諏訪市

東京に住むことに「デメリット」を感じた夫婦が「移住」するためにやったこと

2020/06/06

東京23区内に住むNさんは、企業に勤めながら休日は地域のNPO活動にボランティアとして参加するなど、精力的に活動していましたが、ある日「私、移住することにしました」と宣言。

Nさんがなぜ移住を決めたのか、仕事はどうするのか、移住先を決めるまでどのように取り組んだのか、赤裸々に語ってもらいました。

(取材・文/みらいハウス 渡部郁子)

東京に住むことに「デメリット」を感じた

東京渋谷ライフ
CHUNYIP WONG/gettyimages

Nさんが移住をしたいと考え始めたきっかけ。それは子どもの存在でした。

「夫も私もどちらかというと、文化的なことへの関心が人一倍強くて、美術館や展示会などの場所に出かけたり様々な新しいことにチャレンジすることが好きでした。でも子どもができてから、夜に出歩く機会が減ったことがきっかけで、「東京」にそれまで感じていた魅力を感じなくなりました。

魅力がなくなったばかりか、さらにデメリットが目立つようになりました。子どもにとって空気が悪いことや、自転車の練習をする場所がないなど、些細なことばかりですが、小さな違和感を積み重ねるうちに、「もう少し自然の豊かな環境で子育てしたい」と感じるようになったんです。

ただし、自然の豊かな場所と言っても、自給自足で暮らすような田舎生活は私たち夫婦には難しいので、目指す移住先は地方都市。夫婦で移住について積極的に話すようになり、東京の多摩地区や神奈川の相模原あたり、今よりもう少しだけ自然豊かな場所への移住をイメージし始めました」

夫がリモートワーク可能になり「移住」に向けて動き出す

hoshisei/gettyimages

Nさんが移住を考えるより前から、Nさんの夫は住環境を変えたいと常々発言していたそうです。しかし、それまでの仕事では都内を離れることは難しい状況でした。

「1年半ぐらい前から、夫と移住について本格的に話をするようになりました。そのころは、夫も私も仕事の都合で東京を離れることができない状況でしたが、それからしばらくして、夫が転職活動を始めました。

約2カ月ほどの活動を経て、転職先はリモートで働ける職種に決まりました。2人で移住について話し始めてから半年ほどで夫の転職が決まったことになります。私自身、展開が早くて驚きました。これがきっかけとなり、私も本格的に移住を考えて動き始めました。

夫の決断にとても驚きましたが、ワクワクする気持ちのほうが大きかったです。夫がリモートで働けることになったので、私も移住先で働くことを見据えて、転職サイトで求人をチェックするなど、転職活動を開始しました」

移住先を決定!しかし、妻は仕事が見つからない

日本の松本駅周辺の風景
yosuke-n/gettyimages

いざ移住先を決めるとなったとき、Nさん夫婦が考慮したのは、お互いの実家との距離でした。

「実家に移住の話をすれば、それなら実家へ、という話も出てくると思いました。どちらかに近いと、あとでもめることもあるかもしれない。だから、夫の実家と私の実家のちょうど真ん中あたりへ移住することに決めました。そうして仮の移住先として、長野、静岡あたりに決め、そのあたりでまずは私の職種の求人を探し始めました。

夫が転職する少し前に、家族で長野県上田市に旅行に行きました。この旅行は移住先を意識したもので、上田の街並みを見ながら『こういうところに住みたいね』と話し、意見が一致しました。夫はその1カ月後に転職を完了するのですが、そのときから、移住先は長野県上田市あたりを意識していました」

実業家や大都市
AH86/gettyimages

本格的に転職活動を始めたNさん。すぐに見つかると思っていた転職先はなかなか見つからず、思った以上に難航したようです。

「私の職種は専門的な知識を必要とするので、今まで企業で働いてきた実績と経験があれば、全国どこへ行っても経験者として通用します。地方にも一定の求職がある業種なので、あとはその地域に、自分に見合う職種、役職の空きがあるかどうか。なので、専門のサイトに登録して、希望地域での求人をいくつか見つけて数か所に履歴書を送りました。

