOなどで講演を行っています。著書に『もう不登校で悩まない!おはなしワクチン』(びーんずネット)
登校した日はぐったり疲れて、おべんとうも食べていないしお風呂にも入りません
さやか:中2の息子が不登校になって5カ月がたちます。バスケ部に入っていましたがいろいろあったようで、くわしく聞こうとしても「先生に怒られるから部活に行きたくない。だから学校にも行けない」としか言わず、休むようになりました。
蓑田:なるほど。学校側の対応はどうですか?
さやか:担任の先生は「部活は部活、授業は授業と切り離してみては。部活は休んでもいいから学校は来なさい」と。それで登校したのですが、朝もなかなか起きられないし、お弁当もほとんど残して帰ってきて。疲れた様子でお風呂も入らず、1週間ほどで行けなくなりました。
蓑田:息子さん、つらかったんでしょうね。
さやか:はい。先生が様子を見に来てくれましたが「学校に来なさいって言われるから会いたくない」と。先生に紹介された別室登校や市営のフリースペースもダメで、今は民間のフリースクールに週2回通っています。
蓑田:どんなスクールですか?
さやか:中学校を定年退職した先生が運営していて、2時間ほど勉強を見てくれます。家から少し遠いけど、私は仕事があるので送れません。でも息子が「そこなら行く」と言って自転車で通っています。
蓑田:さやかさんはどんな心境ですか?
さやか:一時は途方にくれましたが、スクールの先生に相談に乗っていただいて落ち着きました。先生のお子さんも不登校を経験したそうで、息子にも「無理して学校に行かなくていいのよ」と声をかけてくれます。
蓑田:不登校の子どもの居場所づくりをしている人はいろんなケースを見ていますから、経験的に「これで大丈夫」とわかるんでしょうね。
さやか:はい。学校に行かなくなったらお風呂にも入れるようになりました。私は息子が落ちついてストレスなく目標を持っているなら、それでいいと思っています。
無理に学校に行かせず子どもの自由にさせることが、一番の対処法です
蓑田:さやかさんの対応はとてもいいと思います。専門家の間でも、無理に登校させないことが不登校対応の常識になっていますから。まずは子どものしたいようにさせることが一番です。
編集部:なぜ子どものしたいようにさせることが大事なのですか?
蓑田:子どもが元気を取り戻すためです。子どもが学校に行けないときって、心がどうしようもなく疲れていたり、心が傷ついて血を流しているような緊急事態なんです。
編集部:さやかさんの息子さんも、食欲が落ちてお風呂にも入れないくらいでした。
蓑田:はい。でもやりたいことをしていると、少しずつ元気になってきて、やる気や向上心も芽生えてきます。その「元気玉」をいかに育てるかが重要。そのために親は子どもが安心して自由に過ごせる環境をつくることが不可欠です。
編集部:やりたいことがゲームや動画視聴でも、ですか?
蓑田:はい。大人はどうしても「ゲームばかりしてていいのか」と思ってしまいますね。でもそうじゃなくて、好きなことを思いっきりできる環境で「元気玉」が育ちます。そこから勉強や趣味などいろんな芽が出てくるんです。
編集部:疲弊した心を休めて、エネルギーを充電することが先決なのですね。
蓑田:そう。でも親は先に芽が出ることを望んでしまい、学校に行かせよう、勉強させよう、友達に会わせようと焦りがちです。
編集部:子どものために良かれと思って、真逆のアプローチをしてしまう……。
蓑田:親って、実は強い権力を持っています。親が子どもの気持ちを無視して「今のままじゃダメ。学校に行きなさい」と言いつのると、子どもはどんどんつらくなり、エネルギーをそがれてしまうんです。
編集部:その点、さやかさんは息子さんの意見に耳を傾けて見守っていますね。
さやか:そうですね。息子はピアノを弾いたりプラモデルを作ったりして1人でも楽しんでいるようです。最初は元気がなく口数も減っていたけど、最近は結構話すようになりました。
蓑田:それはよかった。親と話せるかどうかはすごく大事です。親との絆が切れると部屋に閉じこもるケースもありますから。でも息子さんは親とコミュニケーションを取れてフリースクールに通える元気もあるから、きっと心配ないでしょう。
さやか:ありがとうございます。
息子の不登校に全く理解のない母とケンカに。どうしたらうまくやっていけますか?
