“子持ち様論争”の解決には、さらなる働き方改革の推進が必要~連載『はじめよう!フェムテック』
2024/07/11
2021年10月から、ニッポン放送でスタートした番組『はじめよう!フェムテック』。ベネッセコーポレーションとかます東京の共同企画で、社会的なムーブメントになりつつある「フェムテック」を、さまざまな角度から取り上げています。パーソナリティーは、おなじみの伊久美亜紀さんと東島衣里アナウンサー。この連載では、毎週オンエアされた内容を、ギュッとまとめてお伝えします。
番組ではフェムテックに関する、あなたの職場や家庭などでの問題点やポジティブな試みなどを募集いたします。ニッポン放送『はじめよう!フェムテック』宛にメール(femtech@1242.com)でお送りください。
<パーソナリティー>
●伊久美亜紀 Aki Ikumi
ライフスタイル・プロデューサー、企業コンサルタント。大学卒業後、『レタスクラブ』編集部、ハースト婦人画報社を経て、1995年~2022年までは、ベネッセコーポレーション発行のメディア総編集長として『たまひよ』『サンキュ!』『いぬのきもち・ねこのきもち』など年間約100冊の雑誌・書籍・絵本の編集責任者を務め、2023年に独立。31歳の長女一人。
●東島衣里 Eri Higashijima
長崎県出身。大学卒業後、ニッポン放送に入社。現在は「中川家 ザ・ラジオショー」(金 13:00~15:30)、「サンドウィッチマン ザ・ラジオショーサタデー」(土 13:00~15:00)などの番組を担当。最近、女性の健康、そして幸せについて友人と語り合うことが多くなった33歳。
<ゲスト>
●大室正志さん Masashi Omuro
1978年、山梨県生まれ。大室産業医事務所代表。 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医、医療法人社団同友会産業医室を経て現職。メンタルヘルス対策、感染対策、生活習慣病対策など企業における健康リスク軽減にも従事する。現在、日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業など、30社以上の産業医を務める。
認知が広がりつつある「フェムテック」を推進して、女性だけでなく社会全体の幸せを目指したい!という意気込みでスタートしたこの番組。ゲストは、産業医の大室正志さんです。 「およそ1年ぶりのご登場となった大室さん。 社員ひとりひとりが、さまざまな思いを抱えながら働いていますが、不公平感が少ない会社とは、いったいどういう会社なのでしょう。詳しく伺います」(伊久美)
社員が働きやすさを感じる会社は、支援に対する明確なビジョンを打ち出している
■東島アナ「今回のゲストは、企業で働く社員の健康を支える産業医の大室正志さんです。産業医というお仕事柄、会社の仕組みや働き方にも精通されていますが、今回は、最近ニュースで取り上げられている“子持ち様論争”について伺いたいと思います。“子持ち様論争”というのは、小さな子どもをもつ親を、“子持ち様”と批判するような書き込みがSNS上で広がっていて議論を呼んでいることです。例えば、同僚が子どもの体調不良を理由に仕事を早退。その穴を埋めるために別の人が働くしかなく、“なぜあなたの子どものために多く働くしかないの”という批判が起きています。これは一例ですが、そういった論争の背景には、どのようなことがあるのでしょう」
■大室「日本は今、非常に未婚率も高くなっています。昔でしたら、子どもをもっている者同士、“お互いさま”という思いがあったのですが、そこに分断が起きているということです。ただ、“子持ち様”と呼んでいる人も、実は自分が老人になったら、だれかに支えていただかなくてはいけない。その時は自分の子ども世代の人にお世話になるので、全体の利益としてみると、子どもが増えることは、自分のためにもなるのです。とはいえ、“今、目の前にあるこの仕事をどうするの!” という問題がある。目の前の問題と、中長期的な問題、社会としての “あるべき” 論が、いろいろずれているような気がします」
■伊久美「お子さんがいらっしゃってもいらっしゃらなくても“、“お互いさま”という思いはあるはずですけれどね」
■大室「さらに、この“子持ち様”といういい方ですが、特に都心部などでは、子育てにお金がかかるので、“子どもを育てられるというだけで、少し贅沢である”というやゆも込められているのです」
■伊久美「“様”といういい方には、そういう感情も込められているのですね」
■東島アナ「ただ、感情だけで論じる危うさがありまして、実際にこうした問題をフォローする一方で、“子どものことは嫌いではないけれど、残業が増えた” “仕事が1.3倍になった”という声やデータがあり、それも事実です。そこにもきちんと目を向ける必要があり、このような意見はどのように思われますか」