いくつかの企業で面接を受け、最終的に行きたい会社をしぼり、ほぼ決まった状態であとは最終面接を残すのみ、という状態までけっこうすぐに決まったのですが、その転職先の内部で何らかの問題があったことがあとから発覚し、結局こちらから辞退することになりました。

ほぼ決まったと思っていたのに、また一からやりなおし。4月を見据えて転職活動をしていたのですが、この時点で4月は無理かなと少し弱気になりました。4月の採用に向けた求人タイミングを逃すと、その後はぱったりと求人自体が少なくなります。

自分の職歴を活かした転職は難しいかもしれないと思い、この時点でほかの職種も視野に含めて、あらためて私に何ができるのかをよく考えました」

いままでのキャリアは一旦置いて選んだ「地域おこし協力隊」

転職活動が難航する中、次の大きなきっかけとなったのは友人の経験談でした。

「地域おこし協力隊として活動している友人に話を聞く機会があり、協力隊の活動に興味を持ちました。地域おこし協力隊とは、地域協力活動に従事する期間限定の制度です。

一度自分のキャリアを置いて、協力隊になって地域の中で自分ができることを深めていき、その後キャリアを再開することもできるのではないかと感じました。

それから、協力隊の求人も探し始め、自分の専門業種と協力隊の二本柱で転職活動を続けた結果、希望していた地域の地域おこし協力隊として採用していただくことが決まりました」

あえて実家から遠い場所を「移住先」に選んだ理由

山の風景シーン, 日本
Rudimencial/gettyimages

転職活動を終えてからは、住む家も決まり、あっという間に準備が進んだというNさん。移住を実行するまでの過程で、いちばん苦労した点についてお聞きしました。

「移住する場所を選ぶのがいちばん難しかったです。どちらかの実家の近くであれば、逆にほとんど選択肢はしぼられるわけですが、両実家から離れた場所となると、ある意味どこでもいいわけで、選択肢が無限に広がります。その状態で、まずは夫が月1回都内に通勤する必要があることから、都内に日帰りで行ける範囲にしぼりました。それから、両実家との距離のちょうど真ん中あたりで、最終的には私の仕事のある場所に移住先を決めました。」

Nさんが移住先で楽しみにしていることはどんなことでしょうか。

「子どもの普段の登下校の道筋に、川があって山が見えて、空気がおいしいことを感じられることが必要だと思っているので、それができることを期待しています。私自身も、空が広くて山が見える環境を今、とても楽しみにしています。

夫は転職してしばらくしてから、少し仕事に迷いを感じることもあるようです。私もこれから新しい職に、想像もつかないような試練があるかもしれません。なぜ移住先を双方の実家にしなかったのかというと、「だめだったら実家に」という最後の逃げ場として取っておきたかったからです。最後の逃げ場があることで、少し心に余裕があるのか、これからのことをそれほど不安に感じることはありません。」

◇◇◇
移住に興味を持つ人の中で、子どもの環境のために移住を考える人は全体の3割程度です。一般社団法人移住・交流推進機構の調査によると、移住に興味がある人の中で、子育てに適した自然環境を理由に挙げた人が33%、子どもの教育・知力・学力向上を理由に挙げた人が22%でした。

自然豊かな場所で子育てをしたいと考える地方移住と、子どもの教育のために都心部へ移住したいと考える人、いずれも子どもをきっかけに移住を考える人は多いようです。

移住したいと思っても、実行に移すのはなかなか勇気のいること。Nさんのこれからの活動を応援しつつ、Nさんの考え方や移住までの経緯がひとつの事例として、移住を目指している人の参考になればと思います。


◆取材・文/みらいハウス 渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む一児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。

構成:サンキュ!編集部

 
 

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