幸せであるために働く、あるパパが実践した「働き方改革」

2019/10/22

働き方は生き方にも通じます。本来、人は幸せであるために働いているはずなのに、働きすぎで心身を壊すケースも後を絶ちません。父親になったことをきっかけに、より意識的に家庭中心の働きかたにシフトした、青木さん夫婦にお話をお聞きしました。
(取材・文/みらいハウス 片岡 綾)

◆教えてくれたのは・・・青木裕司(あおきゆうじ)さん
スペシャルティコーヒーの移動販売車「Caffe’ del CIELO」オーナー。38歳。4歳と2歳の女の子のパパ。2014年、キッチンカーでコーヒー販売を始め、現在は2台の車で営業する。CIELOとは、「青空の下で」の意味。出店情報はFacebookでなど発信中。

勤務時間を調整し、朝晩の家族のだんらんを大事にする

――今の働き方を選んだ経緯を教えてください。

青木裕司さん(以下、青木さん):20代前半の頃、ワーキングホリデーでカナダ・バンクーバーに滞在していた頃、毎日カフェに通っていました。「自分もいつかお店を持ちたい、その前にいろんな場所に行って、たくさんのお客さんに出会えるキッチンカーをやりたい」という思いがあり、コーヒーの移動販売に興味を持つようになったんです。

始めた当初は、売上ゼロの日とか、10杯しか売れないという日もありました。特に休みや時間を気にすることなく、出店できるのであれば何日間でも出店していましたね。その後、子どもが生まれてから時間の使い方を考えるようになりましたが、妻の負担を減らすためというよりは、単純に「子どもに会いたい、遊びたい」という気持ちのほうが強かったように思います。


――その頃、妻の美穂さんはどう感じていましたか?

美穂さん:長女を妊娠するまでは看護師をしていましたが、妊娠を機に退職したので、不安でたまりませんでした。子どもが生まれるのに何やっているの!と。大きな会社で働くこともできるのに、1人でどこまでできるのか想像もつかなかったです。でも、夫はすごくポジティブだから「大丈夫」って言われたら「大丈夫なんだろうな」と思うしかありませんでした(笑)。

お金は必要だけれど、家族といる時間が何よりも大事

父と母と娘が芝生でリラックスします。
※画像はイメージです
Hakase_/gettyimages

――仕事が軌道に乗り始めたなと思ったのはいつ頃ですか?

青木さん: 3年目くらいかな。でも、今も安定はしていないし、安定は求めなくなりました。収入の増減に対して不安はありません。そこは何とかできるのが自由業だからです。お金は大事だけれど、執着はしていない。この仕事で陥りがちなのが、お金を大事にしすぎて稼ぐためにもっと働かないといけなくなるパターンです。そうすると、体と精神が壊れていく。特に子どもが生まれてからは、仕事が続くと子どもと遊びたくなって、それがストレスになります。

生活するのに最低限のお金は必要だけれど、家族といる時間を何よりも大事にしたい。時間だけは過ぎてしまったらどうにもならないですからね。0歳から6歳という伸び盛りで何でも吸収していくこの時期を一緒に過ごすことは、お金に換えがたい時間です。2人の娘が小学校に入学して、友達と遊ぶようになったら働き方について変わってくるかもしれないですけれど。


――現在の勤務時間はどんな具合でしょうか。

青木さん:長女が幼稚園に行くようになってからは、土日のどちらかはできるだけ休めるようにして、週4日勤務。平日はできるだけ夕食や寝る時間を一緒に過ごせるようにスケジュールを調整しています。朝は長女を幼稚園のバスに乗せてから仕事に出かけて、帰宅は早ければ17時、遅くて20時頃です。子どもと、朝も夜も顔を合わせるのが理想ですね。

妻の実家で体験した家族の楽しいだんらん

――朝も夜も顔を合わせることが理想という理由は?

