棚橋弘至さん「万人が楽しめるプロレスを目指して断捨離したら、人気がV字回復」
2021/12/25
やましたひでこ先生のご自宅(本物っ)に断捨離しているゲストをお迎え。今回のお客様は、世界最高峰の人気を誇るプロレス団体「新日本プロレス」の看板レスラー・棚橋弘至さん! 賢くて、働き者で、スポーツ選手。ひでこ先生の好みのど真ん中の棚橋選手との断捨離トークは、まさに「神回」というべき盛り上がりでした。
棚橋弘至:
プロレスラー。1976年、岐阜県生まれ。立命館大学卒業後、99年に新日本プロレスに入門し、同年10月にデビュー。パワフルかつ華やかなファイトで一躍、団体のエースに。団体最高峰のベルト、IWGPヘビー級王座にも何度も君臨。家庭的な面でも知られ、2016年には「ベスト・ファーザー賞」に選出
やましたひでこ:
断捨離®提唱者。1954年、東京生まれ。子育てや介護を経験した後、ヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」から着想を得た「断捨離」理論を構築。BS 朝日『ウチ、〝断捨離〞しました!』(毎週月曜夜8時)にレギュラー出演中。著書に『モノ・人・心の悩みが消えていく 断捨離道場』(講談社)など。
プロレスに対する世間のマイナスなイメージを断捨離
【ひでこ】棚橋選手の試合を拝見したらコスチュームも動きも華やかで、大きな体からダイナミックな飛び技まで披露していてビックリ! 「100年に一人の逸材」というキャッチフレーズにも納得です。昔のプロレスのイメージと全然違うのね。
【棚橋】ひでこ先生、それ最高の褒め言葉です! 僕は、現在進行形のプロレスの魅力を1人でも多くの人に知ってもらうために「プロレス界への入り口」になれたらと思っています。派手なルックスで明るくカッコよく振る舞うことで、プロレス=「怖い」という昔のイメージを払拭したくて。
【ひでこ】プロレスに対する世間のマイナスなイメージを断捨離したい、と。
【棚橋】はい。「怖い」「痛そう」、それと「男性の趣味」という固定観念を断捨離したい。万人が楽しめるエンターテインメントにしたいと思いながら活動してきました。例えば、メキシコではプロレスは国民的な娯楽で、家の近くの会場にふらっとプロレス観戦に行くのが日常茶飯事。観客席の最前列では近所のおじいちゃんやおばあちゃんもエキサイトしていたりするんですよ。ここ日本でもそんなふうに、プロレスがみんなにとってもっと身近な存在になったらいいなあって。
【ひでこ】棚橋選手の努力の甲斐あって、近年は女性の間でプロレスがブームですよね。
【棚橋】実際に僕たちのプロレスを見てもらえれば絶対に楽しんでもらえる自信はあるので、僕の役割は、プロレスを知らない人にも興味を持ってもらうこと。華やかでカッコいい姿でテレビや雑誌に出て「この素敵な人はだれ?」「え、プロレスラーなの!?」と意外性を与えて関心をひくことも大事だと思ってます。
プロレス技の種類をあえて引き算したらワンランク成長できた
【棚橋】ただ、昔からのプロレスファンには「プロレスはこうあるべき」という固定観念を持っているかたも多くて、最初は僕へのブーイングがひどかったです。「チャラチャラするな」って。僕のスタイルは、新日本プロレスリングのファンからは4年間くらい受け容れてもらえなかったですね。
【ひでこ】世間だけでなく、ファンの固定観念も壊す必要があったということ? 4年間は長いわね。
【棚橋】夜な夜な泣いてました……というのは冗談で(笑)、「なんで俺のよさがわからないんだろう?」と不思議でした。でも肯定的な意見も否定的な意見も、自分がプロとして勝ち取った反応という点では同じ。ブーイングするのは僕に関心がある証拠。ノーダメージでしたね。
【ひでこ】私も断捨離を提唱し始めた当初は自分の考えがなかなか伝わらなくて、もどかしかったわ。引き算することが大切なのに、みんな足すことばかり考える。「時代がまだ私に追いついていないのね」と思ってた(笑)。
【棚橋】わ、僕もひでこ先生と一緒です! 引き算といえば、デビューして5、6年が過ぎたころ、自分がやるプロレス技の種類を一気に減らしたことがありました。あれもこれもと増やすのをやめて、あえて引き算したんです。
【ひでこ】それはどうして?
