障がいのある息子がクリエイターに。新しい価値を生むチャレンジドデザイナー 

2021/11/04

障がいのある人の多くは、社会福祉作業所などで「就労支援」という形で働くなど、大人になってからの居場所や働く場所が限定されているのが現状です。そんな中、障がい者の働き方の選択肢を広げようと、福祉とビジネスをかけあわせた新しい試みや会社が生まれてきています。

そのひとつが障がい者がプロのデザイナーと共創することで、「Challenged Designerチャレンジドデザイナー」となることを応援するクロス・カンパニー。自身も重度の障がいを持つ息子さんの父親で、同社のアドバイザーでもある加藤勝也さんは、「YouTuberが新しい職業として生まれたように、Challenged Designerを障がい者の新たな職業として確立したい」と語ります。Challenged Designerとは? そして、障がい者の新しい働き方とは? 障がい者を支える親として、また障がい者の可能性を切り開く一人として、加藤さんに伺いました。

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クロス・カンパニー 加藤勝也さん 航空業界に勤務。重度の知的障がいをともなう自閉症である息子をもつ

特別な絵の才能をもたない障がい者が多くいる現実

──Challenged Designは、障がい者とプロのデザイナーの「共創」いうことですが、どうしてそのようなスタイルを考案することになったのでしょうか。

ー加藤 障がい者といっても、その障がいの程度はさまざまです。世の中には、障がい者のアート作品というものが多くありますが、その多くが周囲とのコミュニケーションが取れる軽度の障がいを持つ人によるもので、その中でも絵の才能に秀でいてる方たちの作品です。もちろん、素晴らしい作品ばかりで感銘を受けています。

しかし、特別な絵の才能を持たず、他者とのコミュニケーションすらままならない重度の障がいを抱えている障がい者もたくさんいます。実際、私にも20歳になる重度障がい者の息子がいます。彼は自閉症と知的障がいを抱えており、会話はもちろん、言葉を発したり、文字を読んだり書いたりすることもできません。一般的な常識や社会性とは違う世界で生きていて、アートを描くという意味も理解できていないでしょう。

ただ、私の息子のようにコミュニケーションが難しい障がい者でも、プロのデザイナーが手を差し伸べることで、作品づくりに参加することができます。例えば、息子の場合は、ビー玉に絵の具をつけ、底に紙を敷いたバケツの中で転がすことで、ビー玉の軌道をアート作品として制作することができます。どんな色を使うとか、どれくらい転がすかなどは、デザイナーがプロの視点でアドバイスすることで、アートとして完成させる。それが我々のいう共創のイメージです。

これ以外にもさまざまな手法を使って、障がい者でもできる限られた表現の中で、デザイナーがサポートをしながら作品をつくるというワークショプを開催してきました。

これらのアート作品のいくつかは、企業とコラボレーションして商品化もしています。ペットボトルのラベルや商品パッケージ、ホテルの館内装飾のフラッグ、寄付型ラッピングデザイン自販機など、数々のプロジェクトに取り組んで来ました。

さらに、2021年12月1日〜20日には、羽田空港で「共創のデザイン展 Challenged Design Collecition」と題して、Challenged Designerの存在を広く知ってもらうイベントを開催します。

障がい者の自由な発想が、プロアーティストの心を揺さぶる

──障がい者、プロのデザイナーやシェフ、さらには企業がコラボレーションして、アート作品を世に送り出しているクロス・カンパニーですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

ー加藤 最初のきっかけは、私の仕事上の知人であったデザイナーで、クロス・カンパニーの創業メンバーでもある久世迅を誘って、息子の通うの特別支援学校の文化祭を訪れたことです。

展示されている生徒たちの美術作品を観た久世が、プロの視点から「思いもしない自由な発想があってすごくいい。こういう作品をもっと世の中に出していけるんじゃないか。僕もデザイナーとして一緒に関われたら面白いものになるのでは。」と提案してくれたんです。