■大室「皆さんご存じのように、子どもは、よく熱を出します。会社、社会、そして国が“少子化をなんとか食い止め、子どもを大事に育てたい”と思うのであれば、それは“子どもは熱を出す”ということを前提にした仕事の割り振りをしないといけない。例えば、外資系はジョブ型で、自分の仕事の範囲が決まっている。日本は“仕事をざくっとみんなでやろう”という感じで、自分の仕事の範囲が決まっていない。こうなると、1人欠けるとみんなが穴埋めしないといけなくなるので、不公平感が生まれます。今、日本は働き方改革ということで、国が緩やかなジョブ型へ移行しようとしていますが、今後いっそう進めていかなくてはならないポイントだと思います」
■伊久美「子どもが熱を出すことは、確かに当たり前ですよね。そのことを織り込み済みで仕事の配分を決められればよいのですが、なかなかうまくいかない」
■大室「人はロボットのようにいかないからです。ある有名な大病院で働くナースの友人がいるのですが、つい最近まで風邪で休むと、“すみません”ということで、休んだ翌日に菓子折りを持っていくという習慣があったそうです。それくらい、集団的同調圧力が強い」
■伊久美「それは、現代の話ですか!?」
■大室「現代です(笑)。そのくらい、穴を開けるということに対して、よくいえば責任感が強い組織、悪くいえば人間の当然の生理というものを計算に入れないということですね。ただし、処世術というのが別にありまして、“すみません”といっておいた方が、その場はうまくいくという現状もある。だから、あるべき論と処世術はずれることが多いので、あるべき論一本やりだけでも難しいところです」
■伊久美「“権利だもん~!”と、ツンとされてもね(笑)。なかなかうまくいかないものですよ」
■大室「多少申し訳なさそうにしていた方が、その場はうまくいく。ただ、みんなが申し訳なさそうにしていると、いつまでたっても休みを申し訳なくとるようになってしまうというジレンマがあるのです」
■伊久美「この研修が行われたら、すごく流行ると思います(笑)」
■東島アナ「今伺ったように、本当に一言では説明できず、休まれるかたも、カバーされるかたにも、それぞれに事情と悩みがあります。そんな中で、うまくいっている会社というのもあるのでしょうか」
■大室「うまくいっている会社は、会社のメッセージとして“子育てに対して支援しています”ということを看板に書いてあります。このことは非常に大事ですね。日本の大企業、外資系でも、“わが社は、子どもを大事に育てること、ワークライフバランスを常に大事にしています”と書いてある場合、もし仕事が1.3倍になったら、上司に相談します。上司は会社の看板に書いてあるので、これはいわば憲法ですから、“うちの会社は子育てを支援しているので、ここを大事にしなくてはならないけれど、実際に仕事量が多くて困っている人がいる。ではどうするか”ということで、価値観のすり合わせで問題を解決しやすい。もし看板に書いていなければ、結構きついです。ですから、“うちはこういう会社です”ということを明確にしておく方が、議論をする上でも憲法があった方がスムーズに回りますから、とても大事だと思います」
■伊久美「すごいヒント! 看板に書いてあることは憲法なのですものね。効果的だと思います」
■大室「憲法から逆算して考えるということです。うまく行っている会社というのは、子育てだけでなく、妊活をしている人、介護をしている人、いろいろなことに支援を打ち出しているので、必ずしも、子育ての話だけではない場合が多いです。昔、私が働いていたジョンソン・エンド・ジョンソンという会社は、どの国にも“わが信条”というのがあって、その“わが信条”を広めるクレドオフィスという部門があり、この価値観をみんなで統一化していました。そのくらい言って、初めて本気だと思われる。だから看板に申し訳程度に書いてあるだけではなく、本気度を示すことは必要だと思います」
■伊久美「これはちょっと、世の中の社長集めて、セミナーですね(笑)」
合言葉は「はじめよう!フェムテック!!!」
●次回も、産業医の大室正志さんをゲストにお迎えします。
【番組インフォメーション】 『はじめよう!フェムテック』は、毎週・土曜日15時50分~16時にオンエア。聴き逃しは『radiko』で(※首都圏にお住まいのかたは放送後1週間)お聴きになれます!
●記事まとめ/板倉由未子 Yumiko Itakura
トラベル&スパジャーナリスト。『25ans』などの編集者を経て独立。世界を巡り、各地に息づく心身の健康や癒やしをテーマとした旅企画を中心に、各メディアで構成&執筆。イタリア愛好家でもある。伊久美さんとは28年来の付き合い。https://www.yumikoitakura.com/
撮影/寿 友紀