【棚橋】レスラーにとっては勝ち負けもだけど、なによりお客さんに盛り上がってもらうことが大事。試合を盛り上げるには、自分が一方的に技を連発するよりも、対戦相手のすごい技を引き出したほうが効果的だと気づいたんです。自分以外にも魅力的な選手はたくさんいるんだから、そういう相手の技を受けて受けて受けまくって、最後に逆転勝利すればおいしいかなって(笑)。その結果、レスラーとして1段ステップアップできた。デビュー10年目にはプロレス大賞のMVPもいただきました。
【ひでこ】「技は多ければ多いほうがいい」というご自身の思い込みを断捨離した結果、成長できたんですね。断捨離ってそもそもは、片づけ術ではなく、心へのアプローチ法なんです。つまり、不要な思い込みを捨てること。棚橋選手はこれまでずっと、世間、プロレスファン、そしてご自身の思い込みを断捨離してきた。常に「今」と向き合い、ベストなやり方を選び抜いてきたからこそ、プロレス界のエースになれたのではないかしら。
ネガティブマインドを断捨離するための「おまじない」とは?
【棚橋】言われてみると確かに、断捨離が身についているのかも。僕、「ネガティブマインドの断捨離」も得意なんですよ。
【ひでこ】まぁ、それは素晴らしいわね。
【棚橋】先程「レスラーにとってはお客さんに盛り上がってもらうことが大事」と言いましたが、ときにはお客さんの盛り上がりがイマイチなこともあって、そんなときは「100年に一人の逸材」の僕でもやっぱり試合後に凹むんです。でも、その気持ちをクヨクヨ引きずると練習に身が入らなくなってしまうから、どうしたらいいかなって対策を考えて編み出したのが、とある「おまじない」。どんなおまじないかっていうと、ひでこ先生もきっとご経験があると思うのですが、子どものころ、トンボを捕まえようとして、トンボの目の前で指をくるくる回しましたよね。
【ひでこ】あるある、懐かしい!(笑)
【棚橋】あんな感じで、トンボじゃなくて自分の目に向かって指をくるくる回すんです。回しながら「忘れろ~」ってつぶやいて、最後にパチンと指を鳴らす。で、「ハイ、忘れた!」。正確には忘れるのではなく、悔しい気持ちをいったん胸の奥にしまう感じですね。
【ひでこ】なるほど! 気持ちを切り替えるためのおまじないというわけね。
【棚橋】はい。仕事から帰って、自宅の玄関のドアを開ける前にやることもあります。というのも、僕は家庭にネガティブなムードは持ち込まないと決めているので。ちゃんと自分でリセットしてから、「ただいま」と笑顔で帰ります。
【ひでこ】そういえば、棚橋選手は「ベスト・ファーザー賞」を受賞していらっしゃるんですよね。大人気のプロレスラーにして、よき夫、よき父でもある。あっぱれです!
ベーシックな服こそ、感謝の気持ちを込めて定期的に買い替えを
【棚橋】ありがとうございます! でもそんな僕も、服だけは断捨離できなくて。ファッションが大好きで、ベーシックなアイテムが多いからトレンドに関係なく何年も着続けられちゃう……。
【ひでこ】服って実は自分や他人の邪気を吸ってくれる物なの。だからベーシックであろうと買い換えなきゃ。
【棚橋】なるほど。でも、せっかく買った服を処分するのは気がひけるなぁ……。
【ひでこ】「100年に一人の逸材」が何を言う! 言葉に行動が伴っていないわよ(笑)。
【棚橋】うーん……大事な服は後輩に譲って、あとはお小遣いを増やしてもらうように奥さんに交渉します(笑)。
【ひでこ】その調子。質のいい服を毎年更新して、「逸材」らしい姿で今後もプロレス界を盛り上げないと!
【棚橋】実は3年前に「引きぎわかな」と思ったことがあるんです。業界を発展させるには、レスラーの新陳代謝も必要。上の人間がどかないと、下の人間が上がれないじゃないですか。ところがコロナ禍で、僕がせっかくV字回復させた業界がまた落ち込んでしまって。だから「このままじゃ終われない! もう一度回復させて、W字回復と言われよう!」って。今モチベーションがすごく高まってます。
【ひでこ】棚橋弘至というレスラーをいよいよ断捨離しようと思ったら、むしろレスラー魂に火がついた。プロレスの神様が許さなかったのかもね。
【棚橋】神様がそうするなら仕方ないか。そろそろ「断捨離」っていうプロレス技を開発しようかな?(笑)
参照:『サンキュ!』2021年7月号「断捨離トークひでこの部屋」より。掲載している情報は2021年5月現在のものです。
撮影/久富健太郎(SPUTNIK) 取材・文/志村香織 編集/サンキュ!編集部