そこで私の友人の松川好孝と久世、私の3人が中心となり、2017年にクロス・カンパニーを設立。ワークショップを開催したりしているうちに、少しずつ、企業からのも受注を受けるようになってきました。

障がい者やその家族に、もっと働きがいや希望を

チャレンジドデザイナーの名刺

──クロスカンパニーでは、アートを制作する障がい者の方を「Challenged Designer」と呼んでいます。この言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか。

ー加藤 18歳で特別支援学校を卒業して、企業に就職できるのは知的障がい者の場合は、ごく僅かです。多くは社会福祉施設などで利用者としてお世話になることがほとんどです。例えば、うちの息子の場合は、社会福祉施設で3色ボールペンを組み立てる作業をしていますが、工賃は1日200円、1ヵ月働いても4000円の収入にしかなりません。

もちろん、社会福祉施設は、障がい者にとって大切な居場所のひとつですし、施設の方々の懸命なサポートには頭の下がる思いで家族みないつも感謝しています。しかし、障がいを持つ子どもを支える親や周囲の人たちにとって、子どもの働き方の選択肢が限られるという現実に直面すると戸惑ってしまうというのが正直なところです。もっと障がい者自身が働きがいを感じられたり、サポートする親が我が子の新しい可能性や将来への希望を感じられるような道はないのだろうか。

そのひとつの答えが、プロのデザイナーと「共創」することでした。重度の障がい者であっても、プロフェッショナルのサポートがあることで、社会で商品として認められる作品にデザイナーの一人として参画できる。これは障がいを持つ本人はもちろん、親にとっても非常に誇らしく、勇気づけられることだと思っています。

今、クロス・カンパニーでは、息子を含めて3人の「Challenged Designer」がいます。今回、「共創のデザイン展」は、この3人のChallenged Designerのお披露目、正式なデビューでもあります。イベント開催に向けて実施しているクラウドファンディングでは、ポストカードやエコバック、Tシャツ、ひまわりの種袋などをリターン品として用意し、それぞれのChallenged Designerのブランドとして制作しました。報酬も支払うことにして、障がい者の新しい「働き方」の道を切り開いていくつもりです。


Challenged Designerというのは、私たちが生んだ造語ですが、挑戦するデザイナーという意味を込めています。今や子どもたちに大人気のYouTuberも、ほんの少し前に生まれた新しい職業ですよね。同じように、Challenged Designerという職業が、障がい者の職業の選択肢のひとつとして認知されるように育てて行きたいと思っています。今はまだ3人のChallenged Designerしかいませんが、ゆくゆくは新たな人材の採用も検討して、作風、画風のバリエーションを増やしていきたいと思っています。

■プロアーティスト×障がい者 チャレンジドデザイン展

共創のデザイン展イメージ
共創するアーティスト

──今回のイベントは、羽田空港で開催されます。あえて空港という場所を選んだ理由はあるんですか。

ー加藤 羽田空港のターミナル運営会社から「ダイバーシティという企業の社会的責任を果たす意味でもぜひ協力したい」と言ってもらい、今回のイベントが実現しました。

空港というのは、老若男女、幅広い人たちが行き交う場所で、多くの人たちに私たちの作品やその創作、つまり共創のプロセスを見てもらえます。もうひとつ、空港には「羽ばたく」というイメージがありますよね。Challenged Desinerとして新たな一歩を踏み出す3人、そして我々クロス・カンパニーにとっても未来に羽ばたくイベントとして、まさにぴったりな場所だと感じています。

今回の共創のデザイン展をきっかけに、ビジネスとしても本格的に軌道に乗せていくことが当面の目標です。それによって、障がい者の新しい働き方という未来の選択肢を広げていくことへとつなげていきたいですね。

【DATA】
共創のデザイン展 Challenged Design Collection
日程:2021年12月1日〜20日(予定)
場所:羽田空港第2ターミナル5F フライトデッキトーキョー
入場無料


返礼品の一部 共創デザインTシャツ
 
 

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