ワーキングマザーたちにとっての「働く」とは?コロナ禍で改めて考えた「私と仕事の関係」
2020/08/11
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、テレワークや在宅勤務といった働き方の変革が進み、緊急事態宣言の解除以降「新しい生活様式」が急ピッチで浸透していきました。同時に、新型コロナウイルスの感染拡大前には当たり前でなかったことが当たり前になるといった、価値観の変容が起きているという現状もあります。
コロナ禍は、ママたちの仕事観にどのような影響をもたらし、暮らしを変えていったのか。仕事をしながら子どもを育てる3人のワーキングマザーにインタビューを実施しました。
なお、本インタビューは2020年6月~7月にかけて、オンライン上で個別に実施したものです。
■取材・文/みらいハウス (取材:片岡綾・渡部郁子、構成:野呂知子)
ケース1:キャリア優先で仕事をしたいSさん
Sさんには、お子さんが通っている保育園から「休園にはなるが、一応預かりはできる」と告げられたので依頼したところ、「この状況で仕事に行くのですか?」などと言われ、断念したという苦い経験があります。
「それで仕方なく在宅勤務に切り替えたんですが、全然仕事に集中できないんです。3歳になる息子に『少し静かにして』『ちょっと待ってて』と言ってしまうことが増えて、もう自己嫌悪で……。まだ甘えたい年頃なので、息子からもっと構ってほしいというサインを出されるのは分かるんですが、母親としてきちんと対応できていないのかもってちょっと凹むんですよね。保育園で預かってもらえていた日常がホントにありがたかったけど、保育士さんの言葉には正直、少し傷つきました」
仕事が好きで、出産後も働きたいと考えていたSさんは、産後復帰してしばらく時短で働いていました。しかし、その状況に徐々に焦りを感じるようになっていったといいます。
「時短で働いていると重要な仕事を任せてもらえないし、ほかの人が対応するケースもあって、徐々に焦りが出てきて……。残業も可能な限り対応していたんですが、「時短なのに残業しないで」と言われることがあり、自由に仕事ができないもどかしさを感じていました。でも私はとにかく仕事がしたいんです。だから今は時短ではなく、フルタイムで仕事しています」
2020年7月現在、保育園は再開して、Sさんもまた会社に出勤する日常を取り戻しました。
「相変わらず子どもは毎朝泣いて登園するんですけど、保育園に着いて友達を見つければ笑顔で駆け寄っていくし、ときどき『保育園大好き』と言っています。保育園での生活を楽しんでいるからきっと大丈夫じゃないかって、今は思っています」
ケース2:休職中にパートタイマーとして働くMさん
「新型コロナウイルスに感染するかもしれない」という恐怖や不安をおぼえて、4月初旬から会社に行けなくなったMさん。
「うつ病と診断されて欠勤扱いになったんですけど、じつは今、在宅業務の仕事が見つかり、都合がよい時間帯にフレックスのパートタイマーとして働いています。だけど、会社には退職を自分の口で伝える勇気が出なくて……。正社員として長く勤めたプライドもあって、本来の勤め先に戻れる可能性を少しでも残しておきたくて」
Mさんが自分の働き方に疑問を持ったのは8年前。病み上がりの子どもを保育園へ無理に行かせた結果、体調不良がぶり返してしまい、Mさん自身も心身に不調をきたしました。
「でも稼げるのは今のうちと、自分の気持ちを押し殺して働き続けました。子どものこと、自分のことを無視して全力で走っていました。でも燃料が切れて走る速度が落ちたときに、このままではダメになってしまうと、ようやく気づいたんです」
「あなたが守りたいものは何ですか?」とお聞きすると、Mさんはこう答えました。
「子どもと自分の健康ですね。子どもを犠牲にして自分の身体もボロボロになる働き方はよくないと思う。子どもが学校から帰ってくる時間に家にいられて、自分の身体にも負荷をかけない今の働き方は理想的です。収入はだいぶ減ったけれど、今はそれでいいってようやく思えました」
ケース3:ワーママをやめ子育てに専念することになったTさん
Tさんは外資系の会社に14年働いていた経歴の持ち主で、これまでに2度の産休育休を経験。現在は専業主婦です。
「2度目の育休から復帰したとき、大きな仕事を任せてもらえることになったんです。しかし、仕事と育児の両立が上手くいかずヘトヘトで…。そんな日々を過ごしていたところ体調を崩してしまい、『この大事な時に……』という上司からの言葉を聞いたとき、何かがプツッと切れたのを感じて退職しました」
そんなTさんが、会社を辞めた後に気づいたのは、働いている自分が好きで、子どもと遊ぶのが苦手であるという事実。
「子どもに『お母さん遊んで』と言われても上手く関われない時期があったんです。夫は家事も育児も私に任せっきりだし、低出生体重児で生まれた長男は養育や特別支援が必要で、いろいろと手がかかって……。双子が生まれてからは赤ちゃん返りも壮絶で、『もっと子煩悩なママのところに生まれたらよかったのに』と思うこともありました」
しかし退職から1年ほど経ったころ、Tさんは「結局は私が変わるしかないって、夫や子どもに期待することをやめました。どこか追いつめられるような、諦めの気持ちでした」と考えるようになりました。そんな心境のさなか、コロナ禍による外出自粛期間に突入。すると家族の関わりにも変化が起きます。
「コロナ禍で子どもが家にいることが増えても、不思議とストレスを感じなかったんです。また夫が在宅勤務になって、それまで家族で夕食を囲むのは1年に1回程度だったのが毎日になり、子どもの描く絵に夫が登場するようになったのも大きな変化ですね」
「今後はどうされたいのですか?」とお聞きしたところ、Tさんはこう答えてくれました。
「今すぐにでも、やりがいのある仕事をしたいと思うけれど、また自分がヘトヘトになって倒れることの繰り返しになってしまう。今は、興味のある分野でボランティア活動に取り組んでいます。子どもには、前向きに活動しているママの姿を見せていきたいです」
まとめ
2020年の3月以前――つまりコロナ禍以前までのワーキングマザーたちが抱える悩みは「育休復帰後は、終業時間まで退勤できない働き方や残業が発生するような働き方はできない……」「時短勤務をこの先続けていったら私のキャリアはどうなるの?」などが主でした。
しかし、リモートワークという新しい働き方が驚くべき速さで普及したことにより、ワーキングマザーたちの悩みや課題は、多彩に変化し、複雑化したと言えるでしょう。
今回紹介した3名も文字通り三者三様の悩みや課題を抱えています。Sさんは働けないことで逆に子どもとの関係性が悪化し、仕事の意義を改めて考えるように。Mさんはコロナ禍以前の働き方を見直すことになりました。そしてTさんは、コロナ禍が後押しするような形で「働かない」という大きな決断を下しています。
場所や時間といった働き方が変わると、暮らし方が変わり、新しい可能性や価値観に出会えます。今回の3人へのワーキングマザーへのインタビューから見えてきたのは、コロナ禍であっても自分らしい生き方を模索し続ける、女性の姿でした。
◆取材・文:みらいハウス
片岡 綾
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。「食べるために生きる」をモットーとし、食関連の執筆を中心に、女性のエンパワメント活動などに取り組んでいます。1児の母。
渡部郁子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバーです。子連れで取材活動に取り組む1児の母。育児と仕事にまつわる社会課題への支援事業や、子育てしやすい地域環境を構築する仕組みづくりを行っています。
野呂知子
東京・足立区にある育児期の女性支援拠点「みらいハウス」のライティングメンバー。地域と産後の女性の働き方に関心があり、19年5月から参加。小学生の子どもがいる。