蓑田:では、悩みというのは?
さやか:もうすぐ70歳になる私の母に「学校には無理やりにでも行かせなさい」とたびたび言われることです。息子にも学校に行かない理由を聞いたりします。
蓑田:息子さんの反応は?
さやか:「同じことばかり言わんでもわかっとる」と返していました。以前は仲がよかったのに「しばらくおばあちゃんに会いたくない」と。それで最近「立ち入りすぎじゃない?」と母に言ってしまい、ケンカになりました。
蓑田:お母さんに「私は学校に行かなくてもいいと思ってる」と伝えてはいるんですよね。
さやか:はい。ただ全く理解しようとしてくれなくて。だけど母との関係が悪いままなのは心苦しいし、うまくやっていくにはどうしたらいいしょう?
他人の心を変えるのは難しいもの。「理解してもらえなくても大丈夫」と割り切るとラクになります
蓑田:周りの人に「無理にでも登校させたほうがいい」と言われて悩むケースは結構多いですよ。一番は夫ですが、祖父母も多いです。
さやか:私だけじゃないんですね。
蓑田:はい。だから安心してください。子どもに対してもそうですが、人の考えを変えさせるのは難しいことですよね。もちろんお母さんが理解してくれて関係も修復できれば最高だけど、70年近く生きてきた人の価値観というのはこげついた鍋のようなもので(笑)、簡単には消えません。「学校に行かなきゃまともな大人になれない」と考えるお母さん世代の人が、不登校を受け入れるのは相当難しいと思うんですね。
さやか:確かに……。
蓑田:だから「お母さんに理解されなくても大丈夫」と割り切ることが、最初のステップかなと思います。なるべくこの話題には触れないようにするとか。
さやか:母は私に会うと必ず「学校行ってる?」から話を始めるんです。
蓑田:それにどう答えていますか?
さやか:「ぼちぼちね」とか……。
蓑田:うん、それはいい対応です。のらりくらりと聞き流して、話が長引かないようにする作戦ですね。
母と適度な距離を取りつつ、さりげなく情報を渡してみては?
蓑田:それともう一つ。今、精神科医などの研究報告で、嫌がる子どもを無理に登校させると状況が悪化することがわかってきています。うつ病のようになって気力がなくなり、最終的には大人のひきこもりにまで発展するケースが多いんですよ。
さやか:そうなんですか……。
蓑田:それを一つの情報として、お母さんに知って欲しいなと思います。孫に圧力をかけるようなことを言ってしまわないためにも。お母さんに「登校を無理強いするのは逆効果」という情報を伝えたことはありますか?
さやか:はい。でもその理由までは伝えてなくて。その前に言い合いになるから話す余裕がないんです。
蓑田:そういうときは無理して話さなくてもいいと思いますよ。不登校の本がたくさんあるので「これ読んでみて」と帰り際にそっと渡すのがいいのかな。
さやか:そっか、そういう方法もあるんですね。
蓑田:文部科学省は「学校に疲れたら休んでいいよ」とか「学校以外の場所で学んでもOK」という指針を出していますから、そういった情報を見せてもいいでしょう。
さやか:わかりました。蓑田先生に「人の心は簡単に変えられない」と言われて納得しました。まず不登校の話題に触れないようにしながら、母とよい関係を築きたいです。それから様子をみて、無理に登校させないほうがいい理由を説明したり、本を渡してみようと思います。
不登校に関する 文部科学省のサイト
学校に行かない子どもにも、不登校に理解のない周りの人に対しても、「自分の考えを押しつけない」「相手の考えを無理に変えようとしない」というアプローチが大事という点は同じなのですね。
次回は、子どもの不登校に悩む親から多く挙がる疑問や悩みを取り上げます。
イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部