【教育系YouTuber 葉一さん】 教育を無料で届けたい!夢は東京ドームを借り切った「自習イベント」

2023/11/16

自宅で撮影した授業をYouTubeで配信して12年という教育系YouTuber 葉一(はいち)さん。教科書レベルの授業動画や、子どもに寄り添ったメッセージ動画などをこれまでに4000本以上投稿。そこに込められた思いをうかがいました。

1985年福岡県生まれの38歳。今は群馬県で妻と息子2人(小4・小1)と暮らす。東京学芸大(初等数学専修)を...

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●プロフィール
(はいち)1985年福岡県生まれの38歳。今は群馬県で妻と息子2人(小4・小1)と暮らす。東京学芸大(初等数学専修)を卒業後、教材販売会社の営業マンや塾講師を経て2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設(23年10月現在の登録者数は約195万人)。小・中・高校生向けの授業動画、勉強の仕方や子どもの悩みに答える動画など約4500本を配信。趣味はバスケットボールで、好きな映画は宮崎駿監督の「紅の豚」。

塾に来られない子の力になりたくて、教科書レベルの授業を動画にしたのが出発点

もともとは学校の先生を目指していた葉一さん。「先生になったら勉強だけではなく生徒の心や悩みに向き合いたかった。でも教育実習に行ってみたら、教員は忙し過ぎてそんな時間はとても持てそうにない。ならばいっそ教育の外の世界で自分を鍛え、いつか教育の現場に戻ってこようと営業マンになりました」。その後、塾講師に転身。このとき経済的な事情で塾に行きたくても通えない子が想像以上に多くいることに気づき「お金をもらわずに教えたい」という夢が生まれます。

「具体的なビジョンはなく、あるのは不安だけ。だけど30歳まではやれるだけやってみよう」と決め、27歳で退職。道を模索する中、「YouTubeなら子どもや親からお金をもらわずに、どこにいる誰にでも授業を届けられる!」とひらめき、貯金を削りながらYouTubeに授業動画を投稿し始めました。

2012年6月1日にYouTubeチャンネル開設。当時は広告収入を得る発想はなく、家庭教師をしながら「無料で授業」にこだわった
視聴者の多くは葉一さんの授業をスマホで視聴する。スマホで表示されたときもっとも見やすい板書を模索し、今のスタイルに行き着いた

始めた当初、YouTubeはまだ無法地帯「教育を汚すな」「偽善者」など風当りはきつかった

「授業の配信を始めた2012年は、まだYouTuberという言葉がなかった時代。宣伝ではない授業動画はYouTubeにほとんど上がっておらず、違法動画も多かった。YouTubeのコメント欄やDMなどで『教育をバカにしている』『授業動画なんて誰も求めていない。ただの自己満足、偽善だ』などとと叩かれて、悔しかったですね」。風向きが大きく変わったのはコロナ禍の20年秋にテレビのドキュメンタリー番組「情熱大陸」に出演したころ。「今は僕の動画を授業で使ってもらえたり、学校とのコラボで講演活動やイベントもできるようになりました」。

【DATA】不登校の子が増えるにつれて葉一さんのチャンネルを見に来る人が増えた

(不登校のデータ)「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(文部科学省)

コロナ禍による休校を境に不登校児が急増。同時期に葉一さんの動画チャンネル登録者数も1.5倍に。現在も視聴者は学校を休んでいる子が多く、コメント欄からは葉一さんの動画が学習面やメンタル面で寄りどころとなっている様子がうかがえる。

葉一さんの動画のラインナップ(23年10月現在4473本)

・小学生向けの授業 算数
・中学生向けの授業 国語、数学、理科、社会、英語
・高校生向けの授業 数学Ⅰ・A、Ⅱ・BとⅢ
・定期テスト対策
・高校受験対策
・勉強法や長期休暇の過ごし方、おすすめ文具 など
・メッセージ動画(いじめ、9月1日がつらい など)
・作業用動画
・コラボ動画(はじめしゃちょー、伊沢拓司 など)
・雑談動画

勉強は身近で、頑張った結果を出しやすい。「やったらできた」という経験は、子どもの大きな力になる

「教科書レベルの勉強は、スポーツや芸術より才能などの影響を受けず、努力が結果として出やすい。つまり、成功体験を経験しやすいです。『できなかったことができるようになった。頑張れば自分も変われるかもしれない』……自己肯定感が安定しにくい学生時代だからこそ、そんな風に感じてほしいと思っています。だから教科書レベルの授業動画をメインで撮ってきました」。

書体・文字の色やサイズ・線の引き方。子どものモチベを上げる板書を突き詰めた

「お手本は高校時代の恩師・松崎先生の板書。とてもきれいでポイントがわかりやすく、数学をさらに楽しいと感じるようになりました。塾講師の経験からも考え抜かれた美しい板書は子どものやる気を引き出すと実感し、授業動画も板書を大切にしています」。男子にも女子にも親しみやすい書体、罫線は定規で引かず15cm間隔で点を打ってからフリーハンドで引くなど、きれいさ・見やすさに加えて人間味も伝わるよう全力を注いで書く。

定規を使い、文字のグリッドを揃えるのも葉一さんのこだわり。1枚の板書を書くのに、長いものだと2時間近くかける

今つらい子に寄り添いたいのは、中学時代に経験したいじめが原点

「障害のある妹を見守るため土日の部活を休んだらサボりだと誤解されたりしていじめにあい、つらくて毎日死にたいと思っていました。その経験から学生の自殺者が1年で最も多い9月1日を前にメッセージ動画を毎年配信しています。伝え方が難しくて誰かを傷つけてないか?と動画を撮影するのも投稿ボタンを押すのもめちゃくちゃ緊張。でも、『君に生きてほしい』と思っている人間がここにいるよ、と伝えたい一心で続けています」。

目標は書いて、人に伝える。最大の夢は、東京ドームに机を並べてみんなで自習するイベント

「目標は文字にしよう。言葉にして人に伝えよう」と子どもたちに伝え、自分も実践中。「あの巨大な東京ドームに子どもたちが集まって自習したら一生の思い出になると思う。その子が親になったら『ママが子どものとき東京ドームで自習したのよ』って自慢したりして(笑)。勉強にポジティブな思い出があるっていいなと思います」。

葉一さんの名刺の裏には、「今の夢」が印刷されている。『この場所から』は、葉一さんが子どもたちを想ってつくった卒業ソング
「葉一」という名は、本名に含まれる「一」に、四つ葉のクローバーを連想させる「葉」を組み合わせたもの。「子どもたちに幸運がもたらされますように、という思いを込めた名前です」と葉一さん。ペンケースにも四つ葉のクローバー

参照:『サンキュ!』2023年12月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2023年10月現在のものです。撮影/久富健太郎 取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部

 
 

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