青木さん:食卓はにぎやかな方がおいしいし、楽しいからです。自分が子どもの頃、両親が共働きで、食事は用意されていたし姉はいたけれど、一人で食べることが多くて、「おいしい」という感覚をあまり感じることがありませんでした。家に帰っても誰もいないとか、そういう記憶ってずっと残るし、そんな思いを自分の子どもにはさせたくない、という気持ちが強いです。

それと、妻と付き合っている頃に、彼女の実家でご飯を食べる機会があって、家族のだんらんが楽しかったのも影響しています。だから、子どもが生まれる前から、妻と食事をする時間は楽しんできたし、大事にしてきました。お酒を飲みながら3時間くらい、とかね。

初めて見る子どものしぐさや表情を見逃すのがもったいない

親と子の手が白い花を渡す
※画像はイメージです
Hakase_/gettyimages

――働き方以外で、父親になって変わったことはありますか?

青木さん:正直に言って、子どもが生まれるまでは、かわいいと思うか分からなかったです。でも、生まれたら、初めて見るしぐさや表情を見逃すのがもったいないと感じました。


――お子さんたちと常に一緒にいることで感じることはありますか?

青木さん:子どもがなぜ泣いているのかとか、今、何をしてほしくてすねているか、ずっと一緒にいなかったら分からないサインが分かります。次女のつたないしゃべりも普段一緒にいるから理解できます。「アチエン!」って言われたら、「ああ、100円ね」とか。


――美穂さんは、裕司さんが早く帰宅することや一緒に子育てしていることに関してどう感じていますか?

美穂さん:娘たちを見てくれる大人なら誰でもいいというわけではなくて、パパだから、夫だから安心するし、こういう風に一緒に見てくれなかったら、我が子をかわいいって思う余裕もなかったと思います。同志っていうか、成長を共感したい相手は夫。1人だったら辛くて泣けるようなことも、2人でいれば笑いに変わったりもします。


――今の働き方を選んで良かったこと、大変なことは何でしょうか?

青木さん:良かったことは、家族といろんな時間を共有できることですね。幼稚園のイベントや旅行の調整がしやすいです。大変なことは、仕事を一人ですべてやらなければいけないという点。大型のイベントなどでは知人に手伝ってもらいますが、準備、片づけ、スケジュール管理や経理などの事務作業も一人でやっています。


――家族の将来像はありますか?

青木さん:海外では、ハロウィンやクリスマスは家族で過ごすじゃないですか。僕もちょうどクリスマスの時期にバンクーバーにいたことがありますが、外に誰もいなくて、店は閉まっているし、買い物に困るくらいでした。街で観光に来ている海外の家族を見かけると、いいなぁと思います。子どもが大きくなるにつれて一緒に出掛けることが少なくなりがちですが、家族そろって旅行したり、一緒に過ごしたりする時間を大事にしたいですね。


――美穂さんはいかがですか?

美穂さん:女の子だから大きくなったらママとランチしたりショッピングしたりになると思うけれど……我が家の場合はそこにパパもいるんだろうなと思います。今でも外出しても、2人がパパを選ぶから私は結構フリーです(笑)。これも、幼い頃からの積み重ねがあるからだろうなって思いますね。

◇◇◇◇

子どもが生まれたことで、家族との時間をより大事にしたいと考え、実践している青木さん。自身の幼少期の記憶を振り返りながら、家族が共に過ごす時間の大切さを教えてくれました。妻の美穂さんも夫が子どもに積極的に関わることで、子育ての「苦労」が「笑い」に変わる、と話しています。

出産を機に妻が働き方を変えざるを得ないことはありますが、青木さんご夫婦のように、夫が働き方を見つめ直すケースもあります。高い収入を得るために長時間働くのではなく、家族との時間を最優先にして働くことで、夫婦のきずなが強まり、暮らしに対する充足感が増すのかもしれない、と感じました。


◆取材・文/みらいハウス 片岡 綾
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。「食べるために生きる」をモットーとし、食関連の執筆を中心に、女性のエンパワメント活動などに取り組んでいます。1児の母。

構成:サンキュ!編集部

 
 

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