「私はグルメではない」世界の台所探検家、岡根谷実里さんが伝えたいこと

2023/06/16

世界の家庭の台所を探検し、日々のごはんを一緒につくる岡根谷さん。命は永遠じゃないから、今、心が動くことをすると決めています。台所には、日常の食から社会を見る面白さなど、生きるすべてが詰まっている!

1989年長野県生まれ。東京大学大学院修了後、クックパッド株式会社に7年間勤務しフリーに。今は執筆・講演・研...

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History

2008年(18歳)大学進学のために上京。土木工学を専攻し、国際協力の道を志す。在学中にケニアに留学し、ホームステイ先で家族と食卓を囲むうち「料理の力」に目覚める
2014年(24歳)クックパッドに新卒入社し、サービス開発やコーポレートブランディングにかかわる
2017年(27歳)夏休みや年末年始の休暇を使い「台所探検」を始める
2020年(30歳)初めての本「世界の台所探検」(青幻舎)を出す
2021年(31歳)クックパッドを退社し、フリーに/新型コロナ感染拡大により海外渡航が出来なくなり、日本各地に暮らす外国人を訪れ一緒に料理をつくる/小・中・高校などでの出張授業や講演、イベントの依頼が増える

「世界の食卓から社会が見える」 大和書房

イスラエル、中国、ボツワナほか、世界の家庭の台所で料理を教わることで見えてきた社会の疑問を解き明かす。

世界の家庭の台所で、日々のごはんを一緒につくる。そこから見えた発見を多くの人に伝えたい

アフリカのボツワナで路上料理屋をする姉妹に弟子入り

今、心が動くことをやりたい。だって、命は永遠ではないから

幼少期から「知りたい!」という気持ちが人一倍強かったという岡根谷さん。学生時代に土木工学を専攻したのは「途上国のインフラを整備することで、人を幸せにできると思ったから」。でもインターンで滞在したケニアで目の当たりにしたのは逆の現実。「村に道路が通ることになっても村の人は喜ぶどころか、むしろ町が破壊されると怒っていました」。そんなときでもみんなが笑顔になったのが夕飯の時間。「ごはんを食べる幸せは人類共通。料理ってすごい、料理の力って偉大だと思いました」。就職してからは年に数回休みをとり、「世界の台所を知りたい」と、世界中の"台所で料理をする人"に会いに行く旅を始めます。21年には退社し、台所探検を本格的に始動。「お金のあては今もないんですけど(苦笑)、いいんです。命は永遠じゃないから、今、心が動くことをすると決めています」。

日常の食から社会を見る面白さ 台所には、生きるすべてが詰まってる

「私はグルメではないし、料理がすごく得意なわけでもないです」という岡根谷さんの台所探検とは、「あなたと料理を作らせて」と世界中のいろんな台所で一緒にごはんを作ること。そこには生活のリアルがあり、日々のごはんから社会のあり方やその土地の価値観、人同士のかかわりまで見えてくるといいます。「私の本や文章を読んでくれた人の心に気づきが積み重なって、物の見方や考え方が広がるきっかけになれたらうれしいですね」。

日本は「食事への要求水準」が高い だから作るひとたちが苦しくなってる

タイ北部の少数民族アカ族の家の台所

「今まで70ほどの国や地域に行きましたが、食事の型や食事時間が決まっていない家がたくさんありました。一方日本は『食事時間も内容もちゃんとしなきゃ』っていうプレッシャーが強い。それで、多くの家庭でごはんづくりを担っているひとたちにしわ寄せがいっていると思います」。

世界のごはんはけっこう「ゆるい」!?

インドネシア

【日本では】「1日3食 しっかりとらないと」

【世界では】「回数や時間に決まりはなく、食べたくなければ抜いてもいい」
インドネシアのある家庭では、朝、お母さんがその日1日のごはんをまとめて作って戸棚の中に。家族はそれぞれ食べたいときに、食べたい人が、食べたい物を食べる。時間も内容も食べる人次第。

ヨルダン

【日本では】「今日の献立何にしよう……」

【世界では】「献立」の概念すらない国が多い『1品あれば十分でしょ?』
深緑一色。チキンの出汁ににんにくが効いたモロヘイヤのスープは、ヨルダン定番の家庭料理。1品ド~ンと大皿で出し、各自ごはんにかけて食べる。見た目は地味だけど愛されているのは本当においしいから。

フィンランド

【日本では】「疲れていても、家族に何かつくってあげないと……」

【世界では】「各自好きな物を食べる」で済ませる
写真は夕食。冷蔵庫や戸棚にある物を食卓に並べ、家族それぞれがパンやクラッカーに乗せて食べる。並んでいるのはハムやチーズ(数種類)、炒り卵など。

食事をつくるって、道路をつくるのと同じくらい偉大

「料理って自分の手でしあわせを生み出せる偉大な手段。地味とか映えとかは関係なく、ただそこにごはんがありさえすれば「なんとかなる」と思わせてくれる。料理の力に目を向けるきっかけを、一人でも多くの人に届けられればと思っています」。

探検に欠かせないノートとスマホ。ノートには習ったレシピに加え、地理や気候のことなども細かくメモ。

台所探検の旅の必需品。料理を教わったお礼に、卵焼きなど日本の小さなおかずを作る。


<教えてくれた人>
〈世界の台所探検家〉 岡根谷実里さん
(おかねや みさと)1989年長野県生まれ。東京大学大学院修了後、クックパッド株式会社に7年間勤務しフリーに。今は執筆・講演・研究のほか、全国の小中高校などへの出張授業も行う。住まいはさまざまな国籍の人が暮らす都内のシェアハウス。好きな食べ物はおやき。

参照:『サンキュ!』2023年7月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2023年5月現在のものです。撮影/横田裕美子(スタジオバンバン) 取材・文/宇野津暢子 編集/サンキュ!編集部

 